京都国際高野球部×ライフキネティック 後編
【目と脳と身体の連携を高める】大会の成績の伸び悩みをきっかけに、2016年からドイツ発祥の脳活性化プログラム「ライフキネティック」を導入し始めた京都国際。「脳トレ×運動」という新要素のトレーニングを8年間継続し、今年の夏の甲子園では念願の初優勝を成し遂げた。
ライフキネティックのメニューを行なう京都国際の選手たち
しかし、ライフキネティックは明確な数値化が難しいため、実際のところ、選手たちのプレーにどれほどの影響を与えたのかはわからない。それでも小牧憲継監督は「何かを続けることの大切さ」を説き、選手たちも信じて応えてきた。
そのトレーニングが行なわれていた京都国際の体育館に向かうと、高校野球の練習では見たことのない光景が広がっていた。
彼らが実践しているライフキネティックには、さまざまな要素が組み込まれている。このトレーニングは、「かもがわ整骨院」の院長でライフキネティックの公認トレーナーの奥田剛氏が指導。奥田氏自身、帝京高時代、3度甲子園に出場した元球児だ。
9月下旬に行なわれた約1時間のトレーニングの序盤では、さまざまな視野機能を向上させるプログラムが実施されていた。
なかでも重要度を感じさせたのは、横目でお手玉をしながら足を左右交互で後ろに引く、という動作を繰り返し行なうメニューだ。これは、読書が苦手な学習障がいを持っている子どもを対象に取り入れられるトレーニングのひとつで、本を読む際の目の使い方が上達すると、奥田氏は説明する。
「読書は文字を1文字ずつ読むんじゃなくて、単語ごと、ブロックごとに読みます。速読ができる人は、そういう読み方をしているんです」
続けて「この目の使い方って、じつは野球のバッティングの時と一緒。野球経験者ならわかると思いますが、バッティングは投手が放ったボールをある程度見たら、あとは目を切って、自分の打つポイントにパッと視線を持っていく。両者ともに、同じ目の使い方をしているんです」と野球に通ずる部分があることを明かした。
つまり、速読における文字の捉え方のように、ボールは追い続けず、要所を瞬間的に視野に入れて球速・変化を把握することで、最終的な打撃のインパクトにつなげられる、ということだ。こういった目の鍛え方ができるメニューの考案は、野球経験が豊富な奥田氏ならではと言えるだろう。
【脳トレ要素を加えたチームビルディング】中盤から終盤にかけては、より難易度の高いトレーニングを取り入れていく。まず4人1組のグループで円を作り、それぞれが黄色いボール3個、青いボール1個を時計回りにパス。その後、横に1歩移動し、笛が鳴ったらパスする方向、ステップともに逆回りにする、というメニューだ。
4人1組でボールをパスし合う選手たち
そのなかで、笛が2回鳴ったら青いボール保持者が、黄色いボール保持者にタッチをしにいく。ただし、両者とも一歩しか動くことができないため、瞬時の判断、瞬発力が試される。
ちなみに、タッチされた人、あるいはタッチできなかった人は、立っている状態からしゃがみ込んで腕立て伏せの体勢になり、そのまま立ち上がるバーピージャンプを2回行わなければならない。
この罰ゲームの瞬間が、この日一番の盛り上がりに。体育館に笑い声が響き、ライフキネティックを実践する選手たちの楽しそうな姿からは、チームワークの高さがうかがえた。
また、この日は行なわれなかったが、ライフキネティック要素を取り入れたチームビルディングは、選手たちの絆を深めるうえでは欠かせない。
まず選手全員が円になり、ひとり1球持っているテニスボールを隣の選手にパスしながら横にステップで移動する。途中でボールを落としたり、ステップする方向を間違えたりすると失敗。足を進める方向とは逆にボールをパスすることもあるため、全員がノーミスでクリアするには、プレッシャーに負けない精神力、強い団結力が必要となる。
3年生の藤本陽毅主将は、チームビルディングに関して「ひとりでも心がブレたら失敗する。強かった歴代の先輩たちも成功しているので、キャプテンの僕が一番冷静に、気持ちを込めて取り組んでいます」とこのメニューの重要性を語った。
実際に今夏の京都大会直前、京都国際の部員61名全員で成功し、よりいっそうチームワークを強化。その後の甲子園初優勝へとつなげていった。近くで見守っていた奥田氏も「その時の集中力はすごかった」と目を細めていた。
【ライフキネティックは継続してこそ意味がある】こうしたトレーニングを続けることで、京都国際は2016年以降、成績は右肩上がり。2018年に京都の秋季大会で準優勝、2021年にセンバツ初出場を果たし、今年は春季近畿大会と夏の甲子園で初優勝を成し遂げた。小牧監督は「以前のようなミスがなくなってきた」と選手たちの成長を振り返る。
さらに、今夏の戦いを通じて「ボールの見極めであったり、冷静に状況を把握しないといけない時に、より正しく、成功の確率が高い判断ができるようになった」と実感している様子だった。
チームのリードオフマンである3年生の金本祐伍は、バッティングでライフキネティックの効果を感じていたという。
「トレーニングをこなすことで、打席のなかで思ってもいないボールが来ても反応できるというか、簡単に打ち取られなくなったんです。反射的にボッとバットを出せる感覚があって」と、金本は具体的な内容を説明した。
とはいえ、ライフキネティックは即効性のあるトレーニングでもなければ、そもそも「競技力向上のためのメソッド」ではない。あくまで「脳を活性化するためのプログラム」である。
彼らが野球の面で能力向上を実感するまでに至ったのは「継続力」があってこそ。奥田氏が「めちゃくちゃ真面目に取り組む子たちばかり」と話すように、トレーニングを続けたことで、期待する運動のパフォーマンス向上に結びついている。
「継続しないと、強くならないぞ」
小牧監督と奥田氏が8年間、選手たちに伝え続けてきたこの言葉が、頂点をつかんだチームのすべてを物語っている。
終わり
前編を読む
【関連記事】
ビーチバレーのニューヒロイン"のあまゆ"フォトギャラリー
閑散とした国立競技場でなでしこジャパンが一変 日韓戦で感じたサッカー界の「組織の問題」
甲子園優勝の京都国際・小牧監督が明かす8年間継続するトレーニングの正体 「脳活性化プログラム」
【夏の甲子園決勝】京都国際&関東一 指揮官と選手たちが試合後に明かした「延長10回タイブレーク」1点をめぐる攻防の真実
【夏の甲子園】京都国際が帝京以来となる35年ぶりの快挙 「ダブルサウスポー」が達成した記録とは?