第73回のアカデミー賞を受賞し、批評的にも興行的にも大きな成功を収めた『グラディエーター』(00)。歴史スペクタクルの人気を再燃させた作品としても知られるこの名作から24年、続編『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』(11月15日公開)が、いよいよ劇場公開される。西暦200年過ぎの帝政ローマで、奴隷から剣闘士=グラディエーターとなった男の復讐の行方を活写。前作から十数年後という設定で、動乱の色が濃くなったローマ帝国の情勢を反映しつつ、ダイナミックな物語が展開する。
【写真を見る】巨匠リドリー・スコットがあの名作の続編『グラディエーターII』制作秘話を語る
監督は前作に続いて巨匠リドリー・スコットが担当。近年も『最後の決闘裁判』(21)や『ハウス・オブ・グッチ』(21)、『ナポレオン』(23)と力作を連打しているが、その勢いもそのままに、ドラマもアクションも前作以上の強度で観る者の心を揺さぶってくる。今年11月で87歳になろうとしているスコットは、なにを考え、なにを思って本作に取り組んだのか?オンラインでインタビューを行なった。
スコットが自身の監督作の続編を作ることは、きわめて珍しい。例外は『エイリアン』(79)の前日譚的な性質を持つ『プロメテウス』(12)や『エイリアン:コヴェナント』(17)くらいだ。「『プロメテウス』を撮る前は、『エイリアン』シリーズはすでに死にかけていた。それを甦らせようと思ったことが『プロメテウス』に取り組んだ理由だ。でも、『グラディエーター』の続編は少し事情が異なる。前作は反響が大きい作品であり、“不朽、不滅”というテーマを持っていた。暴力的な映画ではあるが、多くの観客に受け入れられた理由はそこにあると思う。前作で主人公マキシマスは愛する妻のもとに戻ろうとする。境遇こそ異なるが、本作の主人公ルシアスも同様だ。妻への忠誠という高潔さを、再び描こうと思ったんだ」とスコットは語る。そういう意味では、「グラディエーター」シリーズは愛の物語とも言えるかもしれない。
■主演、ポールメスカルの強みは舞台経験にあり!?
前作で主演を務めたラッセル・クロウはアカデミー賞で主演男優賞に輝くほどの大熱演をみせた。今回、新たに主演を務めるのは『aftersun/アフターサン』(22)で同賞にノミネートされ注目を集めたポール・メスカル。鍛え抜いた肉体はもちろん、押し殺してもにじみ出る激しい怒りなどの内面の表現も目を見張るものがある。「テレビシリーズ『ふつうの人々』でポールを初めて観た。彼は名優リチャード・ハリスを彷彿させるものがある。同じアイルランド出身ということもあるかもしれないね。ともかく、本作の脚本を執筆していうちに主人公の顔がポールに見えてきたんだ。声をかけたら二つ返事で引き受けてくれたよ」
メスカルの強みは舞台経験にあるとスコットは語る。「私自身は舞台を観ることは少ないが、結果的に演劇出の役者を起用していることはよくあるね。前作のラッセル・クロウもそうだった。ポールは舞台俳優らしく、大きい芝居ができるんだ。例えば、コロセウムで大観衆に向かって、ローマ帝国のひどい仕打ちを訴える場面がある。シェイクスピアの『ヘンリー五世』を演じるローレンス・オリビエのような資質が求められるシーンだ。あそこにはまさしく、ポールの舞台俳優として経験が生きていた」とスコットは振り返る。
■デンゼル・ワシントン演じる冷静なヤバい男、マクリヌスとは
本作にはもう一人、注目すべき俳優が出演している。アカデミー賞俳優デンゼル・ワシントンだ。「デンゼルとは『アメリカン・ギャングスター』で一度仕事をしているが、あのときの彼との仕事は本当にうまくいった」とスコットは述懐する。「1作目の『グラディエーター』ではオリバー・リードという、クレージーな個性を持つ役者がいい味を出してくれた。今回のデンゼルもそれに近いキャラクターだが、クレージーではない。冷静だ。本作で演じるのは武器商人で、ローマ帝国が機能不全に陥っていることを嗅ぎつける。彼はこう考えるんだ、『皇帝たちを破滅に追いやることができる。そして私が玉座をいただく』とね。とにかくデンゼルは抜群に上手い俳優なので、イタリア訛りとか細かいことはどうでもよくなる。そのままやらせるのが一番だったね」デンゼルが本作で演じた武器商人のマクリヌスは、ルシアスを剣闘の世界に引き入れるキーパーソン。彼ら2人の関係の変化もスリリングな見どころだ。
■技術の進歩により作り上げられた圧倒的な古代ローマの実在感
もう一つ注目したいのは、やはり古代ローマを再現したスペクタクル。とりわけ、コロセウムの大観衆をビジュアル化したVFXは前作でアカデミー視覚効果賞を受賞している。以後も、デジタル技術は飛躍的に進化を遂げたが、本作のテクニカルな側面におけるチャレンジも訊いた。「本作ではルシアスがコロセウムで狂暴なヒヒの群れと戦う場面があるが、あのヒヒの毛並みは大変だったね。ヒヒは肉食動物で、実際に遭遇したら命の危険にさらされる。そこでヒヒの群れをアリーナに放つというアイデアが生まれた。その中には無毛症のヒヒが一匹混じっているが、以前その種の映像を観たことがあり、『まるでエイリアンみたいだ』と思ったことを覚えているよ」
VFXを交えて作られたこのシーンは、まさに見どころの一つ。「ルシアスはそのヒヒに負けじと噛みつき、ヒヒは悲鳴を上げる。そして逆に噛まれた彼も悲鳴を上げてヒヒをビビらせるんだ。壮絶だが笑えるシーンになっている」とスコットはニヤリ。他にもコロセウムでは、グラディエーターvsグラディエーターはもちろん、サイに乗った戦士とのバトル、水を張ったアリーナにサメを放った海戦風の戦いなど、趣向を凝らしたバトルが繰り広げられる。
前作と同様に、本作でも合戦のスペクタクルは見せ場だ。冒頭はまさにそれで、北アフリカの海岸を舞台に、ローマ帝国軍と現地の兵士たちの死闘が展開。「あのシーンは私が『キングダム・オブ・ヘブン』を撮った場所と同じところで撮影した。おそらく観客は、それには気づかないだろう。三台の大型の船を新たに造り、それをCGで増やして50隻の映像を作り、海戦を迫力のあるものにした。これはうまくいったシーンだと思う」とスコットは胸を張る。
本作の物語の根底には、ローマ帝国に虐げられてきた民衆の怒りがある。これは21世紀の観客になにを訴えるのだろう?「私は『キングダム・オブ・ヘブン』や『ナポレオン』など多くの歴史ドラマをつくってきたが、歴史を経験しても人間はなにも学ばないね。人が戦争を強いられるのは、大抵は宗教や独裁者のためだ。それはいまも変わらない。残虐な方向に舵を切った独裁者はいま、ロシアにいる。イスラエルやガザで起こっていることは宗教的な争いだ。そして市民はデモ活動を行なう。しかし答えはどこにあるのだろう?」と、スコットは熱く語る。
スコット監督がエンタテインメント性と社会性の両方についてこだわり抜いた『グラディエーターⅡ英雄を呼ぶ声』。鬼才リドリー・スコットが放つ剛速球を、しっかり受け止めてほしい。
取材・文/相馬学
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