出雲駅伝1区区間賞の鶴川正也に、原晋監督からのさらなる期待がかかるphoto by SportsPressJP/AFLO
11月3日に行なわれる全日本大学駅伝(名古屋・熱田神宮→三重県・伊勢神宮内宮宇治橋前/8区間106.8km)。全国8地区の代表25校と日本学連選抜、東海学連選抜の計27チームによる日本一をかけた熱き戦いは、どのような展開となるのか?
春先から戦力の充実ぶりを見せつけてきた青山学院大は、出雲駅伝で3位となり、三冠の目標は消滅。しかし、「負けっぱなしは、ダメ」と勝負師・原晋監督はその悔しさを晴らすべく、全日本に並々ならぬ意欲を見せる。今季好調の鶴川正也の起用法も含め、その手腕は、いかに?
【「鶴川にはもっともっと突き放してほしかった」】1月3日、大手町で笑おう。
この言葉が2024年度、青山学院大のスローガンだ。
「もちろん優勝を目指していますが、走れなかったメンバーも、笑って1月3日の大手町を迎えられるようにという意味も込めています」
そう話してくれたのは、今年度の田中悠登キャプテンだ。
このスローガンからもわかるように、青山学院にとって最大のターゲットは箱根駅伝での優勝だ。前回の箱根では、本命の駒澤大を3区で逆転してから首位を譲らずに優勝。しかも主力選手の多数が残り、トラックシーズンでも好調ぶりを見せつけたことで、「学生駅伝三冠」に対する期待が高まっていた。
しかし、出雲駅伝で敗れた。
まさかの3位。原晋監督は苦虫をかみ潰したような顔を浮かべ、レース後にこう話した。
「"たすき際"が弱いんだな。中継点近く、たすきを渡す手前でのまとめ方。1区の鶴川(正也・4年)だって区間賞を獲得したけど、日本選手権の5000m4位に入った実力があるんだから、もっともっと突き放してほしかった。それが本音」
優勝した國學院大、2位の駒澤大に対して後手を踏んだシーズン初戦となったが、全日本ではどう巻き返しを図っていくのか。出雲からメンバーを変えるといった大胆な采配が見られたりするのだろうか。原監督は、そのアイデアを否定する。
「基本的には出雲を走ったメンバーを中心にして、全日本のオーダーを考えていきます。ただ、國學院さんは強いし、駒澤さんも秋に入って状態を上げてきたのがわかりました。全日本ではウチとしても出遅れるわけにはいかないから、1区から2区、3区と頭からいい選手を並べていかないといけないでしょう」
原監督は「出雲では一度も勝ったと思った瞬間がなかった」と話していたが、その要因は前半で「主導権」を握り損ねたことにある。
主導権。
実は、昨年の全日本でも青学大は後手を踏んだ。1区から駒澤が区間賞を獲得、青学大としては早々に主導権を握られてしまった。駒大はさらに2区・佐藤圭汰、3区・篠原倖太朗とエースを惜しみなく投入してきたこともあり、青学大は3区の時点でちょうど1分差をつけられてしまった。
「あの時点で、勝負あったよね」
これはレース直後の原監督の述懐である。
今年はこの逆のパターンで仕掛けたい。それが原監督の思惑ではないか。出雲駅伝で実現できなかった先制攻撃を仕掛けていくと予想する。
今年の青学大で、相手に大きなダメージを与えられる力を持つのは次の3人だ。
鶴川正也(4年)
太田蒼生(4年)
黒田朝日(3年)
このなかでは、太田が距離の長い区間に適性があるので、勝負どころの7区か、アンカーの8区での起用が予想される。
そうなると、鶴川と黒田の起用区間がどうなるかが気になる。
参考になるのが昨年、原監督が全日本で組んだオーダーだ。
1区・若林宏樹(当時3年)→2区・黒田→3区・佐藤一世(当時4年)
1区では若林が駒大とは8秒差の区間8位。続く2区では黒田が佐藤圭汰相手に好走したものの、16秒差の2位でタスキをつなぐ展開となった。
どんな展開になったとしても、黒田なら流れを作れる。経験値も考慮して、黒田は2年連続で2区を担当するのではないか。そこで問題となってくるのが鶴川の起用区間である。
1区か、3区か。
【輝き放つ鶴川がキーマンに】昨年まで、鶴川は熊本・九州学院時代の輝きを失っていた。
東洋大に進んだ石田洸介と世代トップを争う速さ、強さがあった。しかし、青学大に入ってからは思うように結果が出せず、初めて駅伝を走ったのは去年の出雲駅伝の6区。だが、区間7位とここでも結果を出せなかった。鶴川は言う。
「自分に腹が立ってました。出雲のあと、練習で出力を大きくしたら、ケガをしてしまって......。箱根駅伝でチームが優勝したのはうれしかったですが、自分は走ることさえできず、情けなくて、情けなくて、陸上をやめようとさえ思いました。最終的には、陸上が好きなので、戻ってきたんですが」
今年は4年目にして自分に最適の練習方法にめぐり合えたこともあり(単独でポイント練習する機会が増えたのがよかったという)、トラックで結果がついてきた。関東インカレ2部5000m優勝、そして日本選手権では13分18秒51の青学大記録をマークして4位に。残すは駅伝の結果だ。
「今年は区間賞、3つ取ることが目標です」
出雲駅伝前に、鶴川はそう話していたが、出雲の1区では公約どおり区間賞を獲得した。ただ、原監督はこの鶴川の走りにはやや不満が残ったという。
「区間賞が欲しかったこともあって、仕掛けるタイミングが遅くなったんじゃないかな。残り1kmではなく、残り2kmから行っても区間賞は獲れたでしょう。全日本からは、自分のことだけでなく、チームの流れを考えた走りをしてほしいのよ、鶴川には」
さて、出雲の経験を生かして、全日本でも1区でいくのか。ただし、区間距離が9.5kmと短く、大きな差をつけるのは難しい面もある。それならば、3区で決定打を放つ戦略もあり得る。
今回、青学大の焦点は鶴川の起用区間にある。鶴川と黒田の「コンボ」が國學院、駒澤に対して主導権を握れるかどうかが序盤のポイントとなる。
中盤の4区から6区までの「つなぎ区間」とされる3区間は、青学大の誇る選手層がモノを言うはずだ。レースウィークに入って、原監督は何人かの1年生を起用することを示唆しており、5000mで日本高校歴代2位の記録(13分28秒78)の記録を持つ折田壮太らがデビューする公算が高まった。1年生が力を発揮すれば、つなぎ区間がアドバンテージに転じる可能性もある。
そして7区、8区では太田がライバルたちと、どのような争いを繰り広げるのか。鍵は、やはり序盤である。
出雲の敗戦から3週間。
「負けっぱなしは、ダメ。青学の存在感を見せないと」
鶴川というエースを、どのような「札」として使うのか。原監督の采配に注目したい。
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