クリスマスを舞台にした映画には、心がはやる師走の気持ちを和ませるような、温かな作品が多いという特徴がある。クリスマス映画はハリウッドのお家芸とも言えるジャンルの一つ。古くは『素晴らしき哉、人生!』(46)や『ホワイト・クリスマス』(54)など、いまなお愛され続けている名作も散見させる。11月8日(金)より公開の『レッド・ワン』もクリスマスが舞台。クリスマス映画というジャンルのなかでも、サンタクロースを描いた作品に属している点が重要なのだ。
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世界中の子どもたちにプレゼントを配る準備で慌ただしいクリスマス・イブの前夜。サンタクロース(J・K・シモンズ)が何者かに誘拐され、サンタの護衛隊長カラム(ドウェイン・ジョンソン)は“世界一の追跡者”と評判の賞金稼ぎ、ジャック(クリス・エヴァンス)と手を組んで、サンタクロース救出に向かうというのが本作のストーリー。タイトルの“レッド・ワン”とは、赤い服にちなんだサンタクロースのコードネームを指している。そもそもサンタクロースの服が赤いのは、モデルとなった聖ニコラウスが着ていた司祭服が赤かったことに由来する。
■様々なアプローチで描かれてきたサンタクロース
サンタクロースを描いたクリスマス映画として、知られざるサンタクロースの誕生秘話を描くような直球の映画がある一方で、サンタクロースの存在を巡ってクリスマスの意義を再考させるような映画も定番だ。そういう意味で、『レッド・ワン』は両方の要素を兼ね備えた作品だと言える。クリス・エヴァンス演じる賞金稼ぎは、子どものころからサンタクロースの存在を信じていないという設定。その彼が、サンタクロース奪還のミッションに関わることで、クリスマスの意義を悟ってゆくのだ。勿論、J・K・シモンズ演じるサンタクロースの人となりや歴史といったバックグラウンドも描かれている。
■変化球気味のサンタクロース像が続々登場
近代のクリスマス映画で描かれてきたサンタクロース像は、変化球気味だったという経緯もある。例えば、『バイオレント・ナイト』(22)。『ヘンゼル&グレーテル』(13)でグリム童話をアクションホラーに変換させたトミー・ウィルコラ監督は、この映画でサンタクロースを武装強盗団と戦う飲んだくれの老人として登場させた。また、『ブラザーサンタ』(07)ではヴィンス・ボーンが詐欺を働くサンタクロースの兄を演じ、『バッドサンタ』(03)ではビリー・ボブ・ソーントンがサンタクロースの扮装で金庫破りを働くアルコール依存症の男を演じるなど、品行方正とは程遠いキャラクターが、クリスマス映画の主役を飾っていた。
そもそも近代のクリスマス映画は、変化球な設定の作品こそが主流であるような印象もある。例えば、家族総出のクリスマス休暇で置いてけぼりを食らった少年を描いたマコーレー・カルキン主演の『ホーム・アローン』(90)や、入手困難な息子のクリスマスプレゼントを手に入れるため父親が奮闘するアーノルド・シュワルツェネッガー主演の『ジングル・オール・ザ・ウェイ』(96)のように、“家族愛”をクリスマスの騒動によって描いた作品。あるいは、雪が降らないロサンゼルスのクリスマスを舞台にした、『ダイ・ハード』(88)や『リーサル・ウェポン』(87)といったアクション映画も、ある意味ではクリスマス映画だと言える。『レッド・ワン』の場合は、『ブラックアダム』(22)のドウェイン・ジョンソンと、マーベル・シネマティック・ユニバースでキャプテン・アメリカ役を演じ、『ファンタスティック・フォー[超能力ユニット]』(05)ではヒューマン・トーチ役を演じたクリス・エヴァンスによる、DC×マーベル俳優がコラボしたという楽しみ方もある。
■『レッド・ワン』が見せる独自のサンタクロース像
ちなみに今作では、J・K・シモンズが演じるサンタクロースが異色のアプローチで演じられている点も見逃せない。彼はスペインのアニメーション映画『クロース』(19)ですでにサンタクロースの声を演じているが、『レッド・ワン』では私たちの暮らす世界とサンタの世界とを往来しながら、“人間ではない”得体の知れない雰囲気を表出させている。筋トレで鍛えられたマッチョな姿は一見するとサンタらしくないけど、やはりサンタらしいという、独自のサンタクロース像を構築しているのだ。このことは、誰もが想像するステレオタイプなサンタクロース像が、時代にそぐわなくなったという証左の一つだが、「もはやサンタの存在は必要ないのではないか?」とまで、この映画では描かれている。劇中では、その理由の一つとして「風紀の乱れた社会傾向」が挙げられている。
■クリスマス映画の伝統を継承する『レッド・ワン』
誰もが感じる不穏な社会の風潮に対して戒めが必要だとするクリスマスの魔女グリラ(キアナン・シプカ)の主張は、世にまかり通りつつある厳罰を求める傾向とも無縁ではないだろう。一方で、「それでも諦めない」と諭すサンタクロースの言葉には、たとえ“ダメ人間”であっても見放さないという信念がみなぎっている。サンタクロースは「諦めないことで変化を導くはず」だと信じているのだ。そのため、大人になったジャックのサンタクロースの存在に対する認識が、一転「サンタはいる」と変化している点が重要に思えてくる。なぜならば、『レッド・ワン』のジェイク・カスダン監督は、『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』(17)や『バッド・ティーチャー』(11)などで“愛すべきダメ人間”たちを描き続けてきた映画監督だからだ。
ジェイク・カスダン監督はキャラクターを個性的に描き分けることに長け、群像劇を得意としてきたが、彼の父親であるローレンス・カスダンも映画監督として『シルバラード』(83)や『再会の時』(85)などの群像劇を手掛けてきたという共通点がある。奇しくも父親が得意としたジャンルを、息子ジェイクは継承しているのだ。先述の『ホワイト・クリスマス』や『素晴らしき哉、人生!』、あるいは、「クリスマスキャロル」を翻案した『3人のゴースト』(88)、加えて『グリンチ』(00)や『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(93)など、クリスマスを舞台にした映画では、軋轢のあった人間関係がクリスマスを機に相互理解や和解を迎えてゆくという姿を描いてきた伝統がある。昨今は意外に少なかった、予備知識なしに誰もが楽しめるクリスマス映画『レッド・ワン』にも、実は同様の伝統が継承されていることを終幕で悟ることになるだろう。
文/松崎健夫
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