11月11日(月) 11:00
加藤登紀子さん(80)。80代をむかえてなおステージの上で躍動するなど、あふれるバイタリティの源泉は、おときさん流の“さかさ思考”にあるという。
“さかさ思考”とは、常識をひっくり返して、新しい視点から物事を見たり、考えたりすること。おときさんは、年齢を重ねるごとに新たな発見や気づくことが多くあり、人生にとって“さかさ”の視点はとても大切だと実感しているそうだ。
たとえば、人とうまくコミュニケーションをとることに悩む人は多いだろう。この鉄則は、“相手の話を黙って聞かない”こと。
「『人の話は最後まで黙って聞きなさい』と、言われるけど、私はずっと違和感を覚えてきた。だって、人の話を真剣に聞いていれば、相づちを入れたり、自分の意見を伝えたりしたくなって、黙っていられなくなるのが普通でしょ?
黙っているのは“聞いているふり”をしているだけじゃないか。だから、相手の話を黙って聞かない。“そうですね”と、反応するだけじゃなく“わかりません”“それは違うかもしれません”と、お互いの距離を埋めていく言の葉を届け合うほうが、コミュニケーションが成立していると感じるの」
対話を大事にするというのは、ひとりでいるときにも当てはまる。
「私は家にいるときも、よくしゃべる。“あれ、どこに置いたかな?”とか、“こんな失敗して、バカじゃないの、あなた(笑)”って、ひとりごとを言いながら過ごす。
なぜなら、脳は暇が苦手だから。自分に話しかけることで脳を喜ばせるの。自分との対話は、楽しく生きるための技の一つです」
そして困ったときや、怒りたくなったときなど、心がネガティブな感情で満たされてしまうようなときは、ブレーキをかけるために大きな声で笑うといいそうだ。
「最初は作り笑いでも構わない。不思議なもので、笑顔を作って大きな笑い声を聞くだけで、脳は“この人はいま、幸せなんだ”と錯覚してしまう。
困っているときというのは、何か解決しないといけない問題を抱えている状態。そんなとき、一度笑うことで気持ちが落ち着き、リフレッシュして冷静に問題と向き合えるようになる。ピンチの際は“おもしろいことになったわね”と自分に言い聞かせてみるといい」
笑い声は“破裂音”。その弾けるような元気な音を聞くと、脳はハッピーになれる。これは、歌手生活60年の経験から得た、おときさんの知恵だ。さらに、本当に困って周囲にSOSを出すときも、元気よく笑顔で助けを求めたほうがいいという。
「ヘルプをお願いするときに、悲壮感丸出しで“どうか助けてください”なんて言ったら、相手は怖がるでしょう。SOSはなるべく明るく、ネガティブなお願いにならないほうが、相手も受け入れやすいものなんです」
悲しそうなSOSに人が寄ってこないのは、仕事でも同じだそう。
「深刻な顔をして“出資してください”なんて言ったら、相手は引いてしまいますよ。助けを求めるときでも、“私と一緒に仕事をしたらいいことがある”と思わせる雰囲気を醸し出すことが大切です」
これらがおときさん流の“さかさ思考”。悶々とした時代だからこそ、こうした発想は人生を明るく生き抜いていくためにいっそう必要性を増しているといえるだろう。
「私は常識にとらわれずに人生を楽しむことが好き。だから、年齢も81歳を逆さにして、18歳になった気持ちになれば、もっとポジティブに生きられる(笑)」
■「上手に脳を喜ばせて元気になろう」
閉塞感を時代のせいにしないで、積極的に“自分らしさ”を求めていく――。大切なのは、これらを心に置いておくだけでなく、きちんと行動に移すことだ。現在、自分らしく生きている50代の中で、おときさんが注目する有名人がいるという。
「最近のキョンキョン(小泉今日子)を見ていると、50代をうまく乗り切ってリスタートしたな、と思って見ています。彼女は、これまでの常識や固定観念にとらわれることなく、自分らしく生きていますね。同世代の50代の人たちに勇気を与えてくれるオピニオンリーダーのような存在ではないでしょうか」
最近は、“元気の秘訣は何ですか?”と、質問される回数が増えたというおときさん。答えはほかならぬ“さかさ思考”だ。
「元気というのは、必ずしも身体的なことだけでなく、その人がこれまで生きてきた中で、どのような人生を選択し、どのように乗り越えてきたか。そういった生き方そのものが、影響してくると思っているの。つまり、気持ちの問題がとても大きいんですよ」
さかさ思考は長生きの秘訣でもあるのだろうか。
「医学的にはわからないけど、精神的な部分では、“私はもう年だから”と、考えないようになるじゃないですか。笑いながら発想や視点を変えることで、脳を喜ばせて元気になればいいんです」
人生100年まで、あと20年……。
「まだ10年ぐらいは人生楽しめると思うので、次は91歳のときに、19歳になったつもりでまたリスタートしようかな(笑)。10年かかって1歳だから、成長はほとんど止まっているけど、その分、1歳しか年を取らないからいいかもね」
おときさんは、今日も常識をひっくり返しながら、元気いっぱいにわが道を行く――。