韓国ドラマ「元カレは天才詐欺師〜38師機動隊〜」を原作に、『カメラを止めるな!』(17)の上田慎一郎監督がふんだんにオリジナリティを加えた映画、『アングリースクワッド公務員と7人の詐欺師』が11月22日(金)に公開となる。上田監督が最新作の題材に選んだのは、税務署員と詐欺師という異色のタッグだ。
【写真を見る】内野聖陽扮する真面目な公務員×岡田将生扮するイケメン天才詐欺師…異色すぎるバディが誕生!
税務署に務める真面目な公務員、熊沢二郎は、ある日天才的な詐欺の腕を持つ氷室マコトに大金をだまし取られてしまう。なんとか氷室の行方を突き止めたが、見逃すならば、熊沢らが目をつけていた権力者を詐欺にかけ、脱税した10億円を徴収する、と持ちかけられる。葛藤する熊沢だったが、“ある復讐”のために氷室と手を組むことを決意。詐欺師集団“アングリースクワッド”を結成し、大胆すぎる詐欺計画を実行することに。
熊沢役に内野聖陽、氷室役に岡田将生、ターゲットとなる“脱税王”橘大和役に小澤征悦など、豪華俳優陣が扮した曲者ぞろいの登場人物たちの騙し合いバトル、観る者も騙すスリリングな展開は上田監督の真骨頂といえるだろう。本稿では、本作をより楽しむために抑えておきたいポイントを紹介。『アングリースクワッド公務員と7人の詐欺師』の世界をひも解いていく。
■公務員と詐欺師がタッグを組む?奇想天外ながら練られたストーリーのおもしろさ
とにもかくにも観客をあっ!と驚かす“どんでん返し”が大好物の上田監督は、『スティング』(73)や『オーシャンズ11』(01)といったケイパーもの(強盗映画)、詐欺師ものにかねてから強い関心を抱いていた。そこへドンピシャの企画を持ち込んだのが伊藤主税プロデューサーだ。
「犯罪都市」シリーズなどで日本でも人気を博すマ・ドンソク主演の韓国ドラマ「元カレは天才詐欺師〜38師機動隊〜」を勧められ、全16話を鑑賞した上田監督は、悪とは無縁のマジメな公務員と天才詐欺師がチームを組んで壮大な復讐(納税?)計画を実行するという斬新な展開にすっかりハマってしまったという。ただ、16話ある原作を2時間に凝縮するのは至難の業。そこで、「相棒」シリーズなどの脚本家・岩下悠子の頭脳を借りて、原作を下地にしながら、より登場人物のキャラクター性を強化したまったく新しいクライム・サスペンスを作り上げた。
緻密に練られたあの手この手のトラップで脱税王を翻弄し、ギャフンと言わせる爽快感!10億円をめぐる壮絶な騙し合い、奪い合いは観客をも翻弄し、まばたきさえも許さない状況に追い込んでいくが、その一方で、仲間を信頼しチームワークで目的を成し遂げる喜びと充実感、そして、不法なことに「NO」を突きつけ、“怒り”を露わにするという現代人に欠如した熱い魂を呼び覚ましてくれる。「最近、ちょっとパワーが足りない…」という方には、どんな栄養ドリンクよりもこの1本が効くかもしれない。猫背になりかけた精神を奮い立たせてくれるだろう。
■上田ワールドの魅力を最大限引き出す!実力派俳優&主題歌アーティストが集結
税務署で働くマジメ一直線の主人公・熊沢を演じるのは、テレビドラマ「JIN-仁-」「きのう何食べた?」や映画『八犬伝』(公開中)など、作品や役柄によって見事なまでに色を変える名優、内野聖陽。撮影前から気合い十分、脚本に大量の付箋を貼ってリハーサルに臨み、気になるところを上田監督と徹底的に議論するという熱の入りようで、最初は原作ドラマの主人公を演じたマ・ドンソクのイメージに引っ張られていた熊沢もどんどん庶民的に変貌し、オリジナル作品に近いキャラクターにブラッシュアップされた。寝る間も惜しんでどんどん新しいアイデアを提案してくる上田監督の熱意に心打たれた内野は、「この作品に骨をうずめる覚悟でやらなければ!」とさらに奮起することに。
一方、熊沢とバディとなるイケメン天才詐欺師、氷室を演じるのは、ヒット街道ばく進中の『ラストマイル』(公開中)や好評を博したNHK朝の連続テレビ小説「虎に翼」など今年も絶好調の岡田将生。内野とは対照的に、キャラクターをあまり固めず、現場に入って共演者とのセッションのなかで徐々に氷室像を掴んでいったそうだが、光と影が巧みに入れ替わる内野との演技合戦は、大胆な騙し合いバトルに信憑性を持たせ、ただのクライム・サスペンスでは終わらない人間臭さが加わった。
そのほか、熊沢の部下で“出る杭は打たれてナンボ”の野心家税務署員・望月さくら役に川栄李奈、氷室を慕って復讐計画に加担する詐欺集団メンバーに真矢ミキ、森川葵、後藤剛範、上川周作、鈴木聖奈ら個性派俳優が集結。そして、彼ら全員を敵に回す大企業の悪徳社長・橘役に最近、悪役が板についてきた小澤征悦。傍若無人だけれどなぜか憎みきれないろくでなしキャラを破壊的パワーで怪演し、華麗なる復讐劇を大いに盛り上げている。
また、上田監督とプロデューサーのたっての希望で、主題歌制作にKERENMI(音楽プロデューサー蔦谷好位置の変名プロジェクト)を迎え、ヴォーカルには上田監督が学生時代から大ファンであることを公言するロックバンド、銀杏BOYZの峯田和伸に熱烈オファー。本編ラストの展開と、峯田の魂の歌声が胸に突き刺さる主題歌「名前を忘れたままのあの日の鼓動 feat. 峯田和伸」が相まって、観終わったあと、観客のほとんどは、(心のなかで)握り拳を突き上げていることだろう。
■映画へのたゆまぬ情熱で走り続けてきた、上田慎一郎監督待望の長編映画!
37分ワンシーンワンカットのゾンビ映画と思いきや、一転、その挑戦的映画を裏で支えるスタッフたちのドタバタ劇をメイキングタッチで活写し、観客の度肝を抜いた大ヒット作『カメラを止めるな!』(以下、『カメ止め』)。あれから7年、一躍脚光を浴びた上田監督は、慢心することなく、人のため、自分のために、とにかく走り続けた。
コロナ禍の悪しき影響を受けたクリエイター、俳優たちをサポートするため『余命10年』(22)、『正体』(24)の藤井道人監督、『幼な子われらに生まれ』(17)、『一月の声に歓びを刻め』(23)の三島有紀子監督と共に短編映画製作プロジェクト「DIVOC-12」を立ち上げたり、映画スタジオ「PICORE」を設立し、第76回カンヌ国際映画祭「#TikTokShortFilm コンペティション」最高賞グランプリ受賞した『レンタル部下』(23)などTikTok向けのショートフィルムを制作したり、その精力的な活動はとどまることを知らず、ついには、『カメ止め』公開前に企画されていたという最新作『アングリースクワッド公務員と7人の詐欺師』をオールスターキャスト大集結で完成させた。
さかのぼれば『カメ止め』の試写を観た、『Winny』(20)や『ゾッキ』(20)を手掛けるプロデューサーの伊藤主税から、「君とやりたい企画がある」と声をかけられたのが最初のきっかけ。同作が大化けしなかったら、ここまで大規模なプロジェクトにはならなかっただろう。まさに、自ら作りだした“映画人生のどんでん返し”が奇跡の1本を生みだしたのだ。
■詐欺師たちはいかにして出会ったのか?前日譚ドラマでさらに楽しめる!
11月22日(金)本編の劇場公開に先駆け、岡田演じる氷室マコトをはじめ、詐欺師たちの過去が明かされるオリジナル・スピンオフドラマ「アングリースクワッド Episode ZERO」(全3話/1話無料)が11月14日(木)よりLemioにて独占配信される。舞台は、映画で実行される復讐計画の3年前、氷室、どんな役にもなれる元役者の白石美来(森川)、強靭な肉体の当たり屋である村井竜也(後藤)は、どのようにして出会い、精鋭詐欺集団“アングリースクワッド”を結成したのかが描かれる。
ある日、白石の美人局を仕掛けられた氷室だったが、実はある計画のため、借金取りに追われていた白石を仲間にしようと接近したのだ。俳優志望だった白石は、闇金と手を組む悪徳芸能事務所の社長、渡麗華(清水美砂)から搾取されいまの状況に陥ってしまっていた。氷室は渡を詐欺にかけ、渡の脱税金2億円を奪い取る計画を持ち掛ける。渡らの非道さに嫌気がさしていた借金取りの村井も仲間に加わり、3人は渡に「架空の海外作品」への出資詐欺を仕掛けるのだが…。
映画だけでは描ききれない詐欺師たちの過去をえぐり、詐欺師ではなく、一人の人間としての魅力も見えてくる前日譚として併せて観れば、より登場人物たちへの感情移入でき、さらに本編が味わい深いおもしろくなること必至!映画公開前にチェックし、『アングリースクワッド公務員と7人の詐欺師』に備えてほしい。
文/坂田正樹
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