衆院選に東京15区から出馬し、比例で復活当選を果たした自民党の大空幸星氏(25歳)の発言が波紋を広げています。
「立場が違うから」「じゃあ、帰りましょうか」出演番組がヒートアップ
10月28日放送の『ABEMA Prime』に出演した際に、「政治に対して一方的に批判していたが、コメンテーターの仕事に限界を感じた。個人としてコメンテーター人生が嫌になった」と語ると、共演者が一斉に反発する場面があったのです。
そのリアクションに対して、「(政治家とコメンテーターとでは)立場が違うから。僕の考えるコメンテーターは、どこにも言えることをフワッと言っている。僕は、それを壊していくことだった。でも、コメンテーターでは(社会を)変えられない」と大空氏が反論しました。
すると、番組はさらにヒートアップ。だったらなぜいまこの番組に大空氏が出演しているのか、と問いただされると、「じゃあ、帰りましょうか」と、売り言葉に買い言葉といった事態に発展したのです。
「こんな人間」「平然と開き直るところに驚いた」東国原氏、泉房穂氏から選挙中に疑問の声
選挙中から大空氏の発言には疑問符がつけられていました。候補者による公開討論で夫婦別姓や同性婚について問われると、「イシュー化することによって進められない問題もある」と煙に巻き、曖昧(あいまい)な態度に終始しました。
一連の発言に、東国原英夫氏は自身のX上で「まぁ、こんな人間だったのかな。自民党化が進むのかな。」とポスト。泉房穂氏も同じくX上で「いきなり自民党から出馬したことにも驚いたが、夫婦別姓や同性婚の問題に誠実に回答せず、平然と開き直るところにさらに驚いた」とつづりました。
こうして怒りよりも驚きや呆れをもたらすほどに豹変(ひょうへん)してしまった大空氏。そもそもどんな人だったのか、経歴をおさらいしておきましょう。
大学在学中に24時間利用可能なチャット相談窓口を運営するNPO法人「あなたのいばしょ」を設立。孤独対策に取り組む内閣府の検討会の委員に任命されたことで、次第にメディア露出を増やしていきます。
民放各局のニュース、情報番組で軒並(のきな)みコメンテーターを務めると、若い世代と弱者の声を伝えるオピニオンリーダー的な立ち位置を確立しました。
時の政権には批判的なスタンスで、弱者に対する視線を欠いた無策を嘆いてきました。2020年に安倍晋三首相(当時)が退陣を表明したときには、「若者世代の命を軽んじる政治が続いてきた」と糾弾し、明らかに自民党的な政治に対して距離を取っていたのです。
「自民党じゃないとできない」変わりっぷりに驚き
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そうした背景があるからこそ、大空氏を知る人はその変わりっぷりに驚いたのでしょう。
選挙期間中に雑誌『AERA』の取材を受けた際には、「野党と一緒に孤独対策をやってきても一緒に仕事ができなかった。つまり、何もやってくれなかったんですよ。(中略)僕は本当にそこで野党に失望しました。自民党じゃないとできないと思いました。困った人に手を差し伸べるのが真の保守政治だと思います」とまで言い切っていたのだから恐れ入ります。
いずれにせよ、大空氏は自民党所属の国会議員になりました。東国原氏も言うように、今後はそのような思想や発言の変化も踏まえ、有権者が審判を下していくようになるのでしょう。
こうして批判にさらされている大空氏の発言ですが、では具体的に何が問題だったのでしょうか? 改めて彼のコメントのロジックを見ていきたいと思います。
自分の話を、政策実務の難しさにすりかえ
まず、大空氏が政治家とコメンテーターとでは立場が違う、よって表現の仕方やアプローチが変わるのも仕方ない、と語ったこと。それ自体は正しいし、率直な感想であると思われます。
けれども、気になるのは、夫婦別姓や同性婚について自らの意見を明らかにしないことや、コメンテーターという仕事に張り合いが持てなくなったことを、政策遂行という実務の難しさと意義深さの話にすりかえていることです。
そして、その困難さと崇高(すうこう)さを担保してくれるのが政権政党たる自民党である、という裏付けにもなっている。
二つの異なる次元の話を用いて、質問に答えることを周到に回避しているのですね。
“政治家たるもの”を客観的に語り、変節したことを正当化する論法
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そして、そのすりかえたことすらも、引きの視点のコメンテーター的な分析と、安全地帯からの客観性によって評論している姿勢が、激しい怒りを買っているのではないでしょうか。
“政治家・大空幸星”を分離させて自らの分析対象にすることで、変節したことを正当化する論法を編み出しているのですね。
にもかかわらず、大空氏本人は狡猾(こうかつ)なロジックを駆使していることに無自覚なようです。なぜならば、それを「個人としてコメンテーター人生が嫌になった」という追い詰められたがゆえの告白という形で、自身の内面の問題として語っているからです。
そのように、“人間・大空幸星"にとって切実であるとする言い回しで脚色をすることで、“自民党の政治家・大空幸星”を固く保護しているというわけです。この自己保身の姿勢は、放送中に批判にさらされた際にのこした「じゃあ、帰りましょうか」との捨てゼリフによくあらわれています。
相手の追及からするりと身をかわす話法を瞬時に繰り出す賢さには感心するばかりですが、それは諸刃(もろは)の剣となるのではないだろうか? 余計なお世話ですかね。
信念ナシに弁舌の技術。森元首相や麻生氏以上の危うさ
今回、社会活動家、コメンテーター、そして政治家、それぞれの面から大空氏の発言をおさらいして、変化のスムーズさに感心しました。
そして、どの立場にあっても、あからさまな失言と呼べるものはない。森喜朗元首相や麻生太郎氏のような形で世間を騒がせるタイプではないでしょう。
にもかかわらず、大空幸星氏には彼ら以上の危うさを感じます。なぜなら、信念の核を欠いたところに、肥大した弁舌の技術が巣食っているからです。
その意味で、大空幸星氏は今という時代を象徴する政治家なのだと思います。
<文/石黒隆之>
【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4
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