子孫たちに災いをもたらす先祖の墓を掘り返したことから始まる恐怖をスタイリッシュな映像で見せるサスペンス・スリラー『破墓/パミョ』。韓国で約1200万人を越える観客動員を集めた大ヒット作が公開中だ。
【写真を見る】『破墓/パミョ』で“ヤバいもの”の声を演じた小山力也が韓国でのアフレコ収録を振り返る
アメリカに住む資産家から奇妙な病についての相談を受けた巫堂(ムーダン)のファリム(キム・ゴウン)。その原因が先祖の墓にあることに気づいた彼女は、高額の謝礼をもらって改葬とお祓いを執り行うことを決意し、弟子のボンギル(イ・ドヒョン)、風水師のサンドク(チェ・ミンシク)、葬儀師のヨングン(ユ・ヘジン)と共に、人里離れた山の上にある墓へと向かう。サンドクは悪所にある墓を掘り返すのは不吉だと、ファリムに反対するのだが…。
悪魔祓いに挑む神父たちの姿を描いた長編デビュー作『プリースト 悪魔を葬る者』(15)で大成功を収め、続く『サバハ』(19)で新興宗教を撮り上げたチャン・ジェヒョン監督が手掛けた『破墓/パミョ』。墓を掘り起こした主人公たちが不可解な出来事に見舞われるこの作品の終盤には、“ヤバいもの”と呼ばれるキャラクターが登場する。その声を演じているのは、「名探偵コナン」の毛利小五郎役や数々の外国映画の吹替で知られる声優の小山力也だ。チャン・ジェヒョン監督が彼を起用した理由はどんなところにあるのか?前代未聞のスケールを持つキャラクターを完成させるにあたって小山が果たした役割とは?監督が来日し、ソウルでの収録以来久しぶりの再会を果たした2人にたっぷり語ってもらった。
※以下の記事には『破墓/パミョ』のネタバレ(ストーリーの核心に触れる記述)を含みます。未見の方はご注意ください。
■「『“ヤバいもの”役の人、日本語うまいね』と言っていただけたらうれしい」(小山)
――本作の悪役である“ヤバいもの”はどんな発想から生まれたのでしょうか。また、その声に小山力也さんを起用した理由を教えてください。
チャン「まず、『破墓/パミョ』という映画自体の核になっているのは「墓を掘り、土の中に埋められている悪いものを取り出す」ということです。その中で“ヤバいもの”は韓国に住む人々が歴史的に感じてきた“恐ろしさ”を象徴しています。『恐れそのもの』というセリフもありますが、ビジュアルというよりも、キャラクターが発するセリフがより重要でした。小山さんにお願いした理由を一言で言うと、日本でナンバーワンの声優さんが必要だったから。私自身『バキ』や『名探偵コナン』といったアニメーションが好きだったので、頭の中で考えていましたが、『すばらしい声優さんを探してほしい』とスタッフに頼んだら、10人中8人が小山さんのお名前を挙げました」
小山「本当にありがとうございます。海外の大きなプロジェクトに吹替としてではなく、声優としてオリジナル音声に参加させていただくのは初めてでした。こういう経験はなかなか自分が願ってできるものでもないので、『行ってダメだったらそれでも構わない。とにかくトライさせていただきたい』と思ってお引き受けしました」
チャン「スタジオには私のほかにエンジニアや監修をしてもらった韓国在住の日本人俳優の方もいらっしゃったんですが、小山さんがセリフを言うと彼らは本当に驚いて『これ以上、足すところはない。完璧すぎる。やはりナンバーワンは違う』と口々に言っていました。雰囲気もそうですし、カリスマ性やセリフの伝達力がすばらしかったです。通常は録音をした後でエンジニアが音の調整をしますが、今回はまったく手をつけず、演じていただいた声をほぼそのまま採用させていただきました」
■「韓国人が権威を感じるような声にしたかった」(チャン・ジェヒョン)
小山「監督から最初に言われたのが『自分がお化けであるというような認識は持たず、自然に声を出してください』ということでした。大事にしたのは最初に登場したときのキャラクターの大きさで、あの高さの視点からものを見ようと思いました。現実に至近距離で見て一番恐ろしい大きさっていうのはこのくらいかなと自分で想像して、具体的にはグリズリー(ハイイログマ)がガッと立ちがった時の怖さみたいなのを感じながら演じました。あとはどういう地面を踏んでいるのかなど、皮膚感覚を考えてやるようにしました」
チャン「実は監修の方は『アニメーションをメインに声優活動されている方だとリアリティの面で少し物足りないのではないか』と心配していました。でも、小山さんに来ていただき、いろいろと説明を申し上げて、私の意図を的確にキャッチをしていただいた後で収録に入ると、ワンテイク目を聞いただけで「小山さんはプロだ」と驚いていました」
小山「僕のほうからは『ここに来るまでにどんなストーリーがあったんですか?」「立ち位置はここで間違いないですか?」とうかかがったくらいですね。日本語のセリフですから、最初は『こういう言い回しの方がいいのでは?』とか、『助詞はこう変えたらどうか』ということをお話ししようかと思ったんです。でも、監督が持っているイメージが的確で、音にもとてもこだわっていらっしゃったので、些末なことを言うのはやめて、おっしゃるとおりに演じました。それでよかったと思います」
チャン「音についてものすごく深いこだわりがあったというよりも、“ヤバいもの”が発する声が非常に権威的に聞こえたらいいなと思っていました。そう考えたときに韓国人の感覚と日本人の感覚に違いがあり、まずは韓国での公開を第一に考えないといけなかったので、日本語的には多少の不自然さがあっても韓国人が権威を感じるような声にしたかった。小山さんにはその点を十分に理解して演じていただけました」
――チャン・ジェヒョン監督に最初にお会いしたときの印象はいかがでしたか。
小山「最初は怖い人かなと思っていたんですが、とてもフランクな方でした。だから、ほんとに収録が楽しかったですし、終わってしまうのがもったいないと思いました。プロデューサーや制作スタッフ、エンジニアも若い方中心でみんな仲良くて、和気あいあいとやってらっしゃいました。そんななかでストレスなく、自由に自分の思うままやらせていただけたのがありがたかったですね」
チャン 「映画作りというのは非常に疲れる仕事ですから、食欲もなくなりますし、終わったらすぐ帰宅するというのが通常のパターンなんです。でも、小山さんに演じていただいた日は本当にハッピーな気持ちだったので、終わった後、一緒に私の行きつけの焼肉屋さんに行ってご飯を食べてビールを飲んだのを思い出します。実は一緒にやっているスタッフたちも神経質な人が多いんですが、あの日は気がかりだった問題が解決してみんながハッピーな状況でした」
――どんな問題があったのですか?
チャン「小山さんに合流していただく前、仮編集版を投資家たちに見てもらったのですが、ほかは全部良いけれど“ヤバいもの”の登場シーンにだけ『オーラが全然足りない』と強い不満の声が上がっていたんです。編集上の都合で仮の音声を入れてあったんです。でもその後、小山さんの声が入ったバージョンを観てもらうと、『これはすごいぞ!』ということですぐにOKが出て公開日も決まりました。このことについて小山さんには感謝の気持ちをお伝えしたいと思っていたので、今回、お目にかかれて本当にうれしいです」
小山「こちらこそありがとうございます。完成した映画を拝見しましたが、とにかく引き込まれました。おそらく大変な編集をなさったと思うんですけど、いろんな情報がひとつに集約されていくような演出がされていましたね。自分が出演させていただいた作品ではありますけれど、『もう終わっちゃうの?』と感じました。観客を驚かすようなサスペンスやホラーの場合、びっくりする出来事が終わってしまうと、観ているほうがトーンダウンしてしまうこともありますが、『破墓/パミョ』の場合は新たなエピソードがどんどんつながっていくので、本当に驚嘆しました」
取材・文/佐藤結
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