敗れたとはいえ、誇るべき準優勝だろう。
今季ルヴァンカップで、クラブ史上初となる決勝進出を果たしたアルビレックス新潟は、しかし、名古屋グランパスの前に涙を飲んだ。
試合は、90分を終えて2-2。その後の延長戦でも互いに1点を取り合い、3-3。はたして最終決着のPK戦で、5人全員が決めた名古屋に対し、わずかにひとりが外したのが新潟だった。
初のタイトル奪取は惜しくも叶わなかったアルビレックス新潟photo by Kishiku Torao
新潟は試合序盤から"らしさ"を示し、主導権を握っていた。
GK阿部航斗が最終ラインからのビルドアップに加わり、常に数的優位を作り出すことでハイプレスをかいくぐっていたからだ。
ところが、そこに落とし穴が待ち受けていた。
前半31分、阿部の自陣ペナルティエリア内でのパスミスから、名古屋の永井謙佑に難なく決められ先制点を許すと、同42分にも、痛い追加点を再び永井に決められた。
「選手は(試合の)スタートから自分たちの流れを作るうえでのアクションができたなかで、自分たちがやっているスタイルというか、その方法のなかでのエラーで相手の勢いをつけてしまったのは残念だった」
そう振り返ったのは、新潟を率いる松橋力蔵監督である。
だが、2点のビハインドで迎えたハーフタイムには、「気持ちの部分で負けないためにも、(逆転劇の)舞台が整ったぐらいの気持ちでやろう。これをひっくり返すんだ」と、声をかけたという指揮官。
ゲームキャプテンを務めた秋山裕紀も、「リーグ戦だったら負けない戦い方をしなければいけないが、カップ戦は勝ちにいく戦い方をしなければいけない。0-2で折り返して自分たちは点を取りにいくしかなかったので、ハーフタイムに選手全員が吹っきれた」と振り返る。
事実、新潟の選手たちは後半、怒涛の反撃で2点差を追いついて見せた。呼び水となったのは、松橋監督の大胆な采配である。
新潟は、65分に3人の選手交代を行なうと、72分にも2人を交代。名古屋がひとりの選手交代も行なわぬうちに、すべての交代カードを切って勝負に出た。
攻めだるまと化した指揮官に「まったく違和感はなかった」と語るのは、ベンチから試合を見ていたチームキャプテンの堀米悠斗だ。
「僕たち選手は、リキさん(松橋監督)の采配に対して一点の曇りもなく、信じ続けてここまで来た。1点取れば雰囲気が変わる、絶対いけるっていうのは、ベンチのなかでもみんなが口にしていたことで、やっぱりそうなった」
71分に、交代出場のダニーロ・ゴメスからのクロスを谷口海斗が頭で押し込み1点を返すと、土壇場の90+11分には、これまた交代出場の小見洋太がVARによって自ら得たPKを決め、同点に追いついた。
「自分も含めて、本当に誰がピッチに出ても新潟らしいサッカーが表現できる」
そう言って胸を張ったのは、秋山である。
とはいえ、惜しみなくパワーを使った新潟の選手たちには、延長に入ると疲れが色濃く見え始めた。延長前半に勝ち越しゴールを許したときには、もはや勝負はこれまでかと思われた。
しかし、ドラマは終わらない。
延長後半の111分、自陣ペナルティエリア手前で舞行龍ジェームズが奪ったボールを、その右脇を駆け上がってきた藤原奏哉が引き取り、前線で待つ長倉幹樹へ縦パスを打ち込む。すると、長倉は鮮やかなターンでマークを外し、前線へロングスルーパス。これを小見が左足ワンタッチで仕留めた。
値千金の同点ゴールは、流れるような美しさをたたえた、実に新潟らしい得点だった。
「最後は気持ちの戦いになっていく部分はあったので、そこはしっかりと選手が最後までやってくれたと思うし、非常に誇らしい気持ちでいる」
試合後の松橋監督の言葉である。
新潟は再び同点に追いつくも、結局はPK戦で敗れ、クラブ初のタイトルを手にすることはできなかった。
「PKまでもっていかず、延長までに決着をつけたかった」とは堀米。チームキャプテンは、「あれだけ自分たちに流れが来ていたのなら、勝ち越して仕留めきるのが、今日のゲームの僕たちの勝ち筋だった」と悔やんだ。
そしてゲームキャプテンの秋山もまた、「0-2から追いついて、3点目を決められてもまた追いついた。得点シーンも自分たちのよさを出せた」と手ごたえを口にした一方で、「でも、結果的に負けてしまったので。勝っていたら(満足度が)100%と言いたいところだが、負けてしまったので(悔しさと)半々かな」と、複雑な表情を浮かべた。
しかしながら、6シーズンにわたって優勝を分け合ってきた川崎フロンターレと横浜F・マリノスの失速とともに、"力技"を駆使するクラブの優勢が目立つ最近のJ1にあって、新潟は貴重な存在だ。
決して予算規模は大きくなく、現在のJ1リーグ順位も16位とJ2降格の危険性すら残されている新潟だが、裏を返せば、そんな地方クラブがこれだけの大舞台でエンタメ性に富んだ熱戦を演じたことの価値は高く、優勝した名古屋に劣らぬ評価を受けていいはずだ。
だからこそ、まずは残りわずかのリーグ戦で確実にJ1残留を決めなければならない。秋山が語る。
「今日は全員が悔しがってもいいが、この悔しいというエネルギーをさらにピッチの上で出していかなければいけない。(残りのリーグ戦では)今日以上の試合をしたいなと思う」
その先に、いずれリベンジの舞台に立つ日が訪れるに違いない。
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