プレミアリーグは11節、全日程のほぼ30%を消化した。ブライトンの三笘薫は絶対エースとして確固たる地位を築き、オランダのAZからサウサンプトンに移籍した菅原由勢は1ゴール1アシスト。最下位にあえぐチームのなかで、ひとり気を吐いている。
一方、クリスタル・パレスの鎌田大地、アーセナルの冨安健洋、リバプールの遠藤航は、決して満足できない序盤戦だった。
鎌田大地、遠藤航、冨安健洋がこの冬に動く可能性は?photo by AFLO
鎌田には不安がある。
クリスタル・パレスのオリヴァー・グラスナー監督とは、フランクフルトでプレーしていた当時からの師弟関係だ。今シーズン、鎌田がプレミアリーグに新天地を求めた背景に、グラスナーの"直電"があったことは国内外の報道でも明らかにされている。11節終了時点で全試合に出場している事実が、信頼の証(あかし)だ。
だが、1勝4分6敗・8得点15失点。鎌田は本領を発揮するまでに至らず、11節のフラム戦では76分に一発レッド。周囲の期待を裏切った。
さらに、鼠径部の痛みに耐えながらプレーしていた守備的MFアダム・ウォートンが限界に達した。早ければ来年1月初旬に手術→長期欠場の公算が大きくなり、鎌田は得意とする二列目中央から、一列ポジションを下げざるをえない。
ハイ・インテンシティのプレミアリーグのなかでも、最も圧が要求される領域だ。二列目からのボールさばきに定評のある鎌田に適しているとは思えない。守備的MFに起用された試合では、対人動作で戸惑うケースも散見する。
また、クリスタル・パレスの上層部がグラスナー解任に動いているとの噂がもっぱらで、後任の最有力候補はデイヴィッド・モイーズだという。ダイレクト志向が強く、ロングボールを好む。マンチェスター・ユナイテッドを率いていた当時も、香川真司の技巧をまったく理解せず、起用しなかった。
クリスタル・パレスを取り囲む環境が、鎌田にはマイナスに作用している。モイーズが新監督に就任するのなら、出番は減少するだろう。選手はピッチに立ててこそ、存在価値を証明できる。マッチフィットネスを維持するためにも、移籍を積極的に検討すべきだ。
【冨安が放出される唯一の気がかり】冨安健洋はケガに苦しんでいる。今シーズンのプレータイムはわずか6分。右ひざ、右ハムストリングの状態は思わしくない。
彼が所属するアーセナルは、11月23日のノッティンガム・フォレスト戦から来年1月5〜6日に予定されているFAカップ(対戦相手未定)まで、3〜4日に1試合の過密日程が続く。
当然、ひとりでも多くの戦力が必要だ。187cm・84kgと体躯に恵まれた冨安は空中戦に強い。対人動作にすぐれ、左右両足で精度の高いフィードを駆使するハイスペックなDFだ。なおかつ、最終ラインすべてに適応する高度な戦術眼まで装備している。20年ぶりのリーグタイトル奪還を目指すアーセナルにとって、日本代表が誇るワールドクラスのDFは極めて貴重なピースだ。
したがって、「度重なる負傷はマイナス材料」「チーム内の序列が低下した」などと悲観的な情報が拡散していても、冨安の立場が揺らいでいるとは考えにくい。
なぜなら、すべての情報が信憑性に乏しく、推測の域を出ないからだ。イタリアのスポーツ紙『カゼッタ・デッロ・スポルト』が報じた「インテルが冨安に興味津々」も、膨大な紙面を埋める"おとぎ話"にすぎない。
しかも、ミケル・アルテタ監督とキャプテンのマルティン・ウーデゴールが「トミ(冨安の愛称)は必要不可欠」と公式サイトで語り、DFリーダーのウィリアン・サリバ、ベン・ホワイトといった主力が「性格も穏やかで付き合いやすく、何事に対しても万全の準備を怠らない」と証言したように、冨安はアーセナルで大きな信頼を勝ち取っている。
最終ラインならどこでもこなす汎用性、サッカーに取りくむ真摯な姿勢は、リスペクトすらされている。それほどの実力者を来年1月の移籍市場で手放す確率は極めて低い、と考えるのが妥当だ。
唯一の気がかりは、アルテタとともに人事を掌握していたエドゥ(スポーツディレクター)の辞任である。後任が冨安のコンディションに大きすぎる不安を抱いた場合にかぎり、放出要員にリストアップされるリスクが浮上する。
【現場の声は「遠藤絶対死守」で一致】開幕前から、遠藤航の周囲はかまびすしかった。
リバプールの新監督に就任したアルネ・スロット監督がより攻撃的なタレントを求め、中盤の一角にライアン・フラーフェンベルフを起用。ユルゲン・クロップ体制ではレギュラーだった遠藤が、控えに降格した。
突然、不要論が湧きあがる。リバプールOBのジェイミー・キャラガーが「間違いなく夏の市場で放出される」と断言し、彼は依然として「構想外」と語り続けている。今夏にスロットがマルティン・スビメンディ(レアル・ソシエダ)獲得に動いていた事実も、遠藤放出の噂に拍車をかけた。しかし......。
「ワタ(遠藤の愛称)の重要性がわかっていない」(フィルジル・ファン・ダイク)
「ワタが絶対に必要だってことは、選手がいちばん理解している」(アレクシス・マック・アリスター)
「ワタが放出されるって?ばかげた噂だ」(モハメド・サラー)
現場の声は"遠藤絶対死守"で一致していた。
そもそも遠藤不要論は、キャラガーをはじめとする一部メディアの憶測に端を発している。リバプールOBでありながらチーム内の情報にうとく、失言を繰り返す男に配信系のメディアが乗っただけだ。移籍市場に詳しいジャーナリストから「遠藤放出」の一報は聞こえてこない。
また、スロットがフェイエノールトを率いていた当時に上田綺世を冷遇したため、「日本人を理解していない」というネガティブな憶測に基づく報道もあった。「次の犠牲者は遠藤か!?」は飛躍しすぎであり、プレータイムの激減を移籍に結びつける発想は、あまりにも強引だった。
かつて、長谷部誠はヴォルフスブルク、フランクフルトで戦力外と言われながら、実力で定位置を奪い取った。遠藤本人も「スタメンも控えも関係ありません。与えられた仕事をこなすだけです」と決意を新たにしている。そしてスロットは、日本代表キャプテンの実力をあらためて認めたようだ。
【欧州の移籍市場は摩訶不思議】10節のブライトン戦は77分から、11節のアストン・ヴィラ戦は87分から出場。献身的、かつ圧の高いプレーで最終ラインを完全にプロテクトした。プレータイムこそ短いものの、スロットが遠藤に託した新しいタスクは、勝利を確実にする"クローザー"だった。
今シーズンのリバプールはプレミアリーグ、チャンピオンズリーグ、FAカップ、カラバオカップの四冠がまだ視野に入っている。全ポジションのローテーション活用が勝負のカギを握り、遠藤は試合を畳むための切り札として、再び脚光を浴びはじめた。同じ日本人として痛快じゃないか!
移籍市場は魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跋扈(ばっこ)する摩訶不思議な世界である。おとぎ話が実現する可能性も捨てきれはしない。ただ、監督・同僚に信頼されている冨安と遠藤が、おとぎ話の主人公を演じる確率はゼロに等しい。
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