11月3日、レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)の久保建英は、セビージャとの一戦で、チーム最多となるシーズン3得点目を決め、見事に勝利をもたらしている。あくまで暫定だが、ラ・リーガで下位に沈んでいたチームを10位まで引き上げた。
前半34分、久保はマルティン・スビメンディからのパスを右サイドで受けると、セビージャの左サイドバック、アドリア・ペドロサと1対1になっている。ボールを突きながら前に運び、後ずさりさせると、一気に中へ切り込む。そのスピードと急旋回に相手のカバーも遅れ(久保を相手に、中に入るコースを切っていなかったことは、チームの戦術的エラーだろう)、ペドロサの決死のタックルも届かず、最後はコースを見極めて左足を振ってゴールネットを揺らした。
セビージャ戦で先制ゴールを決めた久保建英(レアル・ソシエダ) photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA
"久保番"だったペドロサは、茫然自失だった。このシーン以外にも、久保に翻弄されていた。距離を詰めたら、簡単に突破される。そこで距離を取ったが、そうすると絶妙なクロスを入れられて、打つ手なしだった。前半途中、ペドロサのカバーに戻った左MFのスタニス・イドゥンボは、久保のスプリントに追いすがったが、その時に無理をしたことで筋肉系の故障を負ってしまい、交代に追い込まれていた。
「タケは悪魔だった」
スペイン大手スポーツ紙『アス』は、まるでセビージャの選手たちの心境を記すような寸評を与えている。
「試合開始から(80分に)に交代するまで、タケはセビージャのディフェンス陣をパニックに陥れていた。特にペドロサを悩ませ、彼にとって忘れることはない試合になっただろう。タケは攻撃に関与し続け、魔術を披露し、スーパーゴールを決めた。(ミケル・)オヤルサバルへ送った左足アウトのクロスも惜しかった......」
久保が、この一戦の主役だったことは間違いない。あらためて、右サイドからの仕掛けで、存在感を放っている。オヤルサバルへのクロスもそうだが、突破だけでなく、彼がボールを持つだけで、セビージャ陣営に緊張を走らせていた。ドリブルで運びながら、敵を自らに引きつけ、ブライス・メンデスのシュートもお膳立てした。存在そのもので、ラ・レアルの攻撃を牽引していた。
【「久保のゴールが決まれば負けない」】「ATAKEEFECTIVO」
スペイン大手スポーツ紙『エル・ムンド・デポルティーボ』の地方版の表紙は、ゴール後に荒ぶる久保の写真で、そう打電している。ATAKEは「ATAQUE(攻撃)」というスペイン語の一部を、TAKEともじったものである。地元の喜びが伝わってくるだろう。「EFECTIVO」は効果的な、という意味だ。
「タケはベストプレーヤーだった。すばらしい(コンディション)状態で、まさにリーダーの貫禄。毒を打ち込むような仕掛けで、"久保のゴールが決まれば負けない"と敵味方が知っているだけに、試合のカギになっていた」
久保はラ・レアル入団以来、19得点を記録しているが、その時の戦績はなんと17勝1分け。1度も負けていない。開幕以来、低空飛行を続けるチームで、「無敗将軍」のような立場にいるのだ。
「チームをけん引する、ということに対し、逃げも隠れもしない」
久保はスペインメディアとのインタビューのなかで語っている。「Tirar del carro」という、「荷車を引く」から転じ、「チームを引っ張る」と絶対的なリーダーを意味するスペインでは特別なフレーズを使っていた。それだけの覚悟があるのだろう。
彼の周囲は、とにかく騒がしい。
久保を擁護しているのかもしれないが、「監督は無能だし、こんなチームにいても意味がない。すぐに移籍すべき」と、暴論に近い雑音が常に起こる。それだけ注目される存在なのだろう。しかし久保自身がステップアップを望むのなら、ラ・レアルを引き上げるしかない。それは本人が一番承知しているはずだ。
その点で、セビージャ戦で久保が見せたプレーは満点に近かったが、本人は満足していない。
「(10点満点の)8点はつける。勝利につながったゴールを決められたし、結構、よかったと思う。けど、10はつけない」
スペイン大手スポーツ紙『マルカ』は、ゲームMVPに選ばれた後の久保のコメントをそう伝えている。
久保が求めるのはよりよいプレーで、絶対的な勝者の形なのだろう。たとえば前半の終盤、スビメンディからのパスに対し、スタートが遅れたか、もしくはポジションが悪かったのを、彼は知っている。もう1点、自らとどめを刺すプレーもできたはずだ。
11月7日、ラ・レアルはヨーロッパリーグ(EL)でチェコのプルゼニと対戦する。現在ELでは17位(8位までがラウンド16へ自動的に進出。9~24位がノックアウトフェーズ・プレーオフへ回る)。1試合で大きく順位が変わるだけに、上位に食い下がれるか。
チームはターンオーバー路線を採用しているだけに、通常であれば久保はベンチだが、現在の勢いを続けようとするならば、先発もあり得る。
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