訪日外国人が運転する公道カート。ご覧のように雨の中の信号待ちでもスマホでの撮影に余念がない。まさにトラブルの種訪日外国人ドライバーの暴走がもうどうにも止まらない。しかし、そこにはインバウンドを呼び込むことしか考えていない、日本の課題も浮き彫りに。問題点などを専門家に解説してもらった!■無免許で公道カートを運転した外国人観光客コロナ禍により落ち込んでいたインバウンド(訪日外国人旅行者)需要が拡大!
JNTO(日本政府観光局)の調査によると、今年1~9月の累計で訪日外国人旅行者数は約2688万人をマークし、昨年の年間約2507万人を軽く突破した。
ちなみにコロナ前の2019年の訪日外国人旅行者数は約3188万人で、今年はこの数字を上回ると指摘する専門家も。
ただ一方で、オーバーツーリズム(観光公害)の懸念も観光地などで広がっている。特に問題なのが外国人観光客が運転するレンタカー(クルマ、公道カート、電動キックボードなど)の事故やトラブルだ。
全国各地の観光スポットで激増中なのだが、驚くことに事故を起こした車両を乗り捨てたり、当て逃げしたままトンズラ帰国する不良外国人観光客もいるというからヤバい。実に由々しき事態である。しかし、日本側にも問題があるようで......。
今年4月、警視庁は日本での運転に必要なジュネーブ条約加盟国発行の国際運転免許証を持たない外国人観光客に小型カートを貸し出し公道で運転をさせたとして、カートのレンタル業者の男を道路交通法違反(無免許運転車両提供)の疑いで摘発している。要するに、免許チェックがユルユルだったわけだ。
元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏はこう解説する。
「中国を筆頭にジュネーブ条約に加盟していない国は、自国で国際運転免許証を交付できない。しかし、レンタカー会社もピンキリなので、その事実を知らずに貸し出してしまう場合もあるようです」
日本各地の観光名所で訪日外国人ドライバーの事故が相次いでいる。観光地でレンタカーを見つけたら注意すべし
実際、2016年頃から沖縄ではこんなトラブルが起きているという。
「フィリピンのサイトで購入した偽物の国際免許証でレンタカーを借り、事故やトラブルを起こす中国人観光客の話を耳にしています」
ところで現在、中国人観光客の多くは、自国のSNS経由で"白タク"の目星をつけてから訪日するという。ご存じの方も多いと思うが、国の営業許可を得たタクシーなどのナンバーの色は緑だ。
しかし、無許可の違法車は個人の自家用車を使用するためナンバーは白となる。つまり、白ナンバーでタクシーのような営業活動をするので、白タクと呼ばれるのだ。
「ドライバーは日本に住む中国人で、クルマはミニバン。乗り合いが基本で、成田空港から都内の宿泊先のホテルまででひとり1万円。観光地だと5時間の利用で5万円が相場です。利用客は母国語を話せるドライバーも安心とか」
中国人観光客をターゲットにした違法な白タクは、日本全国で活動している。もちろん警察も摘発に乗り出しているが、料金支払いを中国のSNSアプリ経由で済ませているため証拠を固めるのが非常に難しく、「知り合いを善意で送迎しているだけ」と言われたら手出しできないという。つまり、やりたい放題なのだ。
■問題だらけの"外免切替"また実は、今年に入って日本で運転をする中国人ドライバーがさらに増えているという。しかし、繰り返しになるが、ジュネーブ条約加盟国発行の国際運転免許証は中国では取得できない。いったいどうなっているのか。
「外免切替(外国の行政が発行した運転免許証を日本の運転免許証に切り替える申請を行なうこと)という制度を使っているんです」
そう話すのは自動車評論家の国沢光宏氏だ。
「しかも、日本で住民登録していない観光客でも、宿泊したホテルから『一時帰国(滞在)証明書』を出してもらえば、簡単に日本の免許証を取れてしまう」
つまり、観光ビザでも外免切替は可能で、その場合、免許証の記載住所はまさかの宿泊先のホテルに!摩訶不思議にも程があるこのシステムに中国人が殺到しているらしい。
「日本はジュネーブ条約に加盟しているので、日本の免許があれば、100近い加盟国で運転が可能になる」
外国人観光客が運転するレンタカーによる事故が急増する山梨県。富士山に見とれて事故を起こした訪日外国人ドライバーも一方、中国の免許で運転可能な国はごくわずかしかない。
「中国人からすれば、簡単に日本の免許証を取得できる外免切替を使わない理由はないと思います」
フツーに考えると、免許ロンダリング的な話に聞こえなくもないが、肝心の試験はどんな感じなのか。
「外免切替をする際には学科試験と技能試験を受けます。学科試験は10問の2択問題で、7問以上の正解で合格です。この試験は24言語に対応しているのでそれらで受ければ、日本語で読み書きができなくても問題ありません」
ただでさえ、一部の専門家からは日本の交通標識はガラパゴス化しているという指摘もある。本当にこんなユルユルの試験で大丈夫なのだろうか。自動車ジャーナリストの桃田健史(けんじ)氏はこう言う。
「確かに筆記テストの内容が簡単すぎるという声もある。日本における交通法規に対して、より詳細に理解してもらう仕組みは必要でしょうね」
訪日外国人ドライバーが苦悩するガラパゴスな交通標識。特に日本語のみの案内だと「完全にお手上げ状態」という声が多かった■中国人が押し寄せる府中運転免許試験場前出の国沢氏が言う。
「先日、国際免許を取りに東京都府中市にある府中運転免許試験場に行きましたが、中国人が大挙して押しかけていました」
その話を聞いて10月中旬に現地へ足を運んでみたところ、確かに早朝にもかかわらず中国人の大行列が!熱気ムンムンの彼らに話を聞くと、中国のSNSには《世界中で使える日本の免許が簡単に手に入るぞ!》というような声があふれており、観光がてら府中運転免許試験場に来たというのだ。
外免切替という制度は確かに合法なのだが......正直モヤモヤした。というのも、交通事故は最悪の場合、命を落とす可能性がある。今年8月に山梨県で中国籍の女(27歳)が、9月には埼玉県で中国籍の男(18歳)が死亡事故を起こしている。しかも男のほうは酒を飲み、時速100キロで逆走した挙句の惨劇だ。
事故を防ぐためには、当たり前のことだがドライバーが道路交通法を正しく理解する必要がある。そういう意味において外免切替に危うさを感じてしまった。
外免切替に中国人が殺到していた東京都府中市にある府中運転免許試験場。早朝から中国人らが大行列を作っていた国沢氏もこう指摘する。
「外免切替が怖いのは、免許証の住所がホテルであること。仮に日本で交通違反を犯しても、帰国してしまえば逃げ切れる可能性が高い。ましてやジュネーブ条約に加盟していない国ならなおさらです。ちなみに、外免切替という制度は"政治マター"と聞いています」
それにしても、訪日外国人ドライバーの事故がここにきて増えたのはなぜか。前出の桃田氏はこう分析する。
「近年、訪日外国人のリピーターが増えており、以前はためらっていたレンタカー利用にトライする人も増えたはず。そうした人たちの発信する情報がSNSなどを通じて広がり、初来日でもレンタカーを利用する人が増えた可能性もあるでしょう。
また、動画や映画の影響も考えられます。日本ではスポーツカーや改造車(チューニングカー)の人気が高いというイメージがある。訪日外国人の中には、1990年代から2000年代前半の旧車に対する憧れが強い層も。
その手の人たちは現実の社会と、映画などの架空の世界の区別がなくなり、日本は交通における法規制がユルいのではないかと勘違いする人もいるのでは」
一方、訪日中国人ドライバーによる事故の増加に関して、国沢氏はこう指摘する。
「中国は監視社会で想像以上にカメラの数が多いため、うかつな運転はできません。訪日したことでタガが外れてしまう可能性もあるのでは」
インバウンド需要はますます拡大傾向。となると、ニッポンの公道では、訪日外国人ドライバーのカオス運転がしばらく続きそうだ。
取材・文・撮影/週プレ自動車班写真/時事通信社アフロ
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