ゲームセットからわずか23秒後、ソフトバンク・小久保裕紀監督は報道陣が待ち構える一塁側ダグアウト裏のミラールームに姿を現した。
小久保監督はレギュラーシーズンでも試合終了直後に取材対応をするのだが、日本シリーズ期間は普段よりもダグアウトから近いところに取材場所が設定されていたため、おそらく"史上最速"に近いタイムで囲み取材は始まった。
最速158キロを誇るソフトバンクの尾形崇斗photo by Sankei Visual
【今季初、本拠地での同一チーム3連敗】「まあまあ、3つ負けられるなかで3つ負けてしまったんでね。もう、やるだけですよ」
ソフトバンクはまたしても敗れた。今季一度もなかった本拠地みずほPayPayドームでの同一チーム相手の3連敗を喫した。
この試合を前に寄せた拙稿には、ソフトバンク打線に本塁打が出るのがカギになると書いたが、一発どころかタイムリーヒットも犠牲フライも出なかった。地元・福岡での3試合は、第3戦の初回に近藤健介のタイムリーで挙げた1点のみ。26イニング連続無得点となり、1958年の巨人と並ぶ史上ワーストという不名誉な記録のおまけまでついた。
ただ、それでも小久保監督は報道陣の質問に、時折笑顔を交えて応えた。無理に怒りを押し殺すような感じでもない。だけど、努めて明るく振る舞おうとしているのは伝わってくる。一国一城の主である監督として、崖っぷちに立たされたなかでチームに何を求めるのか。下を向くことはない。自信を失う必要もない。堂々と次の戦いに向かっていき、あと2つ勝てばいい。そんなメッセージを、報道陣を通して選手たちに送っているようにも思えた。
この3試合、たしかに貧打は深刻だった。しかし打線は水物という。第5戦ではキッカケが生まれなかったが、第6戦になって突如火を噴くような攻撃を見せても何ら不思議でないのが野球だ。
ただ、このシリーズのソフトバンクは何かがおかしい。それは攻撃陣だけではない。投手陣、とくにリリーフ陣に違和感を覚える。
第1戦では、守護神を務めるロベルト・オスナがなんとかリードこそ守り切ったものの1回で3失点した。ただ、今季のオスナはあまり安定感がなかった。このような事態が起きることは、まったく予測できなかったわけではない。
むしろ、気がかりだったのはほかの投手たちだ。第2戦、6対2とリードした7回裏二死一、二塁で登板した尾形崇斗は、牧秀悟に手痛いタイムリー二塁打を浴びた。第3戦では、"第2先発"として1対1の5回表から登板した大津亮介がいきなり桑原将志に本塁打を許すと、連続四球などから招いたピンチでもう1点を失い、結局1アウトしか奪えず2失点で降板して負け投手となった。
またこの試合では、杉山一樹が1対3の8回表からマウンドに上がると、先頭打者を四球で歩かせると、その後、戸柱恭孝にタイムリー二塁打を献上して手痛い追加点を許した。
そして尾形は第4戦、0対1の6回表二死一塁でタイラー・オースティンを打席に迎えた場面でマウンドに送られて、空振り三振に仕留めて気合の咆哮を上げたが、続投した7回、宮崎敏郎に痛恨のソロを浴びるなど、4失点と炎上してしまった。
大津、尾形、杉山の3人はこのシリーズのなかで「やってもらわないといけない」、いわば計算に入っていたピッチャーだった。特に尾形と杉山については、小久保監督も「勝ちパターン」と明言していた。
ソフトバンクリリーフ陣は、故障者を抱えたことで台所事情が苦しくなっている。レギュラーシーズンで50試合に登板して14セーブ、23ホールドを記録した松本裕樹は右肩痛で離脱中。40試合登板で19ホールドの藤井皓哉も腰痛で不在だ。
その穴を、50試合に投げて防御率1.61と飛躍を遂げた杉山と、最速158キロを誇り9月以降は9試合無失点、その期間の奪三振率12.46をマークした尾形が埋める公算となっていたのだ。
逆転日本一に向けて、ソフトバンクは第6戦にパ・リーグ最多勝の有原航平、第7戦には同最優秀防御率のリバン・モイネロが先発する予定になっている。両投手とも長いイニングを投げられるタイプとはいえ、接戦に持ち込まれたときにリリーフ陣に綻びがあるのはあまりに痛すぎる。
【終わったことは振り返らない】その両投手が果たして本来の投球を取り戻せるのか、それもカギだと思われるなかで第5戦にはふたりともマウンドに上がった。
杉山は2回無失点。まだ本調子には見えなかったが、それでも前回に比べれば球の力が格段に上がっていたし、四球を与えることもなかった。尾形は1回無失点。2試合連続で痛打されたショックを振り払うのに十分な投球内容だった。
ところで、である。1年間を通して一軍に定着して安定した成績を収めた杉山はともかく、シーズンの多くはファームにいた尾形がなぜここまで評価されるのか不思議に思う野球ファンも多いだろう。先述したように最速158キロなどポテンシャルの高さには以前から定評があったが、とにかく安定感に欠けていた。今季前半は右肩痛の影響で戦列に加われなかったが、春季キャンプの頃にはかなり高い評価を得ていた。
尾形は昨年途中から、オスナに弟子入りしている。メジャーでセーブ王を獲った実績のある右腕から、トレーニング法やマウンドでの精神コントロールなどあらゆることを教わり、そこからメジャーの野球に興味をもって研究に没頭するようになった。体だけでなく頭も鍛えなければいけないと、シーズンオフには書物を読み漁り、パソコンの前に座って自分自身で相手打者や自身のフォーム、投球内容を分析して資料を作成した。
球速を尋ねると、キロではなくてマイル単位で答えてくるほどのこだわりようだ。ただ、自分がやってきたこと、積み重ねてきたことに自信もついてきたのだろう。話し口調がしっかりしたというか、言葉の内容そのものもずいぶんと大人びてきた。
第5戦の試合後は、こんなことを言っていた。
「前の試合まで打たれたことでモヤモヤしていたとか、そんなことはなく、今日もしっかり準備ができていた。昨日は昨日、大切なのは今日どうするか。だから過去に対することは、いっさい考えていなかったです。オスナにもずっと言われていましたから」
──その切り替えは一晩寝たらできるもの?
「いや、もう帰宅の途中とかにちゃんと分析と反省を冷静にしていくことが大事なんです。マインドセット、スキル、フィジカル、コンディション。この4つが自分の分析ポイントで、何がよくなかったのか。大まかにこの4つのなかから出していく。昨日(第4戦)は、たとえばマインドセットとコンディションがよくなかった。だとしたら、その2つをどうするかをちゃんと考えて、今日の練習前にその部分に取り組んで、準備して試合に向かう。それができました」
──運転しながら考える?
「そうですね。あとは試合が終わってトレーニングしている最中とか、帰りの準備をしている時とか、もう明日に進んでいることなので......。終わったことに対しては振り返らないというか、もちろん反省はしますが、明日に向けて試合終わった瞬間から始まっているんです」
ソフトバンクにとって、本拠地での3連敗はあまりに痛すぎた。反省すべき点はいくつもあった。だが、いくら悔しがっても時間を巻き戻すことはできない。ここからの2つをどちらも勝つために前を向くしかない。だから小久保監督も柔和な表情を浮かべたのだ。
レギュラーシーズンで91勝して貯金42をつくったのだ。慌てず焦らず自分たちを信じて戦うことが、なにより活路を見出すことになるはずだ。
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