10月31日(木) 22:00
ソニー生命保険株式会社が、社会人1年目・2年目の男女1000名を対象とした「社会人1年目と2年目の意識調査 2024」(調査期間:2024年3月)によれば、約半数が「出世したいと思わない」と回答しています。
同時に目を引いたのが、社会人1年生よりも2年生のほうが「出世したいと思わない」と回答した比率が43.6%から52.8%へと10ポイント以上も上がっているということです。
日本人は、世界的な比較においてもリスクを避ける傾向が強く、これは国民性ともいわれています。世界価値観調査によると、日本人は「自分は冒険やリスクを求める」のカテゴリーに、自分が当てはまらないと思っている人の割合が世界的にもかなり高いとの結果が報告されています。
また、日本人は他人から非難される可能性があることを避けようとする傾向が高いとも指摘されています。こういった文化的な背景も若者が出世を好まない理由として根づいているのかもしれません。
しかし、国民性の問題ならば、「昔から日本人は出世に興味がない」ということになりますが、ワーカホリックともいわれていた昭和世代とは違うようです。この違いは、どこからきているのでしょうか。
実はこの2つが、今の若年層のキャリアに対する考え方に大きな影響を及ぼした要因ではないかと考えられます。
1980年代後半の円高に対応するために、日本銀行は金利を引き下げました。これにより、企業や個人は安いコストで資金を借りることができるようになり、不動産や株式市場への投資が急増しました。
政府の規制緩和もこのバブル経済を後押しし、金融機関が不動産を担保とした融資を拡大させ、不動産価格が急上昇し、「土地神話」と呼ばれるほど土地や不動産の価値が上がり続け、不動産さえ保有すれば確実な利益をもたらすという考え方が広まりました。
程なく、1990年代初頭にバブルが崩壊しました。きっかけは、1990年日本銀行が金融機関に対して土地関連の貸し出しを規制し、金融引き締め政策をとったことです。これ以降、不動産向け融資が一気に沈静化し、地価が大幅に下落しました。
「不動産や株式を保有していればもうかる」はずだった企業は、多額の債務を抱えることになり、生き残りのために設備投資や雇用を抑制しました。これが個人消費を直撃し、需要の悪化へとつながったのです。
「大企業に就職すれば将来安泰」だった昭和神話が崩れ、「勤めてもお金はたまらない」時代に転換したのが平成、その結果「お金がたまらないから結婚しない」「結婚しないから出生率も上がらない」「出生率が上がらないから労働人口が増えず、現役世代1人あたりの税・社会保険負担が急上昇し豊かになれない」という低成長・悲観スパイラルが始まりました。
そのような時代に生まれ育ってきた若者にとって、「仕事をしてもいいことはない」という自分にとってのキャリアに夢を描けなくなってきたと考えられます。
日本経済団体連合会のシンクタンクである21世紀政策研究所は、2012年に「『失われた20年』の状況がこのまま続いた場合、日本は2050年ごろに先進国でなくなる」とする予測結果を発表しました。
少なからずの人は、「経済政策の慎重な運用と社会的な格差拡大に対して待ったなしの対策が求められている」と思っているのではないでしょうか。
一方で、台湾の半導体受託製造で世界最大手のTSMC(台湾積体電路製造)が熊本に工場を建設し、2024年末の生産開始に向け積極的な求人が話題を集めるなど明るいニュースも見受けられます。
ピンチはピンチのままか、ピンチがチャンスに転換するのか、岐路にあるのかもしれません。
内閣府男女共同参画局 男女共同参画白書 令和5年版 特-52図 仕事の継続希望、昇進希望(20代時点での考え方)
ソニー生命保険株式会社 社会人1年目と2年目の意識調査2024
World Values Survey 世界価値観調査
21世紀研究所 グローバルJAPAN -2050年シミュレーションと総合戦略-
執筆者:柴沼直美
CFP(R)認定者
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