1954年11月3日、スクリーンに姿を現して以来、その名を世界中に轟かせてきた怪獣王ゴジラ。子どもから大人まで幅広くファンの絶えない、日本映画界を代表するコンテンツとなった「ゴジラ」シリーズは、日本国内だけでも30本以上の映画を製作。山崎貴監督の『ゴジラ-1.0』(23)が第96回アカデミー賞視覚効果賞受賞という快挙を成し遂げたことも記憶に新しく、先日地上波にて初放送された『ゴジラ-1.0』のエンディングでは山崎貴が監督・脚本・VFX を務めるゴジラ新作映画の製作決定も発表されている。そして本日、「ゴジラ」はついに70周年を迎えた。
【写真を見る】人類は5万ボルトの高圧電流で対抗!しかしゴジラにはまるで通用しない…
人類が乗り越えるべき敵、時には悪役怪獣に立ち向かう人類の味方、はたまた怨念に溢れた最強の悪と、時代の移り変わりと共に様々な形で描かれてきたゴジラ。その原点にして頂点である『ゴジラ(1954)』(54)は、実際に1954年に起きた第五福竜丸事件を背景に、反核や文明批判をテーマとし、戦争を乗り越え文明を発展させた人類が忘れかけた罪を許さないゴジラの怒りと、ゴジラに恐怖する人類の様子が色濃く描かれ、その後の日本映画界にも大きな影響を与えた。今回はギレルモ・デル・トロ監督を目標に掲げ、「第2回日本ホラー映画大賞」で入選を果たした若手クリエイターの小泉雄也が、第一作目の『ゴジラ』が描く“恐怖”について綴ってくれた。
■ゴジラによって支配される、モノクロの世界
物語は小笠原諸島近海とその近くの「大戸島」で起きた事件から始まる。船舶の不可解な沈没、明らかに暴風雨ではない“なにか”による島の蹂躙と度重なる被害の報告を受けて、急遽編成された調査団が大戸島で目撃したのは、山を超えるサイズの巨大な生物が頭をもたげて咆哮する姿だった。しかし、その怪獣は、調査団と島民に恐怖を与えるも、危害は加えず巨大な足跡を残し、海へ潜っていってしまう。大戸島での初めての邂逅ののち、島の伝説に則り「ゴジラ」と呼称されることが決まった生物はこの後、合計2回、関東に上陸する。
品川沖へ上陸したゴジラは、防衛隊による重機関銃での迎撃を物ともせず、品川駅を走行中の電車を蹂躙し、品川運転所と京急本線八ツ山橋跨線橋を破壊して東京湾に去っていく。甚大な被害を受け、防衛隊は海岸線に高さ30mの鉄塔に有刺鉄条網を張り巡らせ5万ボルトの高圧電流を流して感電死させる作戦を実施するが、芝浦沖に上陸したゴジラはそれをモノともしない。さらに口から吐かれた放射能を帯びた熱線によって鉄塔は溶け落ち、防衛線は難なく突破される。銀座の松坂屋、日本劇場、国会議事堂を次々と破壊され、東京は火の海と化した。
東京とそこに住まう人々に甚大な被害を与えた2回目と3回目の邂逅は共に“夜”である。
モノクロの世界。画面は黒一色に染まっている。
品川上陸の際にゴジラの性質に気づいていた古生物学者の山根恭平博士(志村喬)は防衛隊に警告する。
「ゴジラに光を当ててはいけません、ますます怒るばかりです!」
戦争を乗り越え、そしてその惨劇を忘れ始め、新たな生活を手に入れた人間たちは、人工の光で夜の闇を照らす。そんな傲慢な人間にゴジラは自然の怒りを代弁する。夜の闇の中、巨大な黒い影が東京を闊歩し、蹂躙していく姿はまさに恐怖そのもの。怪獣という言葉さえも浸透していない当時、この映像を観た人々は恐れ慄いたのではないだろうか。
そして特筆したいのは、次の芝浦沖への上陸で披露されたゴジラの放射熱線とその色である。暗闇の中、鋭利な背ビレが白く光るとゴジラの口が大きく開かれる。白い煙のような光が画面を横切ったかと思えば、真っ白な業火が人々と街を覆い尽くす。闇に紛れる黒いゴジラと人々と街を覆い尽くす白い光と炎。白と黒しかないモノクロの世界すべてが、ゴジラによって支配されているようにも見える。これは冒頭で沈没した船が襲われた謎の光の伏線の回収でもある。
■ゴジラの死は安らかに
酸素の研究過程で偶然発見した開発した酸素破壊剤を持っている物語の主人公の一人、芹沢博士(平田昭彦)。平和利用できるまで公表しないつもりでいたこの「オキシジェン・デストロイヤー」をゴジラ殲滅のために使えないかと相談を受ける。原水爆に匹敵する恐るべき破壊兵器になり得るものであり、世界の為政者たちが看過しているはずはないと、葛藤する芹沢。
その時、テレビにゴジラによって変わり果てた東京の光景と共に、女子学生らによる「平和への祈り」の斉唱が映し出される。心動かされた芹沢は、今回一回限りの条件で「オキシジェン・デストロイヤー」の使用を承諾し、それに関するすべての資料を焼却することにする。平和のために過ちを犯すこととその葛藤を真摯に描いた名シーンである。
そして、ついに「オキシジェン・デストロイヤー」によるゴジラ殲滅作戦が開始される。自ら起動させるために潜水服を着て海底に潜る芹沢は、静かに「オキシジェン・デストロイヤー」を起動しゴジラの殲滅を成功させる。ゴジラと初めて海中での邂逅を果たすこの殲滅作戦では、とても静かなBGMが使用されている。まるで死にかけの兵士を安楽死させるかのようである。
しかし、ゴジラの苦しみの深さは計り知れないだろう。なにせ、また人類は同じことを繰り返したのだから。「オキシジェン・デストロイヤー」は架空の兵器。水爆を生き延びることのできるゴジラがもし現実に現れた場合、人間にはなすすべもなく蹂躙されるほかないのである。
『ゴジラ対ヘドラ』(71)の坂野義光監督が聞き手を務めた、本多猪四郎監督の晩年のインタビュー記録映像「わが映画人生〜本多猪四郎」では、『ゴジラ』(54)を撮影した際、スタッフ全員が恐怖することを大事にして、そのために妥協を許さなかったと語っている。原爆の怖さを表現し、人類の明確な敵として、そして人類がなにをやっても倒すことのできない存在として描かれた初代ゴジラ。これからもゴジラは姿やキャラクターを変えながらも、最強の怪獣王として君臨し続けてくれるだろう。
■70周年を記念した「ゴジラ・フェス2024」が本日開催!
本日11月3日には、「ゴジラ・フェス2024」と第37回東京国際映画祭の提携により、日本初上映となる『ゴジラ 4K デジタルリマスター版』のジャパンプレミアが開催される。「ゴジラ・フェス2024」では、ほかにも完全新撮特撮「フェス・ゴジラ5怪獣大決戦」の上映や、山崎貴監督が1年ぶりに登場する居酒屋ゴジラなど、見逃せないコンテンツが盛りだくさんとなっている。
また『ゴジラ 4K デジタルリマスター版』は、ゴジラ70周年記念企画としてスタートしたゴジラ・シアターの11月公開作品として上映が決まっている。「週替わりモノクロ祭り」と題して『シン・ゴジラ:オルソ』『ゴジラ-1.0/C』も併せて公開されるので、ぜひこの機会に“モノクロ”で映し出されるゴジラの真価を目撃してほしい。
文/小泉雄也
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