11月11日(月) 12:00
PGAツアーのフェデックスカップ・フォール第6戦、メキシコで開催された「ワールドワイド・テクノロジー選手権」を制したのは、25歳の米国人選手、オースティン・エックロートだった。
最終日を首位から1打差の4位タイで迎えたエックロートは出だしからバーディーを量産。タイガー・ウッズが設計したエル・カルドナルで、かつての“タイガー・チャージ”を彷彿させる9アンダー「63」の見事なゴルフを披露し、2位に1打差のトータル24アンダーで勝利をつかんだ。
とはいえ、優勝が確定したのはホールアウト後だった。2位に3打差の単独首位で迎えた、72ホール目の18番パー5。2オンを狙ったショットはグリーン右下の「絶対に行ってはいけない」と言われるチッピングエリアに転がり落ちた。
グランドスタンドの影が大きく広がり、ボール周辺も影のなか。構えにくく、打ちにくいところから、高くせり上がったグリーンに向かって打った3打目は、グリーン面にわずかに届かず、転がり戻った。
ともすれば、焦って舞い上がりそうなシチュエーションだったが、エックロートは冷静さを保ち、4打目は見事なピッチショットでピン2メートルに寄せた。だが、パーパットを沈めることはできずにボギー。2位との差は2打に縮まり、スコアリングテントのTVモニターで後続組のプレーを見つめた。
そして、エックロートを追うカールソン・ヤングが18番でイーグルパットをカップに沈めそこなった瞬間、エックロートの勝利が決まり、相棒キャディと抱き合って喜んだ。
エックロートは名門オクラホマ州立大学を卒業後、2021年にプロ転向。下部のコーン・フェリーツアーを経て、23年からPGAツアーで戦い始め、2年目となった今年の3月に「コグニザントクラシック in ザ・パームビーチズ」で初優勝を挙げたばかりだ。
悪天候に見舞われたコグニザントクラシックは、今季初のマンデー・フィニッシュとなり、月曜日の朝を2位に1打差の単独首位で迎えたエックロートは「第1打から終始、震えていた」と振り返ったが、見事、初勝利を挙げ、「子どものことからの夢がとうとう叶った」と感無量の様子だった。
今週、さらなる勝利を挙げ「自分は本当にこのツアーで勝てるということを実証できたという意味で、2勝目は本当に特別。9アンダーで回ることができた今日のゴルフは、生涯で最高のゴルフ。とてもスペシャルだった」と、静かな口調で喜びを語った。
今季はプレーオフ・シリーズ第2戦「BMW選手権」まで進出したものの、フェデックスカップ・ランキング45位で上位30人のみの最終戦「ツアー選手権」出場を逃した。
「僕は長期の目標を立てて目指すことは苦手。短い期間の目標を立て、ひとつクリアしては次、という具合に歩んでいる。今季はツアー選手権に出られなかったので、来季はトップ30に食い込んで最終戦まで進むこと、そしてライダーカップの米国代表選手になることを目指したい」
初優勝のときも2勝目を挙げた今回も、エックロートを見守る愛妻サリーの姿があった。生後18カ月のときに同じベビーシッターに預けられ、運命の出会いをした2人は、やがて結婚し、夫がPGAツアー選手になってからも、いつも一緒だ。
「サリーが毎週のように72ホールを歩いて応援してくれることも、とてもスペシャルだ」
そう言って、妻への感謝を口にした直後、「予選通過ができたときは72ホールです」とわざわざ言い直したところに、エックロートの謙虚な人柄が滲み出て、思わず苦笑させられた。これからも応援したくなる若者である。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)