さまざまな事情を抱えた人たちが利用するラブホテル。一般的には、ドキドキ、ワクワクしながら、ときにはソワソワと向かう場所だ。
今回は、ラブホでアルバイトをしていた2人のエピソードを紹介する。その体験は、まさに「天国と地獄」でくっきりと印象がわかれたかたちだ……。
いわくつきの“4階北側の部屋”
芦田祐樹さん(仮名・30代)がアルバイトをしていたラブホには、“いわくつきの部屋”があり、「その部屋には極力、お客様を案内しない」というルールが存在していた。
「“4階の北側”にある部屋は、かつて『入室したカップルの男性が消え、残された女性が飛び降りた』という事件が発生していて、その後も利用客から、『奇妙な音が聞こえる』とか『不気味な気配を感じる』といった苦情が絶えませんでした」
そのため、特に混雑している場合を除いて、その部屋の利用は避けていたという。
ある連休の夜、全ての部屋が満室となり、例の“4階北側の部屋”だけが空いている状況になった。そこへ、年齢不詳のカップルが来店したそうだ。
「彼らは、『どのホテルも満室だった』と強く利用を希望したので、先輩と相談し、“苦情は受け付けない”という条件でその部屋に案内することにしました」
そのカップルは“休憩”を選び、部屋に入った後しばらくして退室したのだが、廊下やエレベーターにある監視カメラに映る2人の様子が、芦田さんには不自然に見えたと話す。
「女性が男性に寄り添いながら、肩を震わせて泣いているように見えました。その映像を見た瞬間から、私は背筋が凍るような不安感に襲われたんです」
部屋はただならぬ状況に…
その後、清掃担当として部屋を訪れた芦田さん。そこで目にしたのは予想を超える光景だった。まさに地獄絵図。
「ベッドや浴室は血のようなもので汚れており、ただならぬ状況に、私はドキドキしていました。慌てて先輩に報告すると、『早く片付けろ』と言われ、無言で作業を進めるしかありませんでした」
芦田さんは手袋をはめ、目の前の現実を見ないようにして黙々と清掃を終えたものの、その時の緊張や恐怖は今でも忘れることができないという。
後日、先輩と監視カメラの映像について話していると、先輩が不気味な発言をしたことで、さらに恐怖に襲われることに……。
“女性が泣いているように見えると同時に、笑っているようにも見えた”
「それから“4階北側の部屋”には、客を通さないように警告が強化されました」
そして芦田さんは、その日を機にラブホのバイトを辞める決意を固めたそうだ。
「ラブホは、利用者の欲望とか感情とかがむき出しになる場所です。そのため、時として恐ろしい体験をすることもあるんだと、改めて感じた出来事でしたね」
芦田さんにとってのラブホのバイトは、トラウマの残る苦い経験となってしまったようだ。
スタッフ同士もオープンな関係の職場だった
一方で、社会人となった現在も、ラブホでの経験が活かされていると話すのは、近藤佳苗さん(仮名・20代)だ。
「ラブホの仕事は、その環境に慣れるまでが大変でした」
男性スタッフが多い職場なので、女性として恥ずかしい気持ちが強く、業務内容にも戸惑いがあったという。
「汚れたベッドシーツを交換したり、避妊具を補充したり、大人のおもちゃをアルコールで除菌したりする作業は、私にとっては新鮮で、少し気まずいものだったんです」
しかし驚いたことに、男性スタッフたちは特に恥ずかしさはなく、淡々と仕事をこなしていたという。そのため、近藤さんはその状況にも次第に慣れ、職場の“オープンさ”にも順応していった。
「冗談でおすすめのセクシー女優を紹介されたこともありましたね。『セクハラでは?』と思う人もいるかもしれませんが、むしろ気さくな雰囲気で働きやすかったんです」
職場の人たちとのコミュニケーションもスムーズにできるようになり、特に仕事を教えてくれた男性スタッフには、「今でも感謝している」と近藤さんは話す。
バイトの中でいちばん楽しかった
部屋の清掃時には、時々、“AVが大音量で流れっぱなし”ということがあるそうだ。
「これもラブホ特有の状況なんだと、すぐに慣れました。清掃のため部屋に入ると、まずはテレビを消してから作業を始めることがルーティンになりました」
業務にも慣れ、徐々にスタッフ間の信頼関係も深まっていったという。
「性格がよいスタッフに囲まれて、オープンな雰囲気の中で仕事ができたことは、今でも楽しい思い出です。ラブホで働いていたという経験は、あまり人に話せることではないけど、ラブホで得られたことは私にとっては大きいんです」
「ラブホはバイトの中でいちばん楽しかった職場だった」と話す近藤さんは、異性と仕事をすることに恥ずかしさが消え、職場の人たちとの距離感も適度に保てるようになった。
「ラブホでの経験がなければ、人間関係の大切さにも気づけなかったかもしれません」
<取材・文/資産もとお>
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