「癇癪持ちで束縛癖がある妻」と“離婚させてもらえない”夫。法律の専門家が授けた“作戦”を決行した結果

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「癇癪持ちで束縛癖がある妻」と“離婚させてもらえない”夫。法律の専門家が授けた“作戦”を決行した結果

11月3日(日) 8:53

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世の中には膨大な数の男女がいるわけですが、交際し、求婚し、結婚するのは幸運としか言いようがありません。ですが、残念ながら、途中で関係が終わってしまうことも珍しくありません。

厚生労働省の人口動態統計によると2023年の離婚件数は183,814人。一方、結婚件数は474,741人なので3組に1組は離婚する計算です。筆者は行政書士、ファイナンシャルプランナーとして夫婦の悩み相談にのっていますが、夫と妻がどちらも離婚に積極的なケースは意外と少ないのが現状です。ほとんどの場合、離婚したい側、離婚したくない側が存在します。基本的には夫と妻、双方の同意がなければ離婚できないので、「離婚したくない人」を説得しなければなりませんが、なかなか一筋縄にはいきません。

10対0で相手が悪いケースはあくまで少数派

経験上、もっとも骨が折れると感じているのは借金、不倫、暴力ではなく性格の不一致。実際、法務省の司法統計(2020年)によると離婚の原因(離婚申し立ての動機別割合のうち、夫の数字)は多い順に性格があわない(60%)、精神的に虐待する(20%)。つまり、性格の不一致が大多数を占めます。逆に借金、不倫、暴力など10対0で相手が悪いケースはあくまで少数派です。

性格の不一致の場合、喧嘩、仲直りを何度も繰り返すので、決死の覚悟で「もう許さない!」と必死に訴えても、「また許してくれるでしょ」と鼻で笑われる傾向があります。今回の相談者・井上拓真さん(42歳。仮名)も離婚の決意は固まっているのに、なかなか妻を説得できず、鬱屈とした日々を過ごしています。拓真さんは妻の癇癪癖(些細なことで激高する)、束縛癖(寂しくなると監視する)、依存性(悩みがあると母親の言いなり)に悩み、苦しみ、傷ついていたのですが、具体的には何があったのでしょうか?順番に見ていきましょう。

「癇癪癖」を持つ妻にやきもき…

なお、本人が特定されないように実例から大幅に変更しています。夫婦がすれ違うきっかけ、関係修復の方法、離婚の原因や経緯などは各々のケースで異なるのであくまで参考程度に考えてください。

<登場人物(名前は仮)>
夫:井上拓真(1回目の相談時は38歳。2回目の相談時は42歳。会社員)☆今回の相談者
妻:井上菜々(1回目の相談時は37歳。2回目の相談時は41歳。専業主婦)
子:井上香菜(1回目の相談時は12歳。2回目の相談時は16歳。)

まず1つ目の問題は癇癪癖です。拓真さんは「妻は恥をかかされると、何をしでかすかわからない性分です」と嘆きます。例えば、宅配の荷物を受け取る際、配達員が差し出した伝票に名前を記入するのですが、玄関に置いてあったボールペンのインクが薄く、名前が途切れ途切れになってしまったそう。

配達員は「これじゃ、ダメですね」と言うので妻はリビングへ新しいボールペンを取りに行ったのですが、配達員にダメ出しされたことが頭にきたのか、リビングにある白いソファーにボールペンを向けたのです。そして縦横無尽に線を書き入れ、ストレスを発散した後、再度、玄関で伝票に名前を書き入れたそう。これは平日の昼間のことですが、夜になって拓真さんが帰宅するとソファーに黒い線が何重にも入っているのを発見。

筆者が「どうしたんですか?」と尋ねると、拓真さんは「エタノールをかけ、擦り洗いをし、黒い線を落としたのは僕です」と答えます。さらに「これが初めてじゃありません。今までのことがデジャブ―します」とため息をつきます。妻の「突然の逆ギレ」は何度も繰り返されましたが、それだけではありません。

出張でもひっきりなしに「寂しい」と連絡が

次に2つ目の問題は束縛癖です。例えば、拓真さんは仕事柄、4~5日間の出張に行くことがあるのですが、その最中に妻が「寂しい」と連絡してくるのです。具体的には「お皿を割っちゃったの。怖いから帰ってきて」と頼まれるのですが、出張を早めに切り上げるのは無理です。

妻は座骨神経痛の持病を抱えており、痛み止めの薬を飲むと、情緒が多少、不安定になる傾向がありました。そこで拓真さんは「寂しく思うのは薬のせいじゃないかな?明日になれば良くなると思うから、もう少し待っていて」となだめるのですが、妻は「好きじゃないの?嫌いになったの?」と迫ってくるのです。

拓真さんは否応なく「好きに決まっているじゃないか」と言わされ、とりあえず急場をしのぐのですが、いつ妻からLINEが届くのか……出張中は事あるごとにスマホを見て、連絡が「ない」ことを確認することで安心する癖がついてしまいました。

夫婦が住んでいるのは横浜。一方、妻の出身は岐阜。拓真さんが妻に頼んで、地元の横浜に来てもらったのですが、妻には縁もゆかりもない地。筆者は「頼れるのは井上さんしかないので依存気味になるのも無理もないのでは」と指摘しました。

妻が寂しがるのは自宅で1人きりだから。拓真さんはそう思ったのですが、夫婦の間に子どもが産まれても、妻の性格は変わらず、同じことが繰り返されました。例えば、「香菜(子の名前)が転んじゃったの、今すぐ帰ってきて!」と言うので、拓真さんは「大丈夫か?まだ戻れないから、そんなに酷いなら病院に連れていって!」と返したそう。

実際にはつかまり立ちに失敗し、床に顔をぶつけただけで、病院に行くほど酷い怪我ではありませんでした。子どもの有無にかかわらず、妻は独りよがりな求愛メッセージを送り続けたのです。

「妻の二面性」の背景には義母の存在が

そして3つ目の問題は依存性です。拓真さんの頭を悩ませたのは妻の二面性。まず前者(ソファー)の件で拓真さんは思わず「何だこれは?何をやっているんだ!」と声を荒げてしまったそう。そうすると妻は「覚えていないの。許して」と懺悔したので一件落着したはずでした。しかし、数日後に拓真さんがソファーをなでながら「きれいになってよかったなぁ」とつぶやくと妻は激怒。「寂しい思いをさせるからいけないんでしょ?」と怒り心頭。拓真さんを悪者扱いし始めたのです。

そして後者(子どもの怪我)の件で拓真さんは出張から帰ると「仕事に集中できないじゃないか」と注意したところ、妻は「ごめんなさい。何も考えないで」と謝罪したので、妻の行き過ぎた言動に問題があると結論付けたはずでした。しかし、数ヵ月後、拓真さんが次の出張の予定を伝えると、妻は「仕事と家庭、どちらが大事なの?」と怒り出したのです。妻が不安になるのは拓真さんにも責任があると言わんばかりでした。

このように妻はほとぼりが冷めると態度が変わる傾向があるようです。筆者が「何かあるんですか?」と質問すると、拓真さんは「どうもお母さんが絡んでいるようで……」と嘆きます。妻が義母にこのことを相談し、義母が「寂しい思いをさせるからいけないんでしょ?」、「仕事と家庭、どちらが大事なの?」と助言したのではないかと。

もちろん、妻も大の大人なので、自分の頭で考え、義母の助言を聞くかどうかを決めれば良いのですが、妻は義母に逆らえないタイプ。いつも言いなりでした。せっかく夫婦の間で仲直りをしても、義母が介入すると元の木阿弥。喧嘩が再発してしまうことに拓真さんは頭を悩ませていました。

離婚したい夫に対して「ある策」を授けた

法務省の司法統計(2020年)によると、家庭裁判所へ申し立てられた婚姻関係事件(5.8万件)のうち、20%(1.2万件)は取り下げられています。離婚調停の場合、基本的には離婚したい側が申し立てています。つまり、5人に1人は離婚を取りやめている計算です。

そこで筆者は離婚、復縁のどちらに転んでもいいように「ある策」を授けました。そうすると幸運が続き、一度は離婚を避けられそうな流れになりました。

拓真さんが筆者の事務所へ相談しに来たのは2019年。妻の行き過ぎた言動に対して堪忍袋の緒が切れたタイミングでした。「妻と別れたいと思っています。どうしたらいいですか?」と頼まれたのですが、正直なところ、妻の性格を考えると拓真さんがいくら頭を下げたり、強い言葉を使ったり、誠実に訴えかけても……今のタイミングではどんな工夫をしても妻が承諾するとは思えませんでした。

誓約書に「守れなかったら離婚する」と…

提案したのは誓約書を記入させることです。本来、誓約書とは夫婦がやり直すための方法ですが、今回は逆です。最初から奥様が誓約書を守れるとは思っていません。守れなかったときに離婚できるようにするためです。そこで誓約書に「守れなかったら離婚する」という1文を入れます。そして後日、妻が約束を破ったとき、誓約書を突き付け、「それじゃ離婚ね」と言えば、妻が承諾する確率は今現在よりずっと上がるでしょう。

誓約書を用意した上で拓真さんは妻との話し合いにのぞみました。「何回同じことを言っても、同じことの繰り返しじゃないか!」とぶちまけたのです。妻は相変わらず「ごめんなさい。私が馬鹿だからいけないのよね。もう、あなたを怒らせたりしないから…信じて!」としおらしい態度をとるのですが、この手のやり取りは過去に何度も行いました。

そこで拓真さんは「今まで口約束で終わらせてきたじゃないか。今回もそれ(口約束)じゃ信じるのは無理だよ……例えば、一筆交わすとか」と提案しました。

「妻が守らなければならない内容」を誓約書に盛り込んだ

「こうやって頭を下げているのに信じてくれないの。私たちは夫婦じゃないの?」と不信感を示したのですが、拓真さんは「悪いけど、一筆を書いてくれないと離婚を考えなくちゃいけない。僕はそこまで覚悟して今日、こういう話をしているんだ」とダメ押しをしたのです。誓約書に盛り込んだのは以下の3点ですが、いずれも妻が守らなければならない内容です。

1.出張中にやむを得ない場合を除き、「帰ってきて」と連絡しないこと
2.一人で自宅にいるときに、備品等を破損しないこと
3.夫婦で決めるべき事項について、前もって母親に相談しないこと

上記1から3の1つでも守れなかった場合は離婚することに承諾します。

妻は「そこまでしなくちゃいけないの?」と怖気づいたのですが、拓真さんが「誓約書を守っている限り、二度と離婚の話を切り出したりしない。安心してくれ」と念押ししたので、妻は渋々と記入したのです。

もちろん、誓約書を役所に持ち込んでも離婚したことにはなりません。正式に離婚するには誓約書ではなく離婚届に署名をもらう必要があります。妻が離婚届に署名するよう説得するために誓約書を使うという位置付けです。このときは「どうせ守れないだろう」と軽く考えていました。

妻が外で働き始め、事態は好転

夫婦の関係はこのまま悪化の一途を辿るかと思いきや、思わぬ幸運が訪れました。2020年、妻が外で働き始めたのです。夫婦の子どもが中学校へ入学すると、妻の方から「家計の足しになれば」と切り出したのです。拓真さんは「嬉しいけれど、今まで働いたことがないし、難しいんじゃないかな」と答えたそう。実際のところ、妻は結婚してから13年間、ずっと専業主婦。少しも働いたことはなく、仕事の経験値がないに等しいし、これといった資格やスキルもありません。

実際のところ、この年の有効求人倍率は1.10倍。前年(1.55倍)を0.45ポイント下回り、コロナ不況の影響をもろに受けていました。

しかし、拓真さんの予想は良いほうに外れました。人材派遣の会社が妻を採用したのです。当時は新型コロナウイルスが蔓延した1年目。消毒の徹底やソーシャルディスタンスの確保など感染対策が厳しくとられていた時期でした。妻に与えられた仕事はサッカーや野球、コンサートの会場でマスクを着用していない人に対して「マスクの着用をお願いします」と声かけをすること。

着用していない人に逆ギレされる可能性はあるものの、誰でもできる仕事です。その結果、妻は平日の日中、働いているので1人で寂しい思いをしません。筆者が「どうなったのですか?」と聞くと、拓真さんは「出張中にLINEが届かなくなったんです」と喜びます。そして1人で自宅に取り残され、不安な思いをし、イライラすることもありません。そのため、モノに当たって傷つける機会もなくなったのです。

妻が仕事を失い…雪解けも束の間

このように妻は働きに出ることで拓真さんとぶつかる場面が減り、夫婦の関係は急激に改善していったのです。

しかし、雪解けも束の間。また二人の間に雪が降り積もる事態が起こったのです。2023年5月、政府は新型コロナウイルスを5類感染症に移行することを発表。それに伴って今まで行われていた感染対策は大幅に縮小されたのですが、それは妻の仕事も例外ではありませんでした。勤務先は会場に声かけの人員を派遣しなくなり、妻もお役御免とばかり、仕事を失ったのです。

もちろん、妻が外へ働きに出なくなっても、過去と同じトラブルを起こさなければ良いのですが、妻は完全に元の姿に戻ってしまったようです。筆者が「最近の奥さんはどうですか?」と尋ねると、拓真さんは深いため息をつきます。

例えば、一人で自宅にいると機嫌が悪くなり、今度はまだ中身が残っているチルドコーヒーを投げつけ、壁が茶色く染まる出来事が起こったのです。さらに拓真さんが出張中に「腰が痛くて起き上がれないの。早く帰ってきて」とスケジュールの変更を求めてきたのです。

筆者は「どうするのかは井上さん次第ですが」と投げかけると、拓真さんは「この3年間はのらりくらりとやっていけると思っていたのですが、さすがにもう限界、終わりにしようと思いました」と当時の心境を振り返ります。

離婚を迫ると「できる限りの抵抗」を…

そこで4年前に妻が記入した誓約書を用意し、妻の目の前に置き、「そういうわけだから」と離婚を迫ったのです。「え、嘘でしょ?冗談だと思ってた」とふざけた態度をとったり、「香菜(子の名前)のことも考えて!まだ父親が必要な年だわ」と下手に出たり、「最後にもう一回だけチャンスをください。今度はちゃんと守るから」と泣きの手に出たり。できる限りの抵抗をしたのです。

さらに「お母さんに会わせる顔がないわ。あの人がどんな人か知っているでしょ!」と肉親を活用しようとしたのですが、拓真さんは「それは違反だろ!」と一喝すると妻は何も言えなくなったそうです。

結局、「次、同じことをしたら離婚に応じる」と約束したのは他ならぬ妻本人です。どうしても、そのことを覆せず、最終的には離婚届に記入したのです。

ここまで拓真さんの苦悩を見てきました。実際のところ、離婚が「別れましょう」「そうしましょう」と二つ返事で決まることはありません。許す許さない、怒る怒らない、話す話さないなどの揺り戻しを何度か繰り返した末に、どうしようもない場合は離婚します。

拓真さんの妻の場合、夫が不在の間、どのように気持ちを整えるのか、母親との距離をどうするのかを真剣に考えていれば、また違った結果をむかえたかもしれません。

しかし、妻は最初から最後まで何も変わらなかったので拓真さんは絶望し、最後の手段(誓約書を使って離婚の同意を取り付ける)を講じざるを得なかったのです。性格の不一致の場合、離婚するかどうかは紙一重ですが、「離婚したくない人」が離婚しなくてもいいように努力をしなければ、最終的に離婚は避けられないと言って良いでしょう。

<TEXT/露木幸彦>

【露木幸彦】
1980年生まれ。国学院大学卒。行政書士・FP。男の離婚に特化し開業。6年目で相談7千件、「離婚サポートnet」会員は6千人を突破。「ノンストップ」(フジテレビ)、「ホンマでっかTV」(フジテレビ)、「市民のミカタ」などに出演。著書は「男のための最強離婚術」(7刷)「男の離婚」(4刷)など11冊。公式サイトX:@yukihiko55ブログ:法律でメシを食う若造のブログFacebook:yukihiko.tsuyuki

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