ヤクルト奥川恭伸が語った激動の2024年シーズン(後編)
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ヤクルトの奥川恭伸は度重なるケガを乗り越え、6月14日のオリックス戦(京セラ)で2年ぶりの復帰登板を果たすと、960日ぶりとなる勝ち星も手にした。8月には腰を痛めて登録抹消されたが、10月5日の広島戦(マツダ)でシーズン最終登板。その翌日には、フェニックスリーグに参加するため宮崎入りしたのだった。
今季最終登板となった10月5日の広島戦で手応えをつかんだと語る奥川恭伸photo by Sankei Visual
【テーマは真っすぐの質とフォーク】奥川は今回のフェニックスリーグの位置づけについて、「自分のいいところを、もう一度しっかり引き出したい」と話した。
10月10日には、試合が開催される西都原運動公園野球場のブルペンでピッチング。普段はリリースポイントや踏み出す足の位置など、時間をかけて確認しながら投げるのだが、この日は考える間もなく投げる姿が印象に残った。
「そこは意識していました。今までは入るまでが気持ち悪いと投げられなかったのですが、ハマってなくても、その状態で投げられるようにしようと。投球テンポをちょっと短くというのは、このフェニックスリーグでの楽しみのひとつでもあります。自分のなかのしっくりくる部分が、シーズンの最後のほうからできてきたので試したいなと」
ブルペンでは50球を投げたあと、「ラスト3つはフォークで」と宮沢直人ブルペン捕手に告げたが、真っすぐ2球とフォークを追加。さらに「ラスト、フォーク」と投げるも、「もう1球」とフォークを投げ、最後は真っすぐで締め、最終的に60球を投げ込んだ。
「今シーズン、フォークは変化球では一番困った部分でした。真っすぐとフォークを軸にしたピッチングをしていきたいので、フェニックスでしっかり試したいです」
10月13日のくふうハヤテ戦、「テーマは真っすぐの質とフォークでした」とフェニックスリーグ初登板。6回を6安打、1失点、5奪三振、2四球の内容だった。
「4回は3つ三振をとれましたし、いい感覚でした。フォークは最初のほうはよかったですが、まだまだですね。やっぱり、ずっと投げていると疲れちゃうので、投げるスタミナも含めてオフにしっかり取り組みたいと思います」
98球を投げたことについては、「三振が5個だったので、もう2つくらいほしかったですね」と言って続けた。
「(キャッチャーの)古賀(優大)さんと組んだのは久しぶりでしたが、配球は勉強になりました。特に4番(西川僚祐)と対戦した4回は、一番面白かったです。スライダー2球で追い込んでから、真っすぐを3球続けましたが、完全に裏をかかれたようなスイングをしていました。2球続けたところで、次はスライダーかなと思っていたので、ああいう配球もあるんだなと。今日は真っすぐでの三振が4つでしたけど、僕は真っすぐで三振を取ることはあまりないので、古賀さんの配球は面白かったですし、投げていて楽しかったです」
フェニックスでの今後については、「曲がり球をふつうに投げられたので、引き続き真っすぐの質とフォークですね」と話した。
「あとは追い込んでからのボールですね。1球で仕留め切れたら、三振は2個か3個は多かったと思いますし、球数も抑えられたのでそこはもったいなかったと思っています。あとは離脱しないことです(笑)」
【投げるたびに手応え】今年のフェニックスリーグは雨に泣かされ、7試合が中止になったが、奥川は平穏に日々を消化。ファンサービスも丁寧にこなし、熊本から来た高齢の女性は感激のあまり涙ぐむシーンもあった。「1年中真っ黒で、白くなるヒマがないです」と、たくましく日焼けした顔が順調さを物語っていた。
フェニックス2度目の登板は10月20日のソフトバンク戦で、4回を2安打、1失点、1奪三振、無四球という内容だった。
「ボール一つひとつを見たらよかったですね。フォークの空振りも多かったですし、テイクバックの時の脱力感というのが、ちょっと出てきたかなという感じでした。そういう意味で、徐々にステップアップというか、前回の登板よりはるかによかったですね」
試合ではリチャードにカウント2ボール1ストライクから、147キロの真っすぐをバックスクリーンに運ばれた。
「いつもだったらスライダーを投げるところですが、真っすぐを課題にしていたので、無理やり投げたという感はありました。初球がいいファウルの取り方だったので、そのあと変化球で2球ボールにしてしまったのがもったいなかった。そこはミスといえばミスです。ああいう場面で真っすぐを投げて、バッターが捉えられないような質を目指していきたいです」
注目したのは、ホームランを打たれた直後の石塚綜一郎への初球だった。投じた真っすぐは、この日の最速となる148キロをマーク。見逃しストライクとなった。
「打たれたあとに変化球で逃げるのはよくないので、真っすぐでいくという姿勢じゃないですけど......やっぱりキャッチャーも真っすぐのサインを出しづらくなるので、『いけるぞ』という意味も込めて、初球の真っすぐに力を入れました。今日は真っすぐの平均球速もまずまず出ていたみたいなので、次の登板では今日の試合よりもいい内容にしたい。ちょっとつかみかけている感じなので、しっかりつかみ切りたいなと思っています」
【奥行きのあるピッチング】フェニックスリーグ期間中は、真っすぐの質にこだわり練習を続けてきた。
「僕も試合では打席に立つので、いろいろなピッチャーのボールを見ますけど、それぞれ質が違いますね。150キロ後半と、数字どおりの速いピッチャーもいれば、ボールははっきり見えているのに、スイングしたらもうキャッチャーのミットに収まっていて『なんですか、それ』みたいなピッチャーもいます」
いま追い求めている質については、しばらく考え込んでから「ボールの"イキ"というか、奥行きですかね」と、独特の感性を持つ奥川ならではの表現で語ってくれた。
「数字には出ないんですけど、奥行きをうまく使ったピッチングがしたい。そのために手前というか、僕から見たら奥ですよね。バッターのミートポイントを、どれだけ奥に持っていけるか。奥が広がれば前も広がるので、変化球もうまくいきます。ミートポイントが奥にあれば『差されているな』となって、『もっと手前で打ちたい』となったところに変化球がくる」
奥川は身振り手振りで説明してくれ、「この"イキ"を生かせるのは投球フォームだと思っています」と話した。
「リリースでのボールの離し方だったり、指先の感覚だったり、力の伝え方だったり、フォームがうまくいけばすべてうまくいく。すべてがそこに詰まっているという考えです」
さらにこう続けた。
「球速表示より速いと思わせるのとは、また違うというか......バッターにミートゾーンを前にもっていく意識を持たせたいとか、なんか合わないとか、そこをうまくやりたいんですよね。そういう意味で、(今季最終登板の)広島戦は2イニング目からそれが奥にズレたというか、そんな感覚でした。それができてくると、相手との駆け引きになるので楽しくなると思うんですよ。以前はそれをやれていた部分があったので、早く取り戻したい。そのためには真っすぐというか、真っすぐ系の球が大事なので、今はストレートを磨いているところです」
オフには、球速を上げるためのトレーニングにも取り組む予定だ。
「ピッチャーにとって一番はスピードだと思っています。160キロのボールは、バットに当てるのが難しいですよね。ほかの競技でも投げる、走る、打つ、やっぱりスピードが一番の武器になります。なので、いま取り組んでいることに球速もついてくれば、縦も横も......という話になってきて、面白くなるなというイメージですし、そうなると"最強"じゃないですか(笑)」
10月28日、奥川は韓国の斗山ベアーズ戦での先発が予定されていたが雨天中止。「でも、こういう長期のやつで完走するのは久々ですね。中6日への不安はもうなくなりました」と、満足そうにフェニックスリーグを終えた。
「シーズン中よりいい投球内容で、それがどんどんよくなっていったのはすごくうれしいことですね。これがシーズン中だったらと仮定するなら、すごくいい過ごし方だったので、これを1年間続ければうまくいくんじゃないかと思います」
来シーズン、目指すところについて聞くと、「一軍完走ですね」と言った。
「そこが一番の目標です。完走するということは、数字がついてこなかったら下(二軍)に落とされると思うので、そういったことを含めて一軍完走です。そのためにオフの4カ月をしっかりと、ケガをしないためのトレーニングやスピード(球速)を上げていきたいと思います」
いま奥川は松山(愛媛)での秋季キャンプで、一つひとつのレベル上げるべく汗を流している。
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