『敵』の長塚京三、79歳での最優秀男優賞受賞は東京国際映画祭史上最高齢の快挙!欠かせなかったのは「妻のサポート」と感謝

フランスから始まった俳優人生50年。長塚京三、最優秀男優賞の受賞は「想像もつきませんでした」/[c]2024 TIFF

『敵』の長塚京三、79歳での最優秀男優賞受賞は東京国際映画祭史上最高齢の快挙!欠かせなかったのは「妻のサポート」と感謝

11月6日(水) 22:14

11月6日、第37回東京国際映画祭が閉幕。吉田大八監督による『敵』(2025年1月17日公開)がコンペティション部門の最高賞にあたる東京グランプリ/東京都知事賞、最優秀監督賞、最優秀男優賞の3冠を達成して、華々しく幕を閉じた。クロージングセレモニー後には受賞者記者会見が行われ、各賞の受賞者が出席。吉田監督と最優秀男優賞を獲得した長塚京三が喜びを語った。
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世界中から優れた映画が集まる、アジア最大級の映画の祭典である東京国際映画祭。今年のコンペティション部門には、110の国と地域から2023本がエントリー。コンペティション部門の審査委員長は、カンヌ国際映画祭最優秀男優賞を受賞した『花様年華』(00)、ウォン・カーウァイ監督の『2046』(04)などで知られる俳優のトニー・レオン。審査員をエニェディ・イルディコー、橋本愛、キアラ・マストロヤンニ、ジョニー・トーが務めた。

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吉田監督の『敵』は、筒井康隆の同名小説を映画化したもの。1974年にフランスで俳優デビューしてから実に50年、名優として日本映画やドラマ、舞台の歴史に名を刻んできた長塚が2013年公開の『ひまわり 沖縄は忘れないあの日の空を』以来、12年ぶりの主演を務め、人生の最期に向かって生きる元大学教授の恐怖と喜び、おかしみを同時に表現している。東京国際映画祭で日本映画がグランプリを受賞したのは、『雪に願うこと』(根岸吉太郎監督/05)以来19年ぶり。日本人俳優の最優秀男優賞の受賞も同作品で佐藤浩市が受賞して以来、同じく19年ぶりのこととなった。

「僕の映画は俳優を観にきてほしい」と語った吉田大八監督

本作に着手した経緯について、吉田監督は「原作小説を30年前に読んでいた。何年か前に読み返してみたら、自分のなかで30年前とは全然違うものが生まれた。なにかの形で吐き出せないかと思ったことから始まりました」と回想。「プロデューサーからは、やりたいことをできる範囲でやってほしいという心強い言葉をもらった。だからこそあまりなにかを我慢したり、苦労したということはなくて。もちろん作っている間は苦労もあるんですが、すべて含めてものすごく楽しい映画づくりの経験になりました」と充実感を語り、映画祭での快挙を含め「やっぱり映画づくりって、こういうことがあるから楽しいんだなと改めて思いました」と目尻を下げていた。全編モノクロの映画となり、吉田監督は「観ている人がより強く、自分の感覚や想像力を働かせてくれる。没入感が増す。前半と後半で転調した展開になりますが、それがものすごく効果的になったと感じています」と語っていた。

「毎日撮影を終えるのに精一杯」と語った長塚京三

長塚はフランスに留学中の1974年、映画『パリの中国人』でデビューした。俳優デビュー50周年を迎えた年に国際映画祭で最優秀男優賞を受賞するという快挙。79歳での最優秀男優賞受賞は、東京国際映画祭史上最高齢での受賞となった。受賞について「予測はつきませんでした。こういう事態になるとは、想像もつきませんでした」と笑顔で切り出した長塚は、「精一杯でした。はなから出ずっぱりみたいな感じで、ロケはお家を借りて撮影をしていたんですが、僕が住んでいるところから遠くて(笑)。朝早く行って、撮影が終わってうちに帰るころには夜遅くなっている。まずそこをなんとかしなくちゃいけないんだろうなと。毎日撮影を終えるのに精一杯で、先のことは考えられませんでした」と撮影を振り返り、「本当に家族、妻のサポートがあって。食べるものを食べて、寝る時間を確保してもらって」と妻に感謝。「大変な肉体労働を終えたような気持ちで、さわやかです。映画祭に呼ばれて、果ては賞までいただくなんてことは考えてもいませんでした」と清々しい表情を浮かべていた。

俳優になったきっかけを明かすひと幕もあり、長塚は「ひょんなことから俳優になった」とにっこり。「学生の時に『映画をやってみないか』と誘われて、ふらふらとその世界に入ってしまった。フランスの映画でちょっとやらせてもらったので、これはひとつの経験にしようと思って。違う職業に就くつもりでいた」というが、「日本に帰ってきてから、再燃して。『こういう役があるからやってみないか』とオファーを受けてやることにして。それでキャリアが始まっちゃった」といつの間にか俳優の道を歩み出したという。

自身の映画が俳優賞に輝くのが「ものすごくうれしい」という吉田監督。2014年の吉田監督による映画『紙の月』では、宮沢りえが第27回東京国際映画祭で最優秀女優賞を受賞している。吉田監督は「僕自身、映画をなにで観にいくかと言うと、俳優を観にいくものだと思っているので、僕の映画は俳優を観にきてほしい。それは映画づくりを始めてから変わらない。俳優賞をいただけるということは、ひとつ自分の想いが達成したという気持ちがすごく強いです」としみじみ。「監督賞もいただきましたが、本当に自信がないので」と苦笑いを見せながら、「作品賞もいただいたので、関わったみんなと喜べる」とうれしそうに話していた。

観客の熱い反応を喜んだヤン・リーナー監督

観客賞を受賞したのは、ヤン・リーナー監督による『小さな私』。脳性麻痺という障がいを持ちながらも、力強く生きていく主人公リウ・チュンフー(イー・ヤンチェンシー)のひと夏の成長を描いた作品だ。「映画を作る前にたくさんリサーチをした」というリーナー監督は、本作の登場人物は「若者の代表」だと語る。「主人公は脳性麻痺を患っている若者。しかも新しい世代の若者。日常の暮らしのなかで、彼らがどのように考え、悩んでいるのか。制作チームはそういったことを映画を通して紹介したかった」と込めた想いを明かしながら、「ここ数日、観客の皆さんと交流ができた。若い人たちから、心が和んで励まされたという声が多数ありました。なんと言っても役者が、役柄を見事に演じ切っている。たくさんの若い観客から、彼が演じた役に共感することができたというフィードバックがありました」と観客の反応に感激していた。

10月28日~11月6日まで、日比谷、有楽町、丸の内、銀座地区にて開催された第37回東京国際映画祭。10日間の開催期間で上映された映画は、208本。上映動員数は61,576人にのぼった。海外からのゲストとして2,561人が参加した。

取材・文/成田おり枝


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