司法による締め付け強化を背景に進む「ヤクザ版M&A」の実態とは?

京都市下京区で1989年に建設されて以来、警察による家宅捜索もたびたび受けた会津小鉄会の旧事務所。…

司法による締め付け強化を背景に進む「ヤクザ版M&A」の実態とは?

11月11日(月) 7:00

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京都市下京区で1989年に建設されて以来、警察による家宅捜索もたびたび受けた会津小鉄会の旧事務所。2021年に解体され、敷地は任天堂に売却された

京都市下京区で1989年に建設されて以来、警察による家宅捜索もたびたび受けた会津小鉄会の旧事務所。2021年に解体され、敷地は任天堂に売却された

日本製鉄によるアメリカの製鉄大手・USスティールの買収計画が、日米間の懸案事項として持ち上がる中、ヤクザ業界でも大型のM&Aが進行している。六代目山口組の直参組長が、京都の老舗独立組織・会津小鉄会の会長を襲名することとなったのだ。

山口組を巡っては、他の独立組織との糾合もささやかれており、警察の厳しい取り締まりや法令の罰則強化で業界が冷え込む中、食い扶持を確保するために大同団結を図ろうとする"ヤクザ版M&A"が急加速する可能性がある。

■幕末からの伝統組織も組織統合 今回の急報は、業界関係者や当局を騒然とさせた。山口組の直参組織だった淡海一家の高山誠賢総長が9月、八代目会津小鉄会の会長を継承した。幹部ポストには淡海一家の首脳陣も名前を連ね、同組織と会津小鉄会が統合するかたちとなった。実話誌記者が解説する。

「会津小鉄会は、幕末に京都の警護にあたった会津藩に出入りした侠客の会津小鉄こと上坂仙吉を初代とする京滋エリアの老舗の組織です。90年代までは京都進攻を図る山口組と熾烈な抗争を繰り広げましたが、その後は山口組が後見組織となって距離を縮めました。

このため、2017年に行われた七代目継承にあたっては、六代目側に近い派閥と、神戸山口組を後ろ盾とする七代目会長側とで、本部事務所を巡って乱闘事件が起きて、両派が七代目を名乗る異常事態に発展しました。そして、山口組の分裂抗争の趨勢(すうせい)が固まった2021年に六代目側が主導して一本化が図られ、今回は七代目会長が総裁となり、山口組直参だった高山会長による八代目体制が発足したのです」(実話誌記者)

弘道会出身で、現在の山口組の本流を歩んできた高山会長。六代目側の高山清司若頭が2013年に逮捕されて懲役6年の判決を受けた京都の建設業者に対する恐喝事件では、共犯として服役した。一方で、会津小鉄会との関係も深い。

「高山会長は、四代目会津小鉄の故・髙山登久太郎氏の実子です。登久太郎氏はバブル期を中心に10年以上にわたってトップに君臨し、1991年の暴対法施行時にメディアに頻繁に登場したり、創価学会員を公言するなど話題を集めた人物でした。

ただ、我が子にはヤクザを継がせたくなかったそうで、高山会長は東海大を出て信金に勤めたのちに独立して、滋賀で金融や建設業など堅気の仕事をしていました。空手の有段者で師範を務めるほどの腕前だそうです。

その後、会津小鉄会が組織ぐるみで資金注入した沖縄のリゾート地の土地買収が焦げ付き、1997年に登久太郎氏が引退。登久太郎氏の威光が陰りを見せると、会津小鉄会と高山会長との間に不協和音が生じ、2003年に高山会長は弘道会に加入し、09年に直参に昇進しました」(前出・実話誌記者)

■事務所跡地は任天堂が購入 古都・京都を不抜の拠点に、指定暴力団として当局のマークを受ける会津小鉄会。最近は、取り締まり強化などで組員数の減少が続いていたようだ。

「今回の襲名前の構成員は40人程度。乱闘が起きた本部事務所を売りに出して、跡地は同じく京都を地場とする任天堂が買い取った。他組織とシノギでバッティングしても押し切られる場面があったが、山口組出身で会津小鉄会ともなじみのある高山会長がトップに立つことで、今後は引かずに張り合えるだろう。組織の象徴とも言える瓢箪(ひょうたん)の代紋も継続使用することとなり、傘下組織となる事態は防げた」(暴力団事情に詳しいA氏)

会津小鉄会の事務所跡地を含む菊浜エリアは任天堂創業家の財団などによる再開発プロジェクトが進められている

会津小鉄会の事務所跡地を含む菊浜エリアは任天堂創業家の財団などによる再開発プロジェクトが進められている

もちろん、今回の襲名劇を主導した山口組には全国進攻作戦の強化が透ける。

「京都を実質的に手中に収めたと言えます。これまでは後見人を務めることで他組織のトップを選定したりしてコントロールしてきたが、今回は山口組の人物をトップに据えるということで一段とギアを上げてきた印象です。

千葉などを拠点とする双愛会もトップが空位で、山口組から新会長を送り込まれるのではないかという情報があります。企業が他社を傘下に置く際に新社長を派遣するのと同じ手法を採用し、母屋を握っていくのではないでしょうか。

いまのヤクザは喧嘩も金儲けもしにくいので、跡目相続の際に目立った有力候補が現れにくい。だから、大組織から落下傘で新組長が下りてきても受け入れざるを得ない状況が潜んでいるように思われます」(前出・実話誌記者)

相手の縄張りを荒らし、襲撃を繰り返して力ずくでねじ伏せるというヤクザの行動原理は、抗争事件の罰則が厳しくなった昨今では実行犯は無論、幹部の長期服役と言ったリスクが待ち構える。血で血を洗う直接的な抗争よりも、武力を背景にしたM&Aが覇権争いの有効手段となりそうだ。

文/大木健一写真/時事通信社、山内財団

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