ソフトバンクはレギュラーシーズンで勝率およそ7割を誇る本拠地でよもやの連敗を喫し、2勝2敗のタイに持ち込まれた。
ホームベースが遠かった。悔やまれるのは0対1で迎えた6回裏の攻撃だった。先頭打者は日本シリーズ初出場初スタメンに大抜擢された4年目22歳の笹川吉康だ。怖いもの知らずの若鷹はレフト前ヒットを放ち出塁すると、一死後には二塁へ盗塁も決めてチャンスを拡大させた。当然、ベンチも満員の客席も一気に熱を帯びた雰囲気になる。
そして周東佑京がフルカウントから四球を選ぶ。つづく栗原は一ゴロに倒れるも二死二、三塁と一打逆転の場面となり、打席には4番・山川穂高がゆっくりと向かっていった。
日本シリーズ第2戦以降、ノーヒットのソフトバンクの4番・山川穂高photo by Sankei Visual
【狙いが悪いわけではない】山川はシリーズ第2戦で先制2ランを含む3安打3打点と活躍している。その後は無安打だが、近くで観戦する取材仲間も「ここで打てばMVPでしょうね」と、大歓声が沸き起こるなかで耳打ちしてきた。間違いなく"おいしい"場面だった。
決着は初球でついた。好投を続けるDeNA先発のアンソニー・ケイが投げたのは甘く入ったチェンジアップ。山川に迷いはなかったが、タイミングが合わなかった。カツンという木製バットの音は、力がこもってなかったように聞こえた。高々と上がったセンターフライ。ドームの熱が急速に冷める。
それは流れが変わったことを意味していた。7回表、DeNAの猛攻にあって0対5と突き放され、もはや万事休すの様相となってしまった。
試合後、帰宅する山川に声を掛けて立ち止まってもらった。あの初球を打ったセンターフライをどう考えているのか、率直に問うてみた。
「惜しかったですからね。あれをどう打つとかはないですよ。何年やってもコンマ何ミリの差。あれがちゃんと当たれば、たぶんバックスクリーンとか左中間に行くでしょうし。もちろん悔しかったですけど、狙いが悪いわけではないので......って感じです」
山川はたとえ無様なプレーをした日でも、メディアの声がけを無視して帰ることはしない。「なんで僕にばっかり毎日話を聞きに来るんですか?ほかの人にもしてます?」と言って記者陣を困らせたことはあったが、「いや冗談ですよ」と笑って向き合うのだ。
悔しかった日でも大活躍した日でも、口調は変わらない。それが山川だ。
打ち損なったのかと質問をかぶせると、こう返ってきた。
「打ち損ないですね。でも(それを)どうするってなった時に、何年プレーしてもどうすればよかったっていうのは、"たら・れば"になっちゃうので。ただ、決めたかったですよね。ひとつ前(の打席)に、シュートかストレートの速い系の球をライトにライナーを打ちました。アウトになりましたけど。ケイ投手とは(この日が)初対戦ですので、待ち方的にもあれは正しいかなと思います。そんな感じです」
山川は打席が終わってベンチに腰掛けると、必ず自身のバットを見つめる。どの部分でとらえたのか、その跡を確認するのだ。この打席も芯付近ではとらえていた。ただ、ほんのわずかバットの上っ面のところに当たっていたというのだった。
零封負けを喫した試合のなかで、あえて4番・山川の名前を挙げたが、ソフトバンクは前日の試合も攻撃が低調だった。
第3戦は10安打を放ったものの、先頭打者が打ったイニングは一度もなかったこともあって相手に脅威を与えることはできなかった。第4戦は半分の5安打しか打てていないものの、イニング先頭は3度も出塁した。ただ、それでもつながらなかった。
【短期決戦はホームラン】あれはクライマックスシリーズ(CS)ファイナルが始まる前日のことだ。キーマンは周東になるのではないかと思い、話を聞きに行った。するとスピードスターは首を横に振って笑って、顔の前で手を振った。
「短期決戦はホームランじゃないですか、重要なのは。どのタイミングで、誰かがホームランを打つ。(CSファーストステージの日本ハムの)万波(中正)みたいに?そうです。ああいう一本がやっぱり戦況を変えるじゃないですけど、大きく変わってくる。足でかき回すより、ホームランを打てる人が打ってほしいっていう話です」
ソフトバンクはレギュラーシーズンで、34発で本塁打王となった山川を筆頭に、チーム114本塁打をマークした。これは12球団トップの数字である。
CSファイナルは周東が言うように、本当に一発攻勢で流れを一気に手繰り寄せた。第1戦は今宮健太、栗原陵矢、山川のソロ3発で5対2と勝利し、第2戦は近藤健介の勝ち越し2ランと山川の2打席連発でとどめを刺した。あれだけ勢いづいていた日本ハムを、文字どおり力でねじ伏せたのである。
だが、日本シリーズのここまで4試合で、ソフトバンクの本塁打は第2戦で山川が放った1本のみなのだ。一方でDeNAには福岡にやってきてからの2試合で3本塁打が飛び出している。しかも、すべて効果的な一発だった。
小久保裕紀監督は「いや、まあまあ。そんなに簡単にホームランは出ないですよ」と試合後、努めて明るく話した。村上隆行コーチにもコメントを求めると「相手ピッチャーの力もあるし、ホームランの打てないところにきっちり投げられている。ただ、それを何とか打っていかないと」との言葉が返ってきた。
期待の4番打者は何を思うのか。
山川は「僕の野球経験上」と前置きしたうえで、このように言葉を継いだ。
「打席の直後はすごく悔しい気持ちになりますけど、でも家に帰ったあととか、試合後のロッカーで、あの時に『ああだった』『こうだった』と振り返っても、何もできないんですよね。なので、また明日、自分のベストスイングを心がけて、やり返せたらっていうだけなんです」
長距離タイプではないが、今宮にも話を聞いた。
「簡単に打てるピッチャーでなかったのは事実です。でも、やっぱりもっとガツガツしてやっていかないといけないのかなというのは感じますね。チーム全体として。そんなに連打が出る形にはならない」
山川が言うように、短期決戦だからこそ切り替えがより大事になる。そして今宮の言葉も、的を射ていた。
勝ったチームが日本一に王手をかける重要な第5戦。ソフトバンク打線から待望の一発がどこで飛び出すのか。勝負のポイントとなりそうだ。
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