現地発! スペイン人記者「久保建英コラム」
久保建英は3試合ぶりの先発復帰となったラ・リーガ第12節セビージャ戦で、圧巻のゴールを決めてチームを勝利に導くとともに、今季2度目のマッチMVPに輝いた。今回は、スペイン紙『アス』およびラジオ局『カデナ・セル』でレアル・ソシエダの番記者を務めるロベルト・ラマホ氏に、今季チームが慢性的に抱えている得点力不足の解決策の提案をしてもらった。
久保建英はセビージャ戦でゴールを決め、チームの勝利に貢献photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA
【久保がゴールを決めれば問題なし】
日本のファンはおそらく、レアル・ソシエダのサポーターがダルコ・コバチェビッチ(※レアル・ソシエダに1996年から1999年、2001年から2007年まで2期に渡って所属。公式戦284試合出場107得点)に対して使っていたこのフレーズを知らないだろう。
"Si Darko gol, no problem.(ダルコがゴールを決めれば問題なし)"
このセルビア人ストライカーはチュリウルディン(レアル・ソシエダの愛称で白と青を意味するバスク語の言葉)史上の外国人最多得点選手となり、クラブの歴史に名を残した。その功績によりサポーターの間で、1980年代リーグ2連覇を達成した時のキャプテンを務めた伝説のGKルイス・ミゲル・アルコナーダに対する "No pasa nada, tenemos a Arconada.(心配ない。我々にはアルコナーダがいる)"のような、後世まで語り継がれるフレーズができたほどだ。
コバチェビッチのゴールへの貢献度は非常に高かったため、我々は"Si Darko gol, no problem"と言うようになった。それは、「彼がゴールを決めると負けないので、我々は落ち着いていられる」という意味だった。
今回のコラムをこのような形で始めたのは、私がこれから主張する内容を理解してもらうためだ。最近の試合で、イマノル・アルグアシル監督が久保建英をベンチに置いていることは何の意味もない。ラモン・サンチェス・ピスフアンでのセビージャ戦で見せたゴールやすばらしいプレーのあと、それはより明らかとなった。
久保は驚くべきことにラ・リーガ2試合で控えに回ったあと、セビージャ戦でまるで失われた時間を取り戻すかのように集中した状態でピッチに飛び出した。そして対峙した左サイドバックのアドリア・ペドロサをカットインして抜き去り、ボックス内からトレードマークと言うべきゴラッソを決めたのだ。
今や久保はラ・レアル(レアル・ソシエダの愛称)において、コバチェビッチに並ぶ重要なレベルに達しようとしている。それほどまでに彼のゴールは、ラ・レアルが生きながらえるのに必要不可欠なものとなっている。「久保がゴールすればラ・レアルは負けない」。それは数字としても証明されており、今季はより顕著になっている。
久保はステージ・フロント・スタジアムでのエスパニョール戦、レアレ・アレーナでのバレンシア戦に続くセビージャ戦のゴールで、今季2ゴールのミケル・オヤルサバルとオーリ・オスカルソンを上回り、ラ・リーガのチーム得点王となっている。
そして、それらすべてのゴールが勝利に貢献している。そのためサン・セバスティアンで大きく成長したこの日本人選手に対して、我々は大袈裟ではなく、こう叫ぶことができる。
"Si Kubo gol, no problem.(久保がゴールを決めれば問題なし)"
伝説の選手コバチェビッチへのフレーズを久保に使いたくなる気持ちの背景が、これでおわかりいただけたはずだ。
【久保のベンチスタートに意味はない】
重要なデータにも注目してほしい。ラ・レアルはラ・リーガでここまでに手にした勝ち点15のうち、久保のゴールによって勝ち点9を獲得している。これはその重要性を物語っている。久保はこのチームにおいて、ケガか出場停止でもない限り、控えに回ってはいけない存在ということだ。
セビージャ戦ではまた、久保の傑出したパフォーマンスにマッチMVPというスパイスが加わった。この日はいつも以上にやる気に溢れ、積極的な姿勢を見せていた。ドリブルを5回成功させ、枠内シュートを3本打ち、アタッキングサードでキーパスを5本送り、敵陣でボールを3回奪い返した。さらによき理解者である右サイドバックのジョン・アランブルをサポートし、守備でも貢献。今季ここまで、シュートを1試合平均1本放ち、4試合に1度ゴールネットを揺らしている。
彼は今、ラ・レアルで最も違いを生み出せる選手だ。イマノル監督が久保をベンチに置くのは宝の持ち腐れであり、彼の魔法はピッチの中で生かされるべきだ。
最多得点を記録し、攻撃陣のなかで最も好調な彼がベンチスタートとなることにどんな意味があるのか?チームが得点面に大きな問題を抱えているとなると、なおさら疑問を感じる。
ラ・レアルはボールをより多く保持して相手ペナルティーエリアに進入し、毎試合チャンスを作っているチームだ。それにもかかわらずラストパスの精度を欠いている。それこそが得点力不足の原因のひとつと考えられる。
ペナルティーエリアに進入した時は、もっと正確にプレーしなければならない。それができていないために、今季は高い代償を払わざるを得なくなっているのだ。
そして得点力不足を解消したいのなら、何よりも久保がスタメンに名を連ねることが重要だ。彼がピッチにいればラ・レアルはより多くのチャンスを作り出す危険なチームになれるし、ゴールを増やすこともできる。私の意見の正当性はデータが証明してくれている。彼は絶対にレギュラーでなければいけない。
イマノル監督は得点力不足の解決策のひとつとして、これ以上何を考える必要があるのだろうか?久保が試合に出ればその問題はさほど大きなものではない。単純なことだ。
【久保がボールを支配するのが重要】
決定機を生み出すためには久保にボールを渡す必要がある。そしてミケル・オヤルサバルとアンデル・バレネチェアが彼と一緒に前線でプレーすべきだと私は思っている。彼らは昨季のチャンピオンズリーグでラ・レアルをグループリーグ首位に導いた選手たちであり、今季のチームにおいても最も傑出したトリデンテ(三又の矛。3トップを指す)を形成できる。
この3人を擁した昨季はゴールに事欠かなかった。その理由は、彼らがラ・レアルの攻撃にスピード、コンビネーション、イマジネーションをもたらしたからだ。それが成功の秘訣であった。そのため、今季もただそれを繰り返すだけでいいのだ。
大切なのはより多くのシュートではなく、ラストパスを正確に出して決定機をうまく演出し、すべてのチャンスを最大限に生かすこと。それが実現できれば相手守備陣は久保たちをもっと警戒するようになるため、ペナルティーエリア外からのミドルシュートに優れたほかの選手たちへのマークが甘くなり、より多くのシュートチャンスが訪れる。
それはまた、圧倒的な力を持つバルセロナをレアレ・アレーナで迎え打つ、次節の解決策になり得るかもしれない。
今のバルセロナは、決定機を逃せば非常に高い代償を払わされるチームだ。ラ・レアルは手にする少ないチャンスを生かさなければ確実に負けることになる。アウェーの地といえどもバルサは決して手加減してはくれない。ラ・レアルにもチャンスは回ってくるだろう。しかし、それをものにできなければ逆に失点を喫してしまう。
勝利のカギは効果的にプレーすることだ。そしてラ・レアルが大きく開いたウインガーを両サイドに配して戦うゲームプランにおいて、久保が自由に動き回り、ボールをできる限り支配するのが重要となる。
また、ラ・レアルはラ・リーガ屈指の敵陣でのボールリカバリー数の多いチームでもあるため、その際に緊張感と犠牲心を維持できれば、バルサが快適に走って攻撃するのを阻止できるはずだ。
バルサを止めるために敵陣で激しくプレスをかけ続けるリスクを冒すことになるが、勇気がなければハンジ・フリック監督率いる勢いがあるチームには勝てない。
でも心配ない。今のラ・レアルには集中力が高まっている久保がいる。そして我々は"Si Kubo gol, no problem.(久保がゴール決めれば問題なし)"ということを知っている。
(髙橋智行●翻訳 translation by Takahashi Tomoyuki)
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