冒頭の場面は、オペラ座バレエ学校の入学試験。受験する少女たちは、パリの高級住宅街の住所とコンクールの受賞歴を誇らしげに語る。一方、ネネの口から飛び出すのは、「ディーパンの闘い」や「レ・ミゼラブル」でおなじみの郊外団地の住所と、映像から独学でバレエを学んだという異色の経歴。非エリートの環境からバレエ学校を目指すのは、「リトル・ダンサー」の炭鉱町出身の少年ビリーと同じだが、黒人のネネの場合は人種のハンデも負っている。そんなネネの入学を認めるかどうか、試験官たちが議論する場面は、この映画の最初の見どころだ。
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議論は二分する。反対派を代表する校長のマリアンヌ(マイウェン)は、群舞での美的統一感と黒人の体形変化のリスクを理由に不合格を主張。かたや賛成派代表のバレエ団総監督は、多様性を理由にネネをトップ合格させる。そして、同じ議論は、校内で問題を起こしたネネの懲罰委員会の場でも蒸し返される。「白きバレエの権威」の伝統を固守するべきと主張する校長派と、時代に合わせて柔軟に多様性を取り入れるべきと主張する総監督派は、ここでも対立。正論を言えば、伝統の継承には柔軟性が必要なことを理解している総監督派のほうに分があるように思えるが、両者とも大事な点を見落としている。それは、議論の中心にいるのが、傷つきやすい心を持ったひとりの人間であることだ。
教師にタメ口を聞き、日本的なド根性で練習に励むネネは、めったなことでは落ち込まないポジティブ少女。それでも、バレエ学校の狭い世界で偏見にさらされ、日々嫌がらせを受けるうち、「ここに私の居場所はない」と思い詰めるようになっていく。それは、必要以上にネネにつらくあたる校長派の罪であると同時に、ネネを多様性の実験台にしてしまった総監督派の罪でもある。この映画が古典的な少女漫画レベルの枠を超えているのは、後者の問題点を指摘する視点を備えているからだ。多様な人間を受け入れるなら、その人がのびのびと実力を発揮できる場を予め整えておく必要がある。あらゆる社会に共通する原則を、ネネは気づかせてくれる存在なのだ。
ネネを演じるのは、養父ルイ・ガレルと養母バレリア・ブルーニ・テデスキの監督作に出演経験のあるオウミ・ブルーニ・ガレル。パリの街中に飛び出したネネが、ストーリート・ミュージックに合わせて即興で踊る場面の、スパークするダンスが魅力的だ。
(矢崎由紀子)
【作品情報】
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ネネエトワールに憧れて
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