一時は“ホームレスギャル漫画家”などのセンセーショナルな肩書で、メディアに引っ張りだこだった浜田ブリトニーさん。現在2児を育てるシングルマザーである彼女が、11月1日、Kindle書籍を刊行した。タイトルは『スピリチュアル難民の私たちへ: 私たちはどうしてここまで騙されるのか? 脱スピリチュアル』。開運に傾倒し続けた日々と気づきへの転換点について、浜田さん本人に聞いた。
相談相手がいない状況で、占いにハマってしまう
――スピリチュアルに傾倒していたとは知らず、率直に驚きました。きっかけはいつで、何だったのでしょう?浜田ブリトニー(以下、浜田):今から8年ほど前くらいのことだと思います。その当時、起業して日の浅かった私はいわゆる投資詐欺に引っかかってしまいました。経営に関する悩みの尽きない毎日を送っていましたが、さりとて相談できる相手もいません。そんなある日、私は占いに行くことにしました。生年月日などの簡単な情報を記入し、目の前に座っただけで、占い師は「あなたには仕事関係の悩みがある」とズバリ言い当てたんです。お香が香り立ち、謎めいた水晶の山に囲まれた部屋で見る占い師は、眼光の鋭い“本物”に思えました。結局、相談料が1万円とパワーストーンが4万円弱の、計5万円ほどを支払って、その日は自己投資をしたと思ったんです。
――もうその時点で心をがっちり掴まれている感じですか?浜田:いえ、どこかでは「すべてを信じられるわけではない」と思っていました。けれども、あまりにもハッキリ言い当てられたこと、その後に良いことが起きるとパワーストーンのお陰のような気がしたことが相まって、どんどん私は「沼」にハマっていきました。いま冷静になって考えてみると、人生のどん底で占い師を頼ったので、相対的に良いことが起きるのは当然なんです。でも当時はそんなことを考えもしないので、「開運」「運気爆上がり」「引き寄せの法則」というタイトルの書籍やスピリチュアル系のYouTubeにのめり込んでいきました。
「すべてが整う石」のネックレスは150万円
――それで、タイトルにあるように合計すると1,500万円もの“開運投資”をしたと。浜田:そうです。もっとも高額だったのはネックレスで、宇宙から来た石を使用しているといわれているものです。その石は「すべてが整う石」と呼ばれていて、ネックレスの値段は確か150万円ほどだったと思います。もちろん他にも開運グッズは揃えていたので、家の中がだんだん幾何学模様に侵食されたり、ひとりでいるのにパワーストーンに向かって話し掛けたり、いま考えると完全に迷走していました。当時の私は自分の腕にパワーストーンを巻きまくって、まるでパワーストーンの博物館のような状態だったんです(笑)。
周囲のアドバイスも、聞く耳を持てず…
――浜田さんの周囲には多くのご友人や仕事仲間がいらっしゃると思いますが、「あまり傾倒しすぎないほうがいい」という助言はなかったのでしょうか?浜田:振り返ると、そうしたアドバイスは結構いただきました。けれども当時の私は、「みんな、これで運が引き寄せられているのに、なんにも知らないんだな」と思っていました。どちらかというと、運の“引き寄せ”についての真実を知っているのは自分のほうで、周囲が無知だという認識でいたんです。
――立ち入った質問かもしれませんが、スピリチュアルに傾倒した時代に離婚も経験されていますよね。浜田:そうですね、パートナーとの気持ちがすれ違っているのは私も気づいていました。でも当時の私は、それをパワーストーンの力が弱まってきたせいだと考えていたんです。実際、パワーストーンの力は自然に目減りしていくものとされていて、それを補うために「浄化グッズ」というものが販売されています。もちろん、それらを購入したり、あるいは“愛を取り戻す開運セミナー”に通ったりしました。セミナーでは、私には見えない“光”が見えるという人が会場の客席から数名現れて、私は懸命に目を凝らしたりしていました(笑)。
聖書と出会い、これまでの行いを改めようと考えた
――その後の浜田さんの傾倒ぶりも、Kindle書籍で拝読しましたが、なかなか濃いエピソードが満載ですよね。ただ、浜田さんは数ヶ月前にきっぱりと「脱スピ」を宣言されている。これほどのめり込んだスピリチュアルから脱却しようと決めたのは、どうしてですか?浜田:その当時の私は、さまざまな知人にグッズを勧めるから「スピトニー」とか呼ばれていて(笑)。ただ、自分のなかでまったく疑問がなかったわけではないんです。というのは、私が占いに駆け込んだとき以上のどん底状態に遭ったんです。どこかで、「開運投資は効果が薄いのではないか」と思っていたのかもしれません。そこにちょうど出会ったのが、聖書でした。詳細は書籍に書いてあるので省きますが、牧師さんとの出会いや聖書に書かれた「終末期にニセ預言者が現れる」という趣旨の文言にハッとさせられて、これまでの行いを改めようと考えたんです。
ヒヤヒヤすることに疲れてしまった
――一連の開運投資から得られたことがあれば、教えてください。浜田:意外と思われるかもしれませんが、私は「脱スピ」をしたものの、スピリチュアルのすべてに意味がないとか、現在ハマっている人を馬鹿にしようとは思っていません。むしろ、人生のどん底を経験したとき、人間の力を超越したものに頼りたくなる気持ちは理解できるんです。ただ単純に、人生において良いことや悪いことが起きたときに、「このグッズのおかげだ」「パワーが落ちているんだ」とヒヤヒヤすることに疲れてしまったんです。だから当時のグッズは記念写真に残して、捨てることにしたんです。思い出は残して、ものは捨てる。それでまた明日も前を向いて生きていけると感謝して、進んでいくことに決めたんです。
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これは一世を風靡した人気漫画家の転落の物語以上の意味を持つ。少なからず浮き沈みを経験する誰にでも陥る可能性のある、依存の話だ。困ったとき、落ち込んだときに声を上げられれば、一番いい。けれども状況や立場によってはそれが叶わない。孤独という種が、次々に災難を発芽させる。負のスパイラルのなかで、いかに主体的に生き、そして客観的な視点を維持できるか。
本書を笑い飛ばせる人は、まだ幸福だろう。タイトルを見て心に何かが沈殿した人にこそ、届くといい。
<取材・文/黒島暁生>
【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
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