先週末(11月1日から3日)の北米興収ランキングを紹介する前に、11月5日に行われたアメリカ大統領選挙の投票日のBoxOfficeに触れておきたい。ちょうど火曜日は多くの劇場が割引デーを導入していることもあり、投票を終えた人々が映画館に流れたことが伝えられている。当日の総興収は通常の平日だった前日比157.2%。月曜から火曜にかけて興収が上がるのはいつも通りだが、2000年以降の大統領選投票日のなかで、前日からの伸び率が最大となっている点は興味深いポイントだ。
【写真を見る】94歳のクリント・イーストウッド監督が手掛ける『Juror #2』が劇場公開!気になる評価は
さて、そんな大統領選直前の週末のランキングは前週に続いて『ヴェノム:ザ・ラストダンス』(日本公開中)が首位をキープ。週末3日間の興収は前週からほぼ半減の2590万ドルとなり、週末時点の累計興収は8985万ドル。2周目末の週末を終えても前作『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』(21)のオープニング興収に届いておらず、苦戦ムードが続いているように見えるのだが、現地メディアは相次いで“好調維持”と表現している。
というのも、ファンが集中する初日の興収と比較される2週目の金曜日の成績こそ前週比3割にとどまっているが、土曜日のデイリー興収は前週比およそ7割で、それ以降の各日も大きな下落はない。これは主要スタジオが大統領選とのバッティングを避けるためにビッグタイトルの公開を見送り、結果ライバルとなる作品が少なくなったこと。さらに映画以外のいくつかの要素が『ヴェノム』の興収維持を促す後押しになっているからだと考えられる。
まずひとつ目は北米の2大マーケットであるロサンゼルスとニューヨークの直接対決となったMLBワールドシリーズが10月30日で終わったこと、ふたつ目はハロウィンが終わって例年通りホラーをはじめとしたハロウィンムービーの勢いが弱まってきたこと。それらに加えて幅広い客層に向けられた『ヴェノム:ザ・ラストダンス』とファミリー層を中心にした『野生の島のロズ』(2025年2月9日日本公開)は、このまま感謝祭シーズンに向けて快走を続けることになるだろう。
また、この週末にはハリウッドを代表する2人の巨匠の新作が公開を迎えていた。5位に初登場を果たしたのは、ロバート・ゼメキス監督とトム・ハンクスが5度目のタッグを組んだ『Here』。脚本のエリック・ロス、共演のロビン・ライトと、名作『フォレスト・ガンプ/一期一会』(94)のチームの再結集、定点カメラで長い年月が描かれる斬新なつくりなどが事前に大きな話題となっていたが、初日から3日間の興収はわずか487万ドル。
製作費が4500万ドルなので、オープニング興収はその10分の1程度。3900万ドルの製作費の3分の1の全世界興収に終わった『マーウェン』(18)ほどではないが、今回も興行的失敗となる可能性が非常に高い。それに加え、批評集積サイト「ロッテン・トマト」では批評家からの好意的評価が36%と辛辣な結果に。観客からのそれも57%と伸び悩んでおり、ゼメキス監督の久々の賞レース参戦の可能性はほぼなくなったと考えていいだろう。
一方で94歳を迎えたクリント・イーストウッド監督の『Juror#2』は、元々Maxでの配信公開が予定されていたがテスト試写の反応の良さを受けて急遽35館の小規模での劇場公開が実現。正式な数字は非公表となっているが、「Deadline」などの報道によれば1館あたりのアベレージは7500ドルほどで、ランキングと照らし合わせれば20位相当ということになる。
こちらも「ロッテン・トマト」を参照すると、批評家からの好意的評価が92%、観客からのそれは93%と、『ミリオンダラー・ベイビー』(04)や『硫黄島からの手紙』(06)を上回りイーストウッド作品歴代4位(2000年以降では1位)の高評価を獲得。近日中に拡大公開に踏み切るという噂も囁かれているが、配給のワーナーが本作を賞レースに向けてプッシュするかは不明(劇場公開は一応オスカー考慮資格を得るためともいわれているが)。イーストウッド監督の“最後の作品”になるかもしれない一本だけに、その出方には注目が必要だ。
文/久保田 和馬
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