「日本侠客伝」、「仁義なき戦い」シリーズなどで知られる名脚本家、笠原和夫が遺した幻のプロットを、「孤狼の血」シリーズや『碁盤斬り』(24)などの白石和彌監督が山田孝之と仲野太賀のW主演で映画化した『十一人の賊軍』(公開中)。日本近代史における最大の内乱、戊辰戦争を背景とする本作は、激戦の地、北陸で新政府軍を勝利へと導いた新発田(しばた)藩の歴史的な“裏切り”のエピソードを基に、砦を守る任を与えられた11人の罪人たちによる命懸けの死闘を描く集団抗争時代劇だ。
【写真を見る】玉木宏演じる新政府軍参謀の山縣狂介など実在の人物も登場
と、いきなり「戊辰戦争」や「新政府軍」「新発田藩」「歴史的な裏切り」と言われても、歴史好きの人でなければちんぷんかんぷんだろうし、罪人たちがどうして新発田藩の決死隊になる過酷なミッションを引き受けることになったのか理解できないに違いない。そこで、本稿では史実に基づく本作の設定やキーワードをわかりやすく解説。映画を観る前後で目を通してもらえれば、ドラマチックな物語や壮大なスケールで連続する壮絶なアクションに、より心を揺さぶられるに違いない。
■大政奉還により、大きく二分された日本
戊辰戦争はそもそもなぜ起きたのか?そのきっかけは、薩摩藩と長州藩を中心とした倒幕運動の激化に屈するように、1867年、江戸幕府の第15代将軍徳川慶喜が政権を朝廷に返上した「大政奉還」だった。これにより、260年以上も続いた江戸幕府が幕を閉じることに。
しかし、日本は大きく二つに分裂。徳川政権を支持する旧幕府軍(賊軍)と「新しい時代を切り拓く!」という強い使命感を掲げた新政府軍(官軍)が、1868年の「鳥羽伏見の戦い」を皮切りに、「箱館戦争」で終結するまでの1年4か月にもわたって壮絶な内戦、戊辰戦争を繰り広げることになったのだ。
■反新政府軍を掲げて奥羽越列藩同盟が結成
そのさなか、反新政府軍を掲げて仙台藩を盟主に計31藩が「奥羽越列藩同盟」を結成。現在の新潟県新発田市に位置する新発田藩は、もともとは新政府側だったものの、旧幕府寄りの周辺諸藩の圧力に抗うことができずに加盟するが、これが最悪な事態を招くことになる。同盟軍が新発田城に兵を率いて押しかけてきて、居座ってしまったのだ。このままでは侵攻してくる官軍と激突し、新発田藩の領地は戦火を免れない!両軍の板挟みになる、まさに絶体絶命の危機。新発田藩はこの最悪の状況をどのように回避し、壮絶な激闘を生き延びたのか?
その起死回生をいまに伝える歴史的大事件が、新発田藩の裏切りである。新発田の地に戦火が迫るギリギリのタイミングで新発田藩が同盟軍に反旗を翻し、もともとの方針に従って官軍側に鞍替え。その内応によって官軍の海上部隊が佐渡から急襲したため、奥羽越列藩同盟は壊滅的な打撃を受けて敗退。新政府軍が勝利したのだ。
■藩を守るため、新政府軍との戦いに送りだされる罪人たち
そんな史実に着想を得た笠原が創作したプロットは、捕らえられていた10人の罪人と旧幕府派の藩士、鷲尾兵士郎(仲野)ほか数名による決死隊を結成し、官軍が通る街道沿いにある砦を護る任務に就かせ、これを妨害するというもの。戦いの最前線に送り込まれるという破れかぶれの設定がぶっ飛んでいておもしろい。しかも、集められた輩は女房を手籠めにした新発田藩士を殺害した政(山田)、イカサマ博徒で武士から金を巻き上げお縄になった赤丹(尾上右近)、自分を捨てた男の家に火をつけたなつ(鞘師里保)、おろしや(ロシア)への密航で捕まったおろしや(岡山天音)、姦通で収監された坊主の引導(千原せいじ)など、(当時の法律で)極刑必死のいずれ劣らぬ極悪人たち。
そんな彼らが、任務を全うして城下を護れば無罪放免にしてくれるという約束だけを信じ、それぞれの想いを胸に、憎き藩のために決死の戦いに身を投じていく。そこでは新発田藩のドス黒い思惑も見え隠れするが、新発田藩家老、溝口内匠(阿部サダヲ)、新政府軍参謀の山縣狂介(玉木宏)などの実在した歴史上の人物を登場させることで、新発田藩の裏切りに独自の視点を加えているのだから、これほどドラマチックなことはない。
そこには、「『勝てば官軍、負ければ賊軍』という言葉まである、勝ったほうがすべて正しく、勝敗によって善悪が決まるのが当たり前の時代に“果たして、勝つことだけが正義なのか?”」という疑問を投げかけた笠原の痛烈なメッセージも込められている。
■『十一人の賊軍』を通して深まる新発田藩が取った選択の重さ
実際、多くの人々が家を失い、田畑を荒らされた越後の長岡藩と違い、新発田の地は藩の機転で戦火を逃れた。だが、その行為は裏切りには違いないので、新潟県民のなかにはその後も悪感情が残り続けたと言われている。どこか排他的で、ほかの市区町村に対して非協力的だとする声もあるようだが、では、どうすればよかったのか?
『十一人の賊軍』におけるそれぞれの正義のために戦う11人を目の当たりにし、そのことに思いを馳せてみてはどうだろう?崩壊する物見櫓、落下する吊橋…。壮大なセットを破壊しながら撮影した過酷な現場で、俳優陣がCGやワイヤーに頼らない己の肉体を駆使して体現した魂のバトルが、一つの真実を教えてくれるはずだ。
文/イソガイマサト
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