萌え、回帰、アキバにて。/連載:小林私「私事ですが、」

萌え、回帰、アキバにて。/連載:小林私「私事ですが、」/※本人制作画像

萌え、回帰、アキバにて。/連載:小林私「私事ですが、」

11月2日(土) 19:00

萌え、回帰、アキバにて。/連載:小林私「私事ですが、」
【画像】小林私書き下ろし連載アート「引っ越し終わって人生が長い」

美大在学中から音楽活動をスタートしたシンガーソングライター・小林私が、彼自身の日常やアート・本のことから短編小説など、さまざまな「私事」をつづります。今回は、「萌え」について綴ったエッセイです。
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7月某日、今をときめくミュージシャン、Mega Shinnosukeから一報が届いた。

「おつかれす!
今度FCコンテンツでメガシンtvはじめるんだけど
小林くんとメイドカフェに行きたくて参加可能ですか??」

日程が合えばいけます!

「ありがとう!ちなみにおすすめのメイドカフェある?」

...

9月、俺は秋葉原に降り立っていた。

漫画やアニメを嗜み、クラピカに初恋を奪われ、日がなイラストサイトの検索窓で伏せ字を入力している俺は、確かにオタクであると言えよう。
しかし、オタクだからといってメイドカフェに詳しいわけではないのだ。

オタクだからアキバとか好きだしメイドカフェとか詳しっしょ!みたいな感じで誘われたのにも関わらず、俺はメイドカフェには2回しか行ったことがない。

メイドカフェとはアキバ系オタクにとってのディズニーランドのようなものであり、電波ソングが絶えず流れるピンク色の店内でフリフリのミニスカートのメイドさんが言う「いらっしゃいませご主人様」にすかさず「萌え~」と思える人間の居場所である。

言うなればミッキーマウスの着ぐるみの中身を邪推しないだとか、
"バイトの人"でなく"キャスト"と認識しているだとか、
バーチャル美少女を受肉したおじさんのくしゃみに迷わず「たすかる」と打ち込めるだとか、
そういった心構えが必要なスペースなのだ。

オタクの種類としても今やアッパーの部類であろう。
日がなアニメイトやとらのあなに入り浸り、現代視覚文化研究会の如くコミケに参戦、インターネットがより根強く普及した現代においては最早オールドタイプともいえる。
オタクという蔑称がマニアやギークと混同され、地位が上がったように見せかけて、結果として新たな蔑称が与えられる前の、電気街の輝かしい最盛期を飾った人間性の在り方。

現在20代を生きる俺からすればそういった認識がある。
2chのコピペで喋ったり、エロゲをやったりするのも、ある種レトロブーム的に乗っかっているだけなのでは?という自戒すらある。

そんな憧憬とノスタルジアが込めてブツブツ呟いているキモオタがメイドカフェ前に到着。
主な出来事はメガシンさんのFCにて確認していただければと思う。
やったことと言えば、
「私たちが萌え萌えきゅんと言ったらご主人様たちはトキメキで胸をおさえてください!」と言われて椅子から崩れ落ちて死ぬとか、
「チェキに何書きますか?」と聞かれて「想像でブラジルの国旗を書いてください」と言ったとか、
Bad Apple!!が流れた瞬間「ば、Bad Apple!!だ!」と一人でハイテンションになっていたとか、そんなんだ。

人としてかまさないよう、仕事としてウケよう、オタクとしてスカさないよう、様々な葛藤の末に全部を間違えた。
そもそもオムライスが食えない。パフェを頼んだとき撮影スタッフ陣に「お腹空いてないんですか?」と聞かれて「せっかくの撮影なんで注文にバリエーションがあった方がネ」と分かったような口を聞いたがオムライスが食えなかっただけといえばそうだ。

パフェは美味かったが、年を重ねるごとに冷たいものがあんまり食べられなくなっていることを忘れていた。喉の調子も悪かった。俺は冷えたものを食べると咳が出る。
飲み物は温かいものにしておこうと思ってカフェモカを頼んでいたが、パフェとモカが甘すぎてトゥーマッチだった。
アイスって最初の一口目は美味いが二口目以降は 甘い甘い冷たい冷たい冷たい疲れる疲れる疲れる...の繰り返しじゃないか?老人のぷよぷよかい。

モタモタ食べ切って、カメラが止まったあとはあまり記憶がない。魔法少女マジカルデストロイヤーズをなめるな!みたいなことを話したような気がするが、どの流れでそんな話になるんだ?好きなものを好きなだけ好きと言える世界を取り戻した先に俺みたいなのが生まれる。助けてオタクヒーロー!

とはいえ「萌え」というものを取り戻したような気はした。俺は生来、三次元の萌えにそこまで熱くなれる性質ではない。
バーコードバトラーの桜ちゃんとか、ポケモンハンターJとか、スマブラXで見れるゼロスーツサムスのフィギアとか、GREEでプレイしていた魔法使いの先生とか、万能鑑定士Qの事件簿の表紙とか、そういう胸やけのような騒めきに従った結果が今なのであり、まさしくそれらが「萌え」だった。
それらを「萌え」だと確信を持って言っていくべきなのだ。
具体的にはレッツゴー怪奇組の5巻だ。



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