日本シリーズ第5戦は、DeNAが3回に筒香嘉智のタイムリーで先制すると、4回には牧秀悟の3ランで着実に加点。投げても先発のアンドレ・ジャクソンが7回無失点の好投。DeNAは9回にも3点を挙げて試合を決めた。敵地で3連勝を飾ったDeNAは王手をかけた。一方、ソフトバンクは26イニング無得点と打線が沈黙。解説者の与田剛氏に勝負のポイントを語ってもらった。
本拠地で3連敗を喫し王手をかけられたソフトバンク・小久保裕紀監督(写真中央)photo by Sankei Visual
【ソフトバンクの焦りを感じた2つのポイント】
──第5戦はDeNAが7対0で勝利し、敵地で3連勝。一気に王手をかけました。この試合のポイントはどこにありましたか?
与田
DeNAの勢いがモロに出た試合になりましたが、ソフトバンクの攻撃で気になったことは2つありました。1つは、先制された直後の3回裏の攻撃です。先頭の周東佑京選手がヒットで出塁し、つづく打者は1番の笹川吉康選手。この場面、足のある周東選手が一塁にいて、いろんな作戦が考えられたと思うんです。そんななか笹川選手のバッティングを見ていると、どこか迷いながらスイングしているように感じました。
おそらく周東選手には、「行けたら行ってもいいよ」という"グリーンライト"のサインが出ていたはずです。それで笹川選手は「走るかもしれない」と思いながらバッティングをしてしまっていたのかなと。笹川選手が起用されたのは、思いきりのいいバッティングを期待されたからだと思いますし、迷いなくスイングさせてあげる状況にしてあげたかった。
──この場面、送りバントという選択肢はなかったですか?
与田
もちろん、その選択肢もあったと思います。バントで送って、一死二塁で2番の柳田悠岐選手。柳田選手は初球から思いきりスイングできるタイプの打者です。結果的に、柳田選手の初球に周東選手が盗塁して一死二塁になりましたが、カウント0−0でこの状況を迎えていたらどうなっていたのかなと。
笹川選手がバントを得意にしているかどうかはわからないですが、連敗して負けたら王手をかけられる試合、しかも1点先制された直後の攻撃でしたので、まずは得点圏にランナーを進めて、相手バッテリーにプレッシャーをかけてもよかったのかなという気はしました。
──2つ目のポイントはどこになりますか。
与田
4点リードされて迎えた7回裏の場面です。近藤健介選手が死球で出て、つづく今宮健太選手の内野ゴロで二塁に進み、さらに牧原大成選手の四球で一死一、二塁。ここで嶺井博希が打席に入ったのですが、DeNAのジャクソン投手は100球近くに達し、ボールがバラつき始めていました。気になったのは2球目、3球目の高めのボール球に手を出し、空振りとファウルで追い込まれてしまいました。嶺井選手の「打って流れを変えたい」という気持ちはわかりますが、明らかにボールが荒れていましたし、ジャクソン投手にとっては見られることのほうがしんどいんじゃないかという気がしました。(※結果は空振り三振)
仮に四球で満塁になったからといって、得点できるかどうかはわかりません。ただ、もし四球で満塁になっていたら交代していた可能性は高い。7回途中降板と、7回を投げきっての降板は、チームに勢いが出るという部分でまったく違います。第5戦に関しては、ソフトバンク打線に焦りを感じましたね。
【ソフトバンクは基本に立ち返ること】
──この試合、ソフトバンクはスタメン捕手に甲斐拓也選手ではなく海野隆司選手を起用しました。
与田
先発の大関友久投手とシーズン中から組むことが多かったことと、流れを変えたいという意図があったのではないでしょうか。それが理由で起用することはすごく理解できます。ただ、連敗中ということもあってチームの雰囲気は重い。そのなかでスタメンマスクをかぶるのは、相当なプレッシャーになります。海野選手にとってはいい経験になったと思いますが、どこまで平常心でプレーできていたかどうか。
──このシリーズ、甲斐選手が打てていなかたことも影響したのでしょうか。
与田
それもあったかもしれないですね。そこも含め、流れを変えたかったのかなと。ただディフェンス面を考えると、甲斐選手というのはゲーム中にいろいろなアドバイスができる捕手なんです。たとえば、相手に流れがいきそうだなと思ったら、間(ま)をとってリズムを変えるとか、「ここはストライクゾーンで勝負する場面だぞ」と伝えるとか、危険を察知する能力が高い。
大関投手の調子自体は悪くなったと思うのですが、先制されたくないという気持ちが強すぎて、コースを狙いすぎていた。海野選手にもその思いがあったのか、リズムを変えることなく最後まで苦しいリードになってしまいました。
──ソフトバンクは本拠地で3連敗を喫し、王手をかけられました。今のソフトバンクに必要なことは何でしょうか。
与田
基本に立ち返ることだと思います。ピッチャーはストライクゾーンで勝負する、バッターはボールを引きつけてセンターから逆方向を意識する。ソフトバンクの打者を見ていると、打ちたいという気持ちが強すぎるあまり、右打者ならレフト方向、左打者ならライト方向に体が向かっている。そうなると体が前に出されますから、変化球に対応できない。力のある選手が揃っていますから、ちょっとしたキッカケで変わる可能性は高いと思います。
──DeNAは王手をかけて本拠地に戻ってきます。一気に決めたいところですよね。
与田
ソフトバンクは有原航平投手、リバン・モイネロ投手が控えていますから、DeNAも簡単ではないと思っているはずです。あと気になるのは、土曜日の天候ですよね。雨で中止になった場合、これがどっちに有利に働くのか。DeNAとすれば、東克樹投手、アンソニー・ケイ投手の登板が可能になるかもしれない。その一方で、2日空くことになれば流れが変わってしまうかもしれない。こればかりはやってみないとわからないですが、いずれにしてもいい試合を期待したいですね。
与田剛(よだ・つよし)
/1965年12月4日、千葉県君津市出身。木更津中央高(現・木更津総合高)から亜細亜大、NTT東京を経て、89年のドラフトで中日から1位指名を受け入団。1年目から150キロを超える剛速球を武器に31セーブを挙げ、新人王と最優秀救援投手賞に輝く。96年6月にトレードでロッテに移籍し、直後にメジャーリーグ2Aのメンフィス・チックスに野球留学。97年オフにロッテを自由契約となり、日本ハムにテスト入団。99年10月、1620日ぶりに一軍のマウンドに立ったが、オフに自由契約。2000年、野村克也監督のもと阪神にテスト入団するも、同年秋に現役を引退。引退後は解説者として活躍する傍ら、09年、13年はWBC日本代表コーチを務めた。16年に楽天の一軍投手コーチに就任し、19年から3年間、中日の監督を務めた
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