石井裕也監督が平野啓一郎の同名長編小説を映画化した『本心』の公開記念舞台挨拶が11月9日にTOHOシネマズ六本木ヒルズで行われ、池松壮亮、三吉彩花、水上恒司、妻夫木聡、田中裕子、石井監督が出席した。
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いまからさらにデジタル化が進み、リアルとヴァーチャルの境界が曖昧になった少し先の未来、2025年を舞台にした本作。亡くなった母の“本心”を知るためにAIで彼女を蘇らせることを選択する青年と、彼を取り巻く人間の心と本質に迫るヒューマンミステリーだ。
4年前に原作と出会い、石井監督と話し合いを重ねながら映画を完成させたという池松は「感無量です」と上映後の会場に立ちしみじみ。「原作に出会って公開まで4年かかりました。出会った当時は2020年。もう少し先の未来だと思って取り組んできましたが、映画と時代が追いかけ合いっこのようになって、この国にとって特別なタイミング(で公開ができた)。AIがどんどん自分たちの生活に寄ってきているなかで、映画として同時代の観客の方と共有できることをうれしく思っています」といまの時代に届けるべき映画になったと思いを馳せ、「この映画を実現すべく力を注いでくれた」と石井監督に感謝。「今日を一緒に迎えられて、これだけすばらしい共演者の方、これだけ多くの方に観ていただいて誇りに思いますし、とても幸せに思います」と熱い想いを口にしていた。
これまで映画、ドラマあわせて8作品でタッグを組んできた池松と石井監督。9度目のタッグとなった2人だが、池松は「最初に出会ったのは20代。長い時間を共にしてきた」とにっこり。司会から出会った当初に比べて石井監督に変化や進化はあるかと聞かれると「あまりないですね」と目尻を下げつつ、「出会ったころからいまに至るまで、石井さんは自分にとってずっと偉大。映画監督として映画作家として、飽くなき探究心と高いビジョンを持って、深い洞察力を持って、常に時代とにらめっこしながら人にはできない、類を見ない映画を生みだし続けてきている」と並々ならぬ信頼感を吐露。「変わらないことの方が思いつく。変わったところは…ちょっとお酒が弱くなったかな。これは退化ですね」と話して周囲を笑わせていた。
池松と妻夫木は、石井監督による『ぼくたちの家族』(14)で“兄弟役”として初共演を果たしていた。縁の深い3人だが、妻夫木は「お二人に出会った時に、人を尊敬するにあたって年齢って関係ないんだと思った。ただの仕事仲間というよりも、親族に近いものを感じるところがあって。だからこそ信じられるものもあるし、なにがあっても諦めないことができる間柄」と特別な絆を感じているという。池松も「妻さんと共演できるたびに、特別な安心感と喜びがある」と共鳴。「お二人がおっしゃったように僕にとっても特別」と明かした石井監督は、「親戚のよう。仕事仲間なんですが、誰か一人でも道を誤らない限り、人生を並走していくんじゃないかと思う。大切な人たちです」と力を込めていた。
本作ではAI技術が急激に進化する世界が描かれているが、池松演じる朔也の母親役に扮した田中には「いまと昔で映画づくりにおいて、なにが変わってきたと思うか?」という質問が投げかけられた。田中は「作品によって違うかもしれませんが」と前置きしつつ、「ひとつのシーン、ひとつのカットに2日くらいかけたりすることもありました」と回想。吉田喜重監督による1988年公開の映画『嵐が丘』の撮影現場では、富士山の中腹でいい霧が流れるのを「2日待ったことがある」という。「朝、暗いうちから、かつらもメイクも衣装も着て、いい霧がやって来るのはいつかとずっと待っているわけです。1日目はダメで、2日目に『よーい!』となった時に、男の方が倒れて死ぬシーンなんですが、やはり待ちに待ったシーンだったのでその役者さんも頑張って演じて、ついつい頑張って長くなるわけです。そこで吉田監督が『早く死になさい!』とおっしゃったのを覚えています」と貴重な秘話を公開して、会場を沸かせた。「憧れです」と笑顔を見せた石井監督は、「いまは霧がないとなったらVFXで足すことが技術的に可能ですが、そこからこぼれ落ちるものづくりの想いやエネルギーのようなものがきっとある。そういった軸は変えずに、新しい技術を取り入れることを考えないといけない」と改めて刺激を受けていた。
また、それぞれが2025年の目標を掲げるひと幕もあった。先日行われた本作の完成披露舞台挨拶では、「四十肩なんです」と告白していた妻夫木は、「治りました」と報告しながら「健康第一」と希望。水上は「いい年だったなと思います」とこの1年に充実の表情を見せ、「たくさん失敗して、ちょっとうまくいったり、ちょっとだけ結果が出たり。いま、そういうことをちゃんとできているような気がする。先輩方のような役者になっていって、超えていかないといけないとも思います。20代はなるべくいろいろな現場を経験して、失敗して、ちょっと成功して、また頑張ろうということをやっていきたい。ますます頑張ります」と誓っていた。国内外を飛び回った年になったという三吉は、「来年は20代最後の年。自分の人生の新章がスタートするという楽しみもあります。さらに充実した1年を送れるように頑張ります」と目を輝かせ、池松は「自分の体、心で世界に触れていきたい」と映画の内容になぞらえながら語っていた。
最後に石井監督は「今後さらに、AIやテクノロジーが発展していろいろと便利になる。人の心、本心が必ず問われることになる。それに先んじて、映画で描けたことの意義をものすごく感じています」と力強く語り、「いま表現者、映画制作者として立ち向かうべき最大のテーマに挑めたことは、僕の誇り。うれしく感じていますし、やってよかったなと思っています」と胸を張っていた。
取材・文/成田おり枝
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