氷川竜介が語る、「宇宙戦艦ヤマト」誕生の時代背景と世界観で物語る魅力【第37回東京国際映画祭】

氷川竜介氏(写真左)と藤津亮太氏

氷川竜介が語る、「宇宙戦艦ヤマト」誕生の時代背景と世界観で物語る魅力【第37回東京国際映画祭】

11月1日(金) 12:30

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第37回東京国際映画祭のアニメーション部門で10月31日、東京ミッドタウン日比谷・BASE Qでシンポジウム「『宇宙戦艦ヤマト』の歴史的意味」が開催され、アニメ・特撮研究家で明治大学大学院特任教授の氷川竜介氏とプログラミング・アドバイザーの藤津亮太氏がトークを行った。

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今年はテレビアニメ「宇宙戦艦ヤマト」放送50周年のアニバーサリーイヤー。10月6日に都内で行われた50周年記念上映会で、庵野秀明監督率いるカラーが「宇宙戦艦ヤマト」の新作劇場作品を企画中であることが発表され、話題になったばかりでもある。

「宇宙戦艦ヤマト」のどこが新しく、のちのアニメ作品に影響を与えたのかを自身の著書「日本アニメの革新歴史の転換点となった変化の構造分析」で詳述した氷川氏は、「ヤマト」が放送を開始した1974年当時は高校2年生。作品に魅了された勢いで制作スタジオを訪ね、制作資料をコピーさせてもらうなどしたという。「そのときに感じた興奮を裏づけたい」という思いがアニメの深みにはまるきっかけになったという氷川氏に、藤津氏が聞き手となって「ヤマト」が誕生した時代背景や、それまでの作品と何が変わっていたのかが語られた。

「ヤマト」が登場した74年は、テレビアニメ「鉄腕アトム」の放送が始まった63年から約11年後にあたる。日本のアニメが11年で「ヤマト」にまで進化をとげた理由を藤津氏から訊ねられた氷川氏は、当時の子ども向けテレビ作品は「ウルトラQ」「ウルトラマン」などの特撮を含めて、1年ごとに進化していた実感があったと話す。特撮とアニメが融合した児童向け番組全体を指す「テレビまんが」という当時の言葉には、子どもだましというネガティブなニュアンスがあった。その後、「ヤマト」第1作の総集編映画(1977)に中高生らを中心にした徹夜の行列ができたことを「アニメブーム到来」と報道されたことが、「テレビまんが」に替わって今用いられている意味での「アニメ」という言葉が広く使われるきっかけになったのだという。

そんな「ヤマト」の魅力のひとつは、キャラクターではなく世界観で物語を語るところにあったと氷川氏は語る。「世界観=物語(脱キャラクター)」は「ヤマト」の画期的だった点で、作品タイトルが当時多かったキャラクターの名前でなく、主人公たちを語らずとも物語が説明できてしまうことからも、「ヤマト」の物語が世界観で形成されていることが分かる。そして、画面の絵を読み解くことで世界観が浮かびあがるようなリアリティは、単なる舞台設定ではなく、作品世界を動かすための整合性や連続性まで考えられた設定に根差していることが、実際の設定資料をスライドで映しながら解説された。

そのほか、60年代から70年代にかけてアニメや特撮の観客が成熟していったことによる作品高度化の流れ、テレビのカラー化にともなって映像の表現力が大きく変化したことなど、さまざまな視点で「ヤマト」誕生の背景が語られた。それでも突然変異的に生まれた感のある「ヤマト」には、スタッフたちの「誰もやったことがないことをやりたい」という思いが結晶化した面があることを、氷川氏は「合力(ごうりき)」という言葉で説明した。これはスタッフの力が作品に結集しても、「こっくりさん」のように必ずしも毎回同じ方向に進むとは限らないという意味がこめられ、スタッフ間に発生した絶妙な力学と時代の流れが合致して生まれた部分が大きいのだろうとも語られた。

作品成立の秘密を解き明かしていくためには、作品の一次資料が欠かせない。氷川氏と樋口真嗣監督が副理事長、庵野監督が理事長を務める特定非営利活動法人「アニメ特撮アーカイブ機構(ATAC)」では、「ヤマト」の資料など多くのアニメ・特撮作品の記録と記憶を集め、次世代に継承していく組織である。氷川氏はトークの終盤にATACへの理解と支援を呼びかけながら、ATACの資料をもとに研究をしたい学生や、ATACの資料を分類・言語化する手伝いをしてくれる有志を募集していた。

11月3日には東京・丸の内ピカデリーで、「宇宙戦艦ヤマト」劇場総集編の4Kリマスターが回顧上映され、森雪役の麻上洋子が登壇する。第37回東京国際映画祭は11月6日まで開催。

【作品情報】
宇宙戦艦ヤマト

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