谷口彰悟がオーストラリア戦のオウンゴールを語る「失点直後は、その重大さ、その責任に襲われた」

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谷口彰悟がオーストラリア戦のオウンゴールを語る「失点直後は、その重大さ、その責任に襲われた」

11月7日(木) 9:50

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【連載】

谷口彰悟「30歳を過ぎた僕が今、伝えたいこと」<第25回>



◆【連載・谷口彰悟】第1回から読む>>

◆第24回>>「シント・トロイデンはひとつのきっかけで大きく変わる」

ワールドカップ・アジア最終予選は、11月の2試合(11月15日・第5節/インドネシア戦、11月19日・第6節/中国戦)で折り返しを迎える。日本代表は4試合を終えて3勝1分・勝ち点10。スタートでつまずくことなく、首位の座を守っている。

最終予選は各グループ上位2チームにワールドカップ2026への出場権が与えられるため、11月シリーズはいかに失点を防いで負けないことが重要となるだろう。日本のディフェンスラインを統率する谷口彰悟が、これまで無敗で乗りきった4試合をどう振り返ったのか。

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谷口彰悟はオウンゴールを冒した瞬間、何を思ったのかphoto by Sano Miki

谷口彰悟はオウンゴールを冒した瞬間、何を思ったのかphoto by Sano Miki



日本代表として、9月から始まったワールドカップ・アジア最終予選4試合を戦った。チームとしての確かな成長を噛み締めつつ、あらためてセンターバックというポジションの責任を痛感した。

最終予選には、日本サッカーの威信がかかっている。ここを勝ち抜き、ワールドカップに出場するかしないかで、今後の日本サッカー界に大きな影響を及ぼす。大袈裟に聞こえるかもしれないが、自分たちは日本サッカー界を背負ってピッチに立っている。そうした気概にさせてくれるのが、最終予選の舞台だ。

そのため、ヨーロッパの新シーズンが開幕したばかりの9月に集まった時は、森保一監督から「頭も気持ちも、しっかりと代表モードに切り替えてほしい」と強く言われた。招集されたメンバーのなかには、前回のワールドカップ最終予選を戦っている選手も多く、初戦でオマーンに0-1で敗れた苦い経験を繰り返さないような雰囲気作りに努めてくれた。

迎えた初戦の中国戦は、日本代表が2次予選から採用する3バックの中央で出場した。ウイングバックを含めた守備陣を統率するポジションを任され、3枚、時に5枚で守るときのお互いの距離感やスライド、さらにはライン設定に至るまで、細かく事前に準備を行ない、決まりごとを共有して臨んだ。

カタールワールドカップ本大会でも3バックを試みたが、当時よりもアグレッシブに戦え、攻守における精度も上がっていると実感できているのは、そうした準備の賜物だろう。

【パーフェクトなゲームは存在しない】中国は自陣でブロックを敷き、構えて戦ってきた。そのため、主に守備陣としてはカウンターの対応が求められる展開になった。

DFというポジションは、「攻撃している時こそ、守備の準備を疎(おろそ)かにしてはいけない」とよく言われるが、たとえボールを奪われたとしても即時回収する守備を90分間続けられたことも、勝利の一因だと噛み締めている。

"防戦"ではなく"攻戦一方"になると、DFの仕事は少なく感じるかもしれないが、常に警戒は怠れない。一瞬でも水を漏らしてしまうと、相手につけ入る隙を与えてしまう、もしくは「いけそう」という希望を持たせてしまうため、確実かつ瞬時に攻撃の芽を潰していくことが、僕らDF陣の仕事のひとつでもある。

続く第2節のバーレーン戦は、気温が高く、ボールが行ったり来たりする展開を強いられると、体力を維持するのが難しいことはみんなが感じていた。そのため、どこかで時間を作り、守備もボールを奪いにいくところと、いかないところのメリハリをつける必要があった。

中国戦で7−0、バーレーン戦も5−0で勝利し、2試合連続の無失点で終えられたことは大きな手応えになった。そこは守備陣だけでなく、攻撃陣も含め、ゼロで試合を進めながら、チャンスをうかがう意識が高く、チーム全体にそうした戦い方が身についてきている証拠といえる。

第1節、第2節のスコアだけを見ると、得点シーンやよかった場面がフォーカスされがちだが、勝った試合のなかにも課題は散見している。ワンプレー、ワンプレーを細かく見ていくと、失点にはつながらなかったものの、隙を見せてしまった場面やロングボールの対応が甘かったシーンもあった。

サッカーにおいて、いくら大勝したとしても、パーフェクトなゲームは存在しないと思っている。それだけに、試合後には改善点や修正点を話し合うことはもちろん、クラブに戻ってからも頭の片隅に置いておくことで、次の活動期間で継続して取り組み、それが積み重ねを生むと思っている。

【弱気になっていたわけではない】第3節のサウジアラビア戦は、僕自身にとって初のサウジアラビアとのアウェーゲームだったこともあり、独特な雰囲気と強烈な圧を感じた。至るところで、自分たちらしさが出しづらい環境や状況で、いろいろな考えが頭をよぎった。

バーレーン戦と同じく、気温も高く、ペース配分も含めてテンポやリズムをコントロールしなければならなかった。そういう意味でも、第2節でアウェーのバーレーン戦を経験していたことがプラスに働いた。

ましてや、サウジアラビアは簡単に勝てる相手ではなく、より丁寧な守備が問われた。環境、状況、相手......サウジアラビア戦はさまざまなことを加味したうえで、チームとしてああいった戦い方を選択した。

それは多少、守備的に見えたかもしれないが、決してアウェーという状況に弱気になっていたわけではない。チームとして試合に勝つための適切な判断をしながらゲームを進めていった結果、手にした2−0の勝利だった。

ただ、あの戦い方は、あの状況、あの雰囲気、あの相手だったから。第4節のオーストラリア戦は、ホームであり、日本代表として慣れ親しんだスタジアムでやれるだけに、アグレッシブに戦える、自分もそう思っていた......。

58分に自らのオウンゴールによって、その流れを断ち切ってしまうとは考えていなかっただけに、強い責任を感じている。

オーストラリア戦の守備は、ものすごく集中して戦っていた。特に前半は、ハーフコートに相手を押し込んで戦えていると感じられるような展開だった。ボールを奪われたあとの攻から守への切り替えにおいても、うしろに人が余ることなく、時にはマンツーマンに近い状況で、横幅を3人で守ることができていた。

個人的にもワールドカップ出場を争うライバルに対して、守備で互角以上に戦えていたことは、かなりポジティブだった。まさに日本代表が目指しているアグレッシブな3バックが体現できているという、確かな手応えもあった。

【これ以上、ゲームを壊しちゃいけない】だから、前半を0−0で終えて後半が始まった時も、ここからどう相手をじわじわと揺さぶり、崩していこうかと思っていた。

そんな矢先だった。自分がオウンゴールをしてしまったのは......。

失点した瞬間は、メンタルに大きく響いた。じわじわと、事の重大さが、自分に襲いかかってきて、正直、何も考えられなかった。

頭のなかを渦巻いていたのは、自分のオウンゴールによって、いろいろなものを崩してしまったことだ。ポジティブかつアグレッシブな守備をしてくれていたチームメイトのがんばりを、この失点によって無にしてしまった。また、相手に先制点を許したことで、ゲームプランを崩してしまったとも思った。

ワールドカップ最終予選3試合で3連勝し、無失点を続けてきたなかで、ホームに5万8000人を超える観客が来てくれている。そのファン・サポーターに勝つ姿を見せたかったのに、自分がチームを窮地に立たせてしまった。

失点直後は、その重大さ、その責任に襲われた。

ただ同時に、ここで試合に負けるような事態に陥れば、チームの勢いも変わってくる。まずは追いつかなければいけない。そう考え、自分自身に言い聞かせた。

「もう、これ以上、崩れるな」

「もう、これ以上、ゲームを壊しちゃいけない」

オウンゴールのショックによって、自分のプレーを見失い、さらにミスを重ねてしまえば、もっと迷惑をかけることになる。それだけは絶対にしてはいけないと言い聞かせた。

オウンゴールをした動揺がまったくなかったと言ったら嘘になる。それでも、もう一度、気持ちを立て直して試合に集中した。

58分のオウンゴールについて言及すると、相手の右サイドからのクロスに対して、戻りながら対応した僕は、右足を振ると、ボールがゴールへと吸い込まれていった。

DFとして、戻りながらのクリアは今まで何度も経験している。そのすべてを右足ではなく左足でクリアしていたかといえば、右足でクリアして防げたこともある。自分自身がああいった技術的なクリアミスをすることは想定していなかったし、右足に当てておけばクリアできるという自信もあった。

【ベテランが冒すミスではない】しかし、結果的にミスをしたことを受けて、前もって一歩下がっておけばよかった。また、映像で振り返ると、少し右足を振っていただけに、右足でクリアするならば当てるだけでよかったのではないかとも思った。

今回、自分がミスをしない自信を持っていたところで、ミスを冒してしまったことによって、今後の判断や対応は変わってくるだろう。

ミスをしないに越したことはないが、それでも人はミスをする。ならば、より改善し、あらためていく必要があるし、あの経験が自分をより強くしてくれるとも思っている。

自分のオウンゴールに対して、さまざまな見解や意見があるのはわかっているが、自分もそういった検証や反省、はたまた考えは、試合後から今日に至るまで、何十周、何十回としてきている。

正直、33歳という年齢になって、「これを経験にして次に生かしたい」と言っていてはいけないこともわかっているし、ベテランと言われる年齢の選手が冒すミスではないことも考えた。

それでも、センターバックは失点に絡むことが多いポジションだからといって、そうした場面から逃げることはしたくない。

このオウンゴールによって、いろいろなことを改善していかなければいけないとは思っているけれども、センターバックとして今日まで培ってきた自分のポリシーやスタイル、感覚を捨てたくはないし、失いたくはない。

今までも多くの失点に絡んできたし、試合の結果を左右する大きなミスをしたこともある。自分のミスによって負けた試合だってある。

そのたびに、プレーを怖がったり、自信をなくしたりしてはいけないと思ってきた。

チーム、チームメイトに対して、申し訳ないという気持ちや思いは心の底から感じている。それでもあえて思う。

センターバックは失点に直結するポジション。だからこそ、これからも自信や誇りを持ってプレーしていきたい、と──。

【チームメイトに救ってもらった】オーストラリア戦は、76分に追いつき、1-1で引き分けた。ここで負けるのと、引き分けるのでは、今後に大きく影響する。グループのライバルであるオーストラリアに勝ち点差を与えなかった結果は、ポジティブだったと思っているし、本当にチームメイトに救ってもらったと思っている。

11月15日のインドネシア戦を終えると、ワールドカップ最終予選も2巡目に突入する。相手はより対策を練り、戦い方を工夫してくることも予想されるため、その対策を上回れるチームであり、個でなければいけない。

自分自身も、ミスにより引き分けた結果に対する責任と向き合いつつ、センターバックというポジションに誇りを持ち続けながら、自分のプレースタイルを見失うことなく戦っていきたい。

◆第26回につづく>>

【profile】

谷口彰悟(たにぐち・しょうご)

1991年7月15日生まれ、熊本県熊本市出身。大津高→筑波大を経て2014年に川崎フロンターレに正式入団。高い守備能力でスタメンを奪取し、4度のリーグ優勝に貢献する。Jリーグベストイレブンにも4度選出。2015年6月のイラク戦で日本代表デビュー。カタールW杯スペイン戦では日本代表選手・最年長31歳139日でW杯初出場を果たす。2023年からカタールのアル・ラーヤンSCでプレーしたのち、2024年7月にベルギーのシント・トロイデンに完全移籍する。ポジション=DF。身長183cm、体重75kg。

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