繁華街の路上で「すごくほめます」と大きく書かれた段ボールを持って立つ男性。通りすがりの人を褒める事で、投げ銭をもらって活動している「褒めますおじさん」(43歳)だ。
先日放送された『ザ・ノンフィクション』でも密着を受け、話題を呼んだ同氏。これまで、どういった人生を歩んできたのだろうか。本人を直撃した。
活動を始めたばかりの時期には葛藤も
路上パフォーマンスといえば、音楽や歌を筆頭に大道芸や似顔絵などが多い。あえて「褒めること」を選択したのはなぜなのか。
「もともと、路上パフォーマンスに興味がありました。何かをやりたい気持ちはあったんですが、できることがなかったんですよ。だから、すぐにできて嫌な気持ちになる人も少ない『褒める』活動をしてみることにしました」
シャイな国民性だからこそ、諸外国に比べ日本人はうちに秘めた思いを直接ぶつけるのが苦手な印象がある。案の定、慣れるまで多少の時間を要したようだ。
「確かに、やってみると難しかったです。2021年の12月30日に始めたので、もうすぐ3年くらいになりますが、どうしても褒め言葉が出て来なかったり、無理をしてカッコイイ・可愛い・キレイ・イケメンなどの、使いやすだけの言葉を出してしまったりして、『これは続けていけないかな』と思うことも何度かありました」
イメトレと反省会で“褒め力”がレベルアップ
誰にでもできそうだが、初対面の相手を褒めるとなると一筋縄ではいかない。褒めますおじさんは普段、どこをどう褒めているのだろうか。
「会ったばかりで内面を褒めるのは嘘になるので、やっぱり見た目からになりますね。あとは、『なぜ僕のところに来てくれたのか』理由を聞いて、お話するなかから“褒めポイント”を見つけていく感じもよくあります」
3年近く続けていると、日々のルーティンも最適化されていく。地道な努力を積み重ね、徐々に“結果”を出せるようになっていった。
「朝起きた時に、頭の中でシミュレーションをしてみてイメージトレーニングをします。また、寝る前にもその日の活動を振り返って、『あの部分はこんな言葉をかければよかったな』と一人で反省会もします。そうやって毎日少しづつ褒められるようになってきました」
ノリで来る人もいれば、会社をクビになった当日に来た人も
よほどのことがない限り、日常生活で褒められる機会は少ない。当然褒められたい欲求を満たしたい気持ちは十分に理解できる。依頼者たちには、どういった背景があるのか。
「わりと軽い気持ちでというか興味本位やノリで来られる方が多いですよ。22時過ぎくらいになると、お酒を飲んだ帰りの方も多いですね。男女比でいうと半々くらいなんですが、真剣に褒めて欲しいと来られるのは女性が多い印象です。失恋したばかりだったり、自分の頑張りが成果につながらなかったりしたり」
年齢層は幅広い。子供連れが赤子を褒めて欲しいと訪れたりする一方で、最高齢は82歳の女性。ときには、人生相談に発展するような場合もある。
「『今日、会社をクビになりました』という方がいました。普段はまず直感的に褒めはじめますが、さすがにこのときはよく話を聞いて、その都度、頑張ってこられた部分を褒めさせてもらいました。気がついたら数十分になることもあり、涙を流して帰られる方もいます」
コロナでの行動制限がなくなって以降、変化を感じられるようになったという。
「街に外国の方が増えましたよね。『すごくほめます』という段ボールにスマホを向け、翻訳アプリで意味を知る……という人もいます。英語はほとんどできませんが、外国の方に褒めてほしいと言われたことも。知っている単語を駆使して褒めたら喜んでくれました(笑)」
1日の収入は「平均1万円」。最高額は…
毎日のように路上に立ち、褒めのブラッシュアップを重ねる褒めますおじさん。褒め活動での収入はどのくらいあるのか気になるところ。
「日によってまちまちですが、平均すると1日1万円くらいだと思います。つい先日、最高額が出て4万3千円でした。最後に来られたのが会社を経営されている方で『近くで従業員と飲んでいて、いつもお世話になっているから一人一人を褒めて欲しい』と言われて、お店まで行って皆さんを褒めさせてもらい、3万円いただきました」
こうなると、一人で生活するには事足りる収入になりそうだが、褒めますおじさんはどのような生活をしているのだろうか。
「家がないので、いただいた投げ銭でネットカフェやビジネスホテルに泊まって生活しています。この活動を始める前までは実家に住んでいたんですが、ローンが払えなくなってしまって家がなくなりました」
借金は最大600万円も「毎日楽しく過ごせている」
褒めますおじさんは路上生活をしながら活動を続けている。その経緯は波乱万丈だ。
「僕は18歳のころから、パチンコや競輪にハマっていました。販売員や建設業、解体業などの仕事はしていたんですが、給料もギャンブルに使い込んで借金も増えていって。当時は返済よりもギャンブルを優先する状態でした。借金は最大で600万円くらいあったと思います」
借金が増えたところで、実家に暮らしていたため衣食住は安泰かと思っていた。だが、父親が脳梗塞で倒れてしまい、ローン返済が滞るように。そうして、路上生活を余儀なくされることになったのだ。他人を褒めるにはポジティブなエネルギーが必要になる。自分の人生に後悔があると、ガス欠になってしまいそうに思えるが。
「多少、ギャンブルをしすぎたなとは思っていますが、後悔はしていません。こうなったのも自業自得なので。今を大事にしていければいいかなと思っています。自分のやりたい事をやって行きたいところに行けているので、毎日楽しく過ごせています!」
今後、その収入を元手に、家を借りて路上生活を脱する目処は立っているのだろうか。
「正直言って家を借りることは考えていません。それよりも褒める活動を47都道府県全てでやりたいという思いが強いです。東京から交通の便がいい大きな都市は全部行って、31都道府県まで来ているので、全国での達成に向けて頑張っています」
今回はオンラインの取材であったが、携帯回線を契約していないため、中古で買ったスマートフォンを街のフリーWi-Fiにつないでの対応だった。無頼な生き方を貫く姿は、たくましいの一言。いつか対面で褒めてもらいたいものである。
<取材・文/Mr.tsubaking>
【Mr.tsubaking】
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。
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