現在開催中の第37回東京国際映画祭(TIFF)において11月4日、「ガラ・セレクション部門」に正式出品されている『劇映画 孤独のグルメ』(2025年1月10日公開)のジャパンプレミアがTOHOシネマズ日比谷で行われ、監督、脚本、主演を務める松重豊が出席。上映後の会場から「ごちそうさまでした」「おかわりします!」と本作ならではの賛辞と拍手を浴びた。
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原作の久住昌之、作画の谷口ジローによるハードボイルドグルメ漫画を原作とし、2012年からテレビ東京系列で放送されている人気ドラマの劇場版となる本作。輸入雑貨商を営む主人公、井之頭五郎(松重)が、営業先で訪れた土地で見つけた食事処にふらりと立ち寄り、食べたいものを独り自由に食す様子を1話完結で淡々と描いたドラマは、食欲をそそる料理と松重演じる五郎の大胆な“食べっぷり”や“心の声”に多くの共感が生まれ、その魅力にハマる人が続出。このたびテレビ東京開局60周年特別企画として、『劇映画 孤独のグルメ』となって登場する。
上映が終わると大きな拍手が湧き起こり、熱気ムンムンのなか松重が登場。さらなる拍手と歓声を浴びながらステージに上がった松重が「お腹が空いている時にすみません」と食欲をそそる映画を観終わった観客に謝ると、会場は大爆笑。「12年前に小さな深夜ドラマとして始まった番組が、東京国際映画祭のこのような晴れの舞台でご覧いただけた。とにかく感無量です。笑っていただけたのがなによりです。スタッフ一同、感無量です」と喜びをかみ締めていた。
シリーズで主人公を演じ続けてきた松重が、監督、脚本、主演を務めた本作。経緯について松重は、「2年くらい前に(ドラマが)シーズン10という節目を迎えた。これから続けるか、辞めるかという時に、どんどん若いスタッフもよそへ行ったり、お別れすることが多くなって。この番組で育っていけばいいのに、そういう環境にないという、いまのテレビドラマの現状があった」と告白。
「一回仕切り直そう」という想いから映画化に至ったというが、「ただおじさんが腹減って食べるだけのものを映画化するには、相当な力技が必要だなと思った」と正直に打ち明けつつ、「幸いなことに韓国でも人気のある作品でしたので、ポン・ジュノさんに監督してくれないかと手紙を書いて。監督してくれないかなと思ったら『忙しいから無理だ。でも完成を楽しみにしているよ』という無責任な手紙が返ってきまして(笑)」と一度はジュノ監督に打診したという。さらに「参ったな」と悩みを深めた松重は、「その手紙を受けた夜に、ふと『俺が監督しようかな』と漏らしたら、うちの社長も『いいんじゃないですか』と。翌々日ぐらいには主なシノプシスを書いて、みんなに見せて。『こういうことを考えているんだけど、どうかな』と言ったら、みんなも『やりたい』と言ったので、じゃあみんなで一緒に頑張って映画化しようということになりました」とこれまでの道のりを明かした。
松重が、会場の質問にも答えたこの日。ドラマとはまた違った音楽を楽しめたという感想もあったが、「いままでのテレビシリーズは、原作者の久住さんが率いるバンド『スクリーントーンズ』さんにすべて劇伴を作っていただいた」と切り出した松重。さらに映画用として「僕が昔からよく知っているKan Sanoさんにお願いしています。フランスパートやオープニング、ラストはピアノをメインにしたいと思っていた。ピアノが流れていくなかで物語が淡々と進んでいくことで、いろいろな人の感情を呼び覚ます効果を狙いたかった」と意図を紹介。「最終的にはピアノが映画のエンディングを飾るにふさわしいと思っていました」と語った。
主題歌に決定したのは、「ザ・クロマニヨンズ」の「空腹と俺」。松重は、「ザ・クロマニヨンズ」の甲本ヒロトと「40年来の友達」だという。松重は「僕が最初に8ミリで映画を撮り始めた時の主演俳優である、甲本ヒロトくん。彼が率いる『ザ・クロマニヨンズ』に主題歌をお願いしたかった。ものすごくカッコいい。これぞ、『ザ・クロマニヨンズ』。これぞ、腹減ったという曲」と目尻を下げながら、「40年前、腹を空かせてラーメン屋でバイトをしていた2人のことを思って、書いてくれた曲。それが初っ端でかかると、僕のなかでは心が震えます」としみじみ。音楽面では「スクリーントーンズ」、Kan Sano、「ザ・クロマニヨンズ」という「3つの力強い味方を得た」と感慨深げに話していた。
最後には「『思ったよりよかったな』という気持ちを胸に留めずに、ぜひ外にどんどん発信していただけたらありがたい」と呼びかけて会場の笑いを誘った松重。「テレ東の深夜番組が映画になって、しかもその主役をやっていたヤツが監督をやったらしいよとなると、笑い話にしかならないような試み。ぜひ皆さまのお力を借りて、この映画は意外とおもしろいじゃないかと(アピールしてほしい)。今日は英語の通訳の方も入っていた。フランスでもぜひやりたいと思っています」と海外進出も狙っていた。
取材・文/成田おり枝
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