東京・日比谷、銀座、有楽町エリアで開催されている第37回東京国際映画祭のコンペティション部門作品「トラフィック」のQ&Aが10月31日、TOHOシネマズ日比谷シャンテで行われ、テオドラ・アナ・ミハイ監督、本作に出演する俳優のイオヌツ・ニクラエ、ラレシュ・アンドリッチが登壇した。
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第34回東京国際映画祭で審査員特別賞を受賞した「市民」(日本公開タイトルは「母の聖戦」)のテオドラ・アナ・ミハイ監督の新作。若いルーマニア人夫婦のナタリアとジネルは、より良い生活を求めて西欧に移住するが、その夢は厳しい現実の前に破れてしまい、困窮生活のなか、ふたりは美術館の絵画を強盗するたくらみに加担することになる……という物語だ。オードレイ・ディバン監督の「あのこと」で高い評価を受けたアナマリア・バルトロメイが主人公のナタリアを演じている。
「今日は一般のお客さまに観ていただくこととなり、これからがスタート。わたしにとって今日は非常にエモーショナルな日」と感慨深い様子を見せるミハイ監督。「市民」が審査員特別賞を受賞した前回の映画祭は2021年で、コロナ禍だったということもあり参加できなかったことを踏まえ、「前回、作品を招待していただいてとても光栄に思っていたのですが来日できず、非常に落胆していました。ですから今回、このようにお呼びいただけたことをとてもうれしく思っています」と日本の観客の前で喜びのコメントを寄せた。
本作は2012年にオランダのロッテルダムで実際に起こった美術品窃盗事件に基づき、西欧と東欧との経済格差の問題に切り込んでいる。ミハイ監督は「厳密に言うとだいぶ自由に翻案しているので、事実に基づいたというよりは、事実にインスパイアされた作品という言い方が正しいかもしれません」と前置きすると、「これは2012年にルーマニアの小さな村で起こった事件でした。その村出身のギャングの少年たちが、オランダのロッテルダム美術館から有名な絵画を7点盗んだんです。この事件を聞きつけたクリスティアン・ムンジウが、この事件にインスパイアされて脚本を書き始めたというのがそもそもの発端でした」と説明する。
本作で脚本と共同プロデュースを担当したクリスティアン・ムンジウは、カンヌ国際映画祭でパルムドールを獲得した「4ヶ月、3週と2日」などで知られるルーマニアを代表する映像作家だが、「彼もわたしも、貧困などの社会的な問題に関して共通した関心を持っているということもあって、一緒に組んで作品づくりを行っています。前作の『市民』では共同製作を担ってくれたんですが、今回はよりクリエイティブなコラボレーションを行うことができました」と振り返る。
本作は、移民問題にも言及されている。「わたし自身、共産主義だったルーマニアからベルギーにやってきた移民であり、東欧と西欧の両方に片足を突っ込んでいる存在なので、この映画で語ろうとしていることはよく分かっているつもり」と語るミハイ監督。
「わたしは80年代後半から90年代初頭にかけてアントワープに移住しましたが、当時は極右政党が『ゴミを捨てろ』というスローガンを掲げていました。そのスローガンが書かれていたパンフレットが郵便受けに入っていたのを目にしたこともありましたが、当時は10代前半だったので、なんでわたしたちがゴミ呼ばわりされないといけないのか、という思い出があります。わたし自身は育ちは西洋でしたが、親は生まれ故郷の訛(なま)りがとれないままに移住してきたということもあるので。社会の不正に苦しめられてきた、という経験は親の方がより強く感じていたと思います。そういう意味で、親の移民としての視点というのが、わたしの作品づくりのインスピレーションの源になったともいえます」
そしてあらためて「日本に来られてワクワクしています」と語ったミハイ監督。「映画を勉強していた頃から、日本のいろんな作品を観てきました。黒澤明監督の作品はもちろんのこと、最近の作家ですと是枝裕和監督の作品などからも大きな刺激を受けています。(ミハイ監督の2014年の初監督ドキュメンタリーである)『Waiting for August(原題)』は、是枝監督の『誰も知らない』からインスピレーションを受けているんです」と日本映画への思いを語った。
第37回東京国際映画祭は、11月6日まで開催。
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