「イヤな上司の言葉は入ってこなくても、好きな女性の言葉だと素直に聞ける。愛し続ければ、振り向いてもらえなくてもその女性の長所が自分の中に入ってくる。片思いは人間を向上させると思うんです」と語る杉作J太郎さん
2017年から故郷の愛媛県で帯番組のディスクジョッキーを務めている杉作J太郎が、執筆に10年かけたという新著『あーしはDJ』。本人が「作家人生の集大成」と語る渾身の一冊について、ラジオにかける思いについて、はたまた自身の恋愛観について熱く語ってもらった!
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――以前のインタビューで、「20歳のとき、病気で入院したときの唯一の楽しみがラジオだった」とおっしゃっています。
杉作
そうでした。テレビはコア視聴率が大事だから、購買力のある人、つまり仕事をしている健康的な人に向けたものになっていました。
そのため、弱っているときに見ると「俺が死のうが生きようが世の中は動くんだな」って絶望的な気持ちになるんです。その一方で、ラジオは弱っている人にしゃべりかけてくれるメディアなんですよね。
――実際、私も数年前に手術をしてへこんでいたのですが、その時期にすがっていたのが杉作さんのラジオなんです。
杉作
本当ですか!ただ、僕は「皆のためにラジオをやってる」なんて言いながら、その"皆"には僕自身も含まれていますから。基本的に僕は常に信じられないぐらい孤独でうまくいってないので(笑)。
そういう弱っている人たちが聴いてイヤになる放送は絶対したくないんです。中には「俺の話を聞けば流行がわかる」みたいな、どれほど自分に価値があるかアピールしたくてしゃべる人もいるように思うんです。
その点、僕は「俺がどれぐらい絶望の淵にいるのかを教えてやる」ぐらいに思っていますから。
――ところで、『杉作J太郎のどっきりナイト』だった番組タイトルが、21年から『ファニーナイト』に変わった理由を教えてください。
杉作
大きな地震が起きた日の夜にラジオがあったんですが、地震当日に『どっきりナイト』という番組名は言いにくかった。
程度の差こそあれ、災害ってしょっちゅうあるわけだから、『どっきりナイト』は厳しいということで番組名を変えました。
被害が出ている日に『どっきりナイト』なんて言ったら、被災者の方々は「杉作の視界に私たちは入っていないんだな」「自分は切り捨てられている」と思うはず。僕ね、「切り捨てる」っていうのが一番イヤなんです。
番組のリスナーには恋人のいない人も相当います。だから、メールで「今日は彼女とデートして、キスって気持ちのいいものなんですよ」とか......まあ、そんなの送ってくる人はめったにいませんけど(笑)、そういう投書はやっぱり読めないですよ。だって、ひとりでラジオを聴いている人たちがどれほどショックを受けるか......。
――杉作さんはTikTokもスタートされましたが、投稿している食べ物も「いいものは載せないようにしよう」と意識されているんですか?
杉作
どっちみちいいものを食べてないので、結果的にそうなってるだけです(笑)。でも、いいものを食べても載せないでしょうね。あと、僕がすてきな女性と食事したとしても、その女性の存在は隠すと思います。
昔、菅原文太さんが写真週刊誌に激怒したことがありましてね。別にスキャンダラスな写真が掲載されたわけではなく、文太さんが家族と食事したり遊んでいる私生活の写真が載っていた。その記事に、文太さんがまあ激怒したんです。
その頃の文太さんは『トラック野郎』や『仁義なき戦い』に出演する東映の俳優でした。「東映の映画館に来ているのは、家庭もなければ奥さんも子供もいない人ばっかりなんだよ。俺はその人たちを裏切りたくないんだ」と。本当は家族との生活もあるけれど、それを皆に見せてがっかりさせたくない。
例えば、アイドルも彼氏や好きな人はいると思うんです。でも、あえて見せないじゃないですか。プロとしての最低限のマナーだと思うんです。
――昔、モーニング娘。のファンが「○○って処女だよな?」「おおー!」と盛り上がっている姿を見て「なんてピュアなやつらなんだ!」と杉作さんが感動したという話がありました。
杉作
だから、元アイドルの方が「当時から彼氏がいたんです」と言ったとしても、僕は恋人はいないと言っていたその方に「本当にありがとうございました!」って言うと思います。
――話は変わりますが、今作を読むとやはり(『新世紀エヴァンゲリオン』の)「綾波レイ」が重要な存在だなと思いました。今、ラジオに出ている杉作さんは以前に比べて優しさがより強く表に出ている印象を受けるのですが、その理由に「綾波さんみたいになりたい」という思いがあるのかなと感じました。
杉作
たぶん、あると思います。綾波さんのような慈愛に満ちた女性に接したとき、僕は感動するんです。そして「うわぁ、すてきだな」という感動を繰り返しているうちに「なれないだろうけど、自分もそうならなきゃいけない」と思っている。
――本の中の「綾波さんは俺なのだ」という一節は特に響きました。理想とする人が自分の中にあり、綾波レイという女性にその理想を投影している。つまり、「俺がなりたいのは綾波さんのような人である」と。
杉作
そうなんですよ!好きな人の言ってることって自分に吸収されますよね?イヤな上司がガミガミ言ったことは入ってこなくても、好きな女性が言う言葉だと「ああ、そのとおりだな」って素直に聞ける。
ある女性を一生懸命愛し続ければ、振り向いてもらえなくてもその女性の長所が自分の中に入ってくる。片思いって、すればするほど間違いなく人間は向上していくと思う。だから、片思いは無駄にならないんですよ。
その対象はアイドルだっていいんです。例えば、篠崎愛さんの写真集を手に入れられない人が隣町、そのまた隣の町、ものすごい遠い町まで行ったらようやく見つかった。
もし、その彼にむしゃくしゃしたことがあったとしても、そんなに無駄な時間を過ごしたらそれどころじゃないくらいケツに火がついてるはずです!
それと同時に、すてきな篠崎愛さんのきれいなグラビアが手に入ったことによる満足感があるはずですから。だから、好きな人が与えてくれるものを求めていかないと。
とにかく、片思いを推進していきたいですね。そういう意味でも『週刊プレイボーイ』はいい本だと思います。こんな片思い大全集みたいな本はないからね!
■杉作J太郎(すぎさく・じぇいたろう)
1961年生まれ、愛媛県出身。詩人、ラジオDJ、漫画家、狼の墓場プロダクション局長(映画製作)。82年、『笑ってる場合ですよ』(フジテレビ)のお笑い新人オーディションに合格。同年、『月刊漫画ガロ』で漫画連載開始。86年から『週刊平凡パンチ』で編集者に。放送作家、映画俳優、プロレス解説者などを経て、2017年、故郷の松山市に帰り、ほぼ毎日、『杉作J太郎のファニーナイトHUG』(南海放送。番組タイトルはもろもろ変遷あり)のDJを担当している
■『あーしはDJ』イースト・プレス1980円(税込)
四国・松山からほぼ毎夜オンエアされているラジオ番組『杉作J太郎のファニーナイトHUG』(南海放送)でDJを務める杉作J太郎が10年かけて書き上げた渾身作。基本的に日記形式になっており、ラジオ番組が一晩続く形で話が続いていく"読むラジオ番組"。「あーし」(性差を超えた一人称)=J太郎が、落ち込んだり、うれしくなったり、死にかけたりしながら、孤独や慈愛とどう対峙するかをつづった。声に出して笑ってしまう箇所、多し!
『あーしはDJ』イースト・プレス1980円(税込)
取材・文/寺西ジャジューカ撮影/関根弘康
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