敵地で3連勝を飾り、日本シリーズ制覇に王手をかけていたDeNAが11対2でソフトバンクの下し、26年ぶりの日本一を達成した。
試合は2回に筒香嘉智のホームランなどで3点を先制し、3回にもソフトバンク先発の有原航平の押し出し四球で1点を追加。ソフトバンクも4回に柳田悠岐の2ランで2点差に詰め寄るも、5回に決定的な7点を奪われ万事休す。
シーズン3位からセ・リーグのチームとして初の「下剋上」を達成したDeNAだが、その最大の要因は何だったのか?ロッテ、中日、巨人で活躍した前田幸長氏に解説してもらった。
26年ぶりの日本一を達成し、胴上げされるDeNA三浦大輔監督photo by Kyodo News
【勢いを生んだ初回の桑原将志の安打】
──日本シリーズ第6戦はDeNAが11対2で圧勝し、26年ぶりの日本一を達成しました。
前田
敵地で3連勝した勢いそのままに、一気に押し切った試合になりました。正直、この展開になるとは予想していませんでした。
──筒香選手のホームランで先制しましたが、あの一発で一気に勢いがついた感じでしょうか。
前田
あのホームランも大きかったのですが、初回に桑原将志選手がヒットで出塁し、つづく梶原昂希選手の打球を有原投手が送球ミスをして無死一、二塁となってしまいました。結局、この回は無得点だったのですが、DeNAは「今日もいける」となったと思いますし、ソフトバンクとしてみれば受け身に回ってしまった。DeNAが福岡で3連勝してホームに戻ってきたわけですが、移動日と雨天中止があって2日間空いてしまった。DeNAにとっては、もしかしたら流れが変わるかもしれないという不安はあったと思うのですが、初回の攻撃でその不安はなくなったと思いますね。
──ソフトバンク先発の有原選手の調子はいかがでしたか。
前田
制球力のいいピッチャーなのですが、この試合はよくなかったです。シリーズ1戦目に投げた時はボールを動かしながらもストライクゾーンで勝負できていたのですが、6戦目はボール球を振らせたいという意識が強すぎた印象を受けました。なかでもチェンジアップ、フォークの割合が多く、おそらくその情報はDeNAベンチも把握していて、選手たちにも共有されていたと思います。筒香選手の先制ホームランも打った球はチェンジアップだったのですが、意識があった分、うまく反応できたと思います。
──一方、大貫晋一投手はどうでしたか。
前田
前回登板(シリーズ第2戦)は、3回途中4失点で降板。あの時は、大貫投手のほうが慎重になりすぎていて、今日の有原投手のようなピッチングでした。しかしこの試合はしっかりストライクゾーンに投げ込んでいたし、初回に二死三塁で山川穂高選手を空振り三振に打ち取りましたが、勝負球はストレートでした。山川選手とすれば、変化球が頭のなかにあったのか、まったく反応できていませんでした。
──第6戦は今回の日本シリーズを象徴するような試合で、5回にDeNAが7点を奪って試合を決めました。
前田
あの流れになってしまったら、もう止められないですよね。たしかにDeNA打線はよく振れていましたが、この試合でソフトバンク投手陣は押し出しの四死球を3つも出している。DeNA打線の"圧"がすごかったこともあったかもしれませんが、ストライクゾーンで勝負できないと厳しいですよね。
【ターニングポイントは第3戦】
──それにしてもパ・リーグを圧倒したソフトバンクが、セ・リーグ3位のDeNAにこういった形で敗れるとは想像もしていませんでした。
前田
これが短期決戦の怖さなのでしょうね。DeNAは連勝するけど連敗もある波の激しいチーム。シーズン中も「ものすごく強いな」という戦いを見せる反面、「こんなに弱かった?」という時もある。それがCSあたりから強いモードに入って、そのまま突っ走った感じがします。戦うごとに選手たちが自信をつけて、この短期間で一気に成長した。三浦大輔監督にとっても、ここまで強いチームになるとは......と想像していなかったのではないでしょうか。
──戦前の予想では「ソフトバンク圧勝」という声が多かったと思いますが、このような結果になった最大の理由は何だと思いますか。
前田
第1戦、第2戦とソフトバンクが敵地で連勝したことで、「これで決まった」という雰囲気になってしまった気がします。もちろん戦っている選手たちはそんなことを考える余裕はないと思いますが、知らず知らずのうちに周りのそうした雰囲気に流されてしまったというのはあったのではないかと......。小久保裕紀監督の「シリーズは3つ負けられる」発言も、本人はそういうつもりではなかったのかもしれませんが、今にして思えば余裕の表われだったのかもしれません。結果論と言われるかもしれませんが、2連勝したことでソフトバンクに"隙"が生じてしまった。
──ターニングポイントになった試合、シーンはどこだと思いますか。
前田
そうしたなかで迎えた第3戦、東克樹投手が先発して勝った試合ですね。あの試合で潮目が変わった気がします。シリーズ前、故障明けの東投手は第4戦に先発するのではないかと言われていました。それが第3戦に先発し、10安打を許しながらも7回1失点に抑えて勝利した。ソフトバンクにしたら、完璧に抑えられたわけじゃないのに点が取れないという、嫌な負け方になってしまった。ただ、あの時点ではそこまで深刻ではなかったかもしれません。それが第4戦で、アンソニー・ケイ投手に今度は完璧に抑えられたことで形勢が一気に変わりました。
──もともとDeNAは打つチームという印象がありますが、今回のシリーズでは投手陣の活躍が印象的でした。
前田
ソフトバンクが29イニング連続無得点のシリーズワースト記録を樹立するとは、想像もできませんでした。特にアンドレ・ジャクソン投手、ケイ投手の両外国人にここまで苦労するとは思っていませんでした。おそらくソフトバンクも、東投手に抑えられてもほかの投手からはある程度得点できるだろうという気持ちがあったと思うんです。それが想像以上にすばらしいピッチングをされて、ソフトバンクは焦ってしまった。その打者の焦りが投手陣にも伝わってしまい、「打たれてはいけない」という悪循環に陥った。
──シーズン3位からの下剋上で日本一を達成したDeNAですが、今回の日本シリーズを見て思ったことはありましたか。
前田
シーズンとCS以降の戦いはまったく別物だということです。これは今に始まったことではありませんが、最後の最後にピークを持ってきたDeNAの戦いは見事でした。ジャクソン投手、ケイ投手にしても、来日当初はストライクゾーンや環境の違いに苦労したと思うんです。それが経験を重ねて、日本の野球に順応し、シリーズで力を発揮した。ほかにも、MVPを獲得した桑原選手、離脱した山本佑大選手に代わってマスクを被った戸柱恭孝選手の活躍も見逃せません。みんなの思いが、この短期決戦に集約されて、シーズン中とはいい意味で別のチームになった。それが最大の要因ですね。あとは、短期決戦で勝つことはもちろん大事ですが、やはり長いシーズンを戦って勝てるチームになってほしいと思います。
前田幸長(まえだ・ゆきなが)
/1970年8月26日、福岡県生まれ。88年、福岡第一高のエースとして春夏連続甲子園出場。同年夏の大会で準優勝を果たす。その年のドラフトでロッテから1位指名を受け入団。1年目から一軍登板を果たし、2年目からローテーション投手として活躍。95年オフにトレードで中日に移籍。2001年オフにはFAで巨人に移籍。貴重な左腕としておもに中継ぎで活躍し、04年9月26日に通算500登板を達成した。08年にはメジャー挑戦のため渡米し、テキサス・レンジャース傘下の3Aオクラホマ・レッドホークスで中継ぎとして36試合に登板。チームの地区優勝に大きく貢献するも、シーズン終了後に20年のプロ野球生活に区切りをつけ現役を引退。現在は野球解説者を中心に多方面でも活躍中
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