パワハラ問題などで失職した斎藤元彦前知事の立候補で注目されている兵庫県知事選挙。主な候補者たちの話や現地の温度感など、戦いの舞台をのぞいてみた!
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■兵庫県民の声は実際どうなのか?
11月17日(日)に投開票される兵庫県知事選挙。一番の注目点は斎藤元彦前知事の再選はあるのか?ということだろう。
まずは、事の経緯をおさらいしておこう。
今年3月、当時の西播磨(にしはりま)県民局長(以下、局長)が斎藤前知事のパワハラやおねだりを告発する文書をマスコミなどに配布したことから始まった。
その後、局長は停職3ヵ月の懲戒処分となる。告発文には事実と認められる箇所もあることから兵庫県議会は「百条委員会」の設置を決定したが、委員会運営についての協議をしているさなかの7月7日に局長が亡くなる。さらに9月19日の県議会で斎藤前知事の不信任案が可決され、9月30日付で失職。そして、出直し選挙に立候補することを表明した。
実際、兵庫県民はどう思っているのだろうか。週プレが独自に18歳以上の男女、支持政党にこだわらず、住宅街から繁華街まで分散させ50人に今回の選挙で誰を支持するかのアンケートを取ったところ。
斎藤元彦......16人
稲村和美......8人
清水貴之......2人
大澤芳清......2人
斎藤元彦以外の誰か......16人
わからない......6人
との結果となった。ちなみに、わからないという人が多かったので、その人たちに斎藤元彦かそれ以外かと新たに質問して選択肢を増やした。
この結果や神戸新聞の世論調査などを踏まえると、斎藤vs稲村の一騎打ちになることが大方の予想だ。そこで、今回はこのふたりに絞って取材を敢行した。
■女性支援者の多い斎藤氏
まずは、斎藤氏。失職した当日の朝から主要駅前に立ち、県民にひたすら頭を下げて挨拶をする街頭活動を行なっていた。当初は批判の言葉をかけられることも多かったという。
記者が目撃したのは、JR加古川駅で高齢の男性が斎藤氏に近づき「あんたのせいで人が死んだんや。どうやって責任取るつもりや!」とすごむシーン。斎藤氏は無言でその男性に頭を何度も下げるしかなかった。
しかし、街頭活動を重ねるうちに批判的な人は減り、斎藤氏を応援する人たちが周りに集まるようになっていった。
前知事の斎藤元彦氏
10月11日JR三ノ宮駅前の挨拶でも支持者が囲み始めた。その8割方は女性で、年齢は20代から80代と幅広い。中にはサインをもらおうとしているのか、色紙とサインペンを手にした女性もたくさんいる。誰が名づけたのか"斎藤ガールズ"と呼ばれる人たちだ。
気づけば40人ほどが握手、サイン待ちの行列を作っていた。順番が来た女性は斎藤氏と握手し、言葉を交わし、写真を撮り、色紙にサインをもらう。ファンレターなのか手紙を渡す女性もいた。
JR三ノ宮駅前で斎藤氏との握手に並ぶ列
その中の女性数人に話を聞いたところ、斎藤氏の外見だけに引かれたミーハーなのかと思いきや、みんな、なぜ応援するかの理由を明確に語るのだった。
「最初、テレビのニュースなんかを見て、この知事はひどい人なんやと思ってました。ただ、ずっと彼を袋叩きにするような報道が続くのを見ていると何かおかしいなと思って、自分でもXとかで検索して調べ始めたんです。そしたら、報道とは全然違う。『応援して、助けないと』と強く思いました」(40代・主婦)
「兵庫県は学校や教育にかける予算が全国で最低だったそうです。県庁舎の建て替えにかける予算をいったん凍結させて、子育てや教育に回したから、こうやって内部から攻撃されているんだと思います。でも私たちは、そちらにお金をかけてくれるほうがうれしいですから」(40代・パート)
子連れの母親が斎藤氏にお礼を述べるシーンも
そして、こんな人も。
「主人が勤めている子供病院に、斎藤さんが先月Wi-Fiを導入してくださったんです。入院している子供たちに動画などを見せてあげるのに必要でしょうって。それにすごく子供たちが喜んで、主人がお礼を言ってきてほしいというので、それを言いに来ました」(30代・主婦)
斎藤氏本人に斎藤ガールズと呼ばれる女性支援者が増えていることについて聞いてみた。
「非常にうれしいことです。今日も9通、励ましのお手紙をいただきました。最近は毎日それくらい皆さんから手渡しでいただいています。
皆さん本当に私がやってきたことをよく調べられていて、先日は高校生がやって来て、私になってから『トイレがきれいになった』『部活の道具が新しくなった』とお礼を言ってくれました。
兵庫県はこれまで、箱ものやインフラに多くの予算をかける県政だったんですが、それを県民、特に子供たちに渡るようにすることを目指してやってきた。そこを評価して、応援していただいているのではないかと思います」
斎藤ガールズが行列を作る現象を見ていると、東京都知事選挙で起こった石丸(伸二)フィーバーの様子がよみがえってくる。3年間の実績ある前知事と地方都市の市長では実績は異なるが、有権者を席巻するようなフィーバーが兵庫でも起こるか注目だ。
斎藤氏のサインには「兵庫の躍動を止めるな!」の文字
■県政の混乱回復を目指す稲村氏
対する稲村和美氏からも直接話を聞くことができたので、一問一答形式で答えてもらった。
――多くの有権者が今回の選挙の争点として挙げるのが「知事の資質」だと思うのですが、これについての思いを教えてください。
「斎藤県政の一番の課題はコミュニケーション不足、対話不足だったと思います。それは県庁内だけでなく、県内の市町村の首長さんらとの間でもあったと思います。というのも、私が尼崎市長をやっていた頃、斎藤さんとは市長と知事の関係だったんです」
――確かに1年半ほどの間、知事と市長という関係でした。
「市長会というのがあって、市長らと知事が集まる会は斎藤県政でも行なわれていましたが、それ以外の尼崎市と兵庫県の懇話会だったり、阪神南エリアと県の懇談会などは斎藤県政になり、減っていきました」
――明石市の泉房穂(ふさほ)前市長は斎藤氏から電話を着信拒否されていたことが話題になりましたが、稲村さんは?
「それはされていないです(笑)。ただ、早急に判断しないといけない案件があって面談を依頼したんですが、調整に時間がかかって、すぐに応じてくれなかったことがありました。
このときのように首長が県の意向を確認したいケースは優先順位を高めて対応するべきです」
前尼崎市長の稲村和美氏
――例えば、どんな改善方法が?
「兵庫県は広いので、その地域をよく知る県の担当者がしっかり知事との間を調整していくとか、やり方はあると思います」
――斎藤県政とは違う、稲村さんならではの目玉政策はありますか?
「まず、県政の今の混乱を収めて、本来の力を発揮できる県庁組織にしなければいけません。やはり知事ひとりでできることには限りがあるので、県職員も意識改革をしていかないといけない。
今までは進言や提案を知事に届けやすい組織とはいえない状況だったのではないかと思います。
例えば、体育館の授乳室を知事の更衣室に使った件も、知事に『ここは県民優先の施設なので、知事の控室はまた別に用意します』といったことが当たり前に言えない。
そういうことが今回の文書問題の発端になっていると思うんです」
――ちなみに、5期20年続いた井戸(敏三)県政からの脱却を図ってきた、斎藤県政の3年間を評価はしていますか?
「県庁舎建て替えの建設費をできる限り抑制していくという方針は、私は賛成ですし、県職員OBの外郭団体への天下りについて、65歳以上を禁止する制限をしたのも当然のことです。県立高校の設備改善も斎藤さんが行なった、いい政策のひとつでしょう。
ただ、県立大学の授業料無償化は反対です。県立大学だけでは、恩恵を受けられる人が限られますし、県立大学に行きたい学部がないというケースも考えられます。
そういう意味では、もっと幅広い学生、例えば県内の大学に通われる方、または県内に住みながら他府県の大学に通われる方を対象にした支援策のほうがいいと思います」
イベントに参加する稲村氏。イベント内の新喜劇にも出演
――斎藤前知事の対抗馬ですので、斎藤県政と反対の立場で出馬されているのかと思っていました。中には、稲村さんが知事になったら、井戸県政時代に逆戻りすると考える人もいると思います。
「井戸県政をすべて否定するわけではありませんが、戻すことは絶対にありません。特に井戸県政の財政的な部分は大きな改革が必要だと思っていましたし、ある種の閉塞感が漂っていました。
だからこそ、井戸県政を変えようとする斎藤さんが当選したときは私もすごく期待していました。ところが、ふたを開けてみれば、改革が抜本的に進むこともなく、さらに組織上のマネジメントの問題が露出して、今回のような混乱まで引き起こした。外から見ていて、非常に歯がゆく、もどかしい思いなんです」
――最後に、今回の選挙はどうやって戦いますか?
「今回はこれまで経験したことがなかった、全国のメディアが注目する選挙戦になると思います。
兵庫県の未来がかかっている選挙。それだけに、表面的な情報に振り回されるのではなく、討論会などで直接見聞きした一次的な情報を基に判断していただけたらと思います。私自身も地道にそれを訴えて、多くの方と対話を重ねていきたいと思っています」
■立花孝志氏が斎藤氏を応援
今回の選挙では、告示日の直前に、NHKから国民を守る党代表の立花孝志氏が立候補を表明したこともニュースになった。
というわけで、立花氏にも直撃を試みた。
――出馬の理由については?
「今回の斎藤前知事のケースは、うちの党にも国会議員がいますので、その国政調査権を使っていろいろ調査した結果、『内部告発』の悪用ではないかという党としての結論に至りました。
告発文も事実ではない事柄を並べたもので、こういうことをしてまで県政を混乱させようとしたことや県政を改革しようとした斎藤前知事をおとしめたことについて、県民の皆さんに本当のことを知ってもらいたい。それには発信力のある私が立候補して説明することが一番かなと思いました」
――一連の流れに疑問を感じると?
「私自身、NHKに関する内部告発を『週刊文春』にしたことが今につながっています。実際に内部告発をやった身として、内部告発の重要性は認識しているつもりです。ただ、今回の告発は、果たしてそうだったのか、いろいろ調べた上での結論です」
斎藤氏の応援のため立候補を表明した立花孝志氏
こうした立花氏の応援姿勢を斎藤氏に伝え、話を再び聞いてみた。
「立花孝志さんのことはメディアで拝見させていただいただけで、直接お会いしたことも、お話ししたこともないんです。
私自身はこれまでの駅立ちや街頭活動など自分がやるべきこと、やるべき準備を一日一日愚直にやっていく。それに尽きるんじゃないかなと思っています」
最後に、斎藤氏にも今回の選挙の意気込みを聞いてみた。
「今回は兵庫県だけでなく、日本社会にとっても大きな分岐点になる選挙だと思っています」
日本社会の分岐点とは?
「ご存じのように、いろんなメディアの報道があったかと思います。しかし、街頭活動などで県民の皆さんと話をしていると、それ(メディアの報道)に対して、懐疑的な見方をされる方がたくさんいらっしゃいました。自分で調べた内容とメディアの報道を比べて、何が正しいのかを自身で判断される方が多くいらっしゃったんです。
メディアの報道に対するリテラシーが問われる、すごく大事な分岐点になる選挙だと思っています」
果たして、その結果はどうなるのだろうか。
取材・構成・撮影/ボールルーム
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