シーズンを通して安定した走りを見せる駒澤大主将・篠原photo by Wada Satoshi
11月3日に行なわれる全日本大学駅伝(名古屋・熱田神宮→三重県・伊勢神宮内宮宇治橋前/8区間106.8km)。全国8地区の代表25校と日本学連選抜、東海学連選抜の計27チームによる日本一をかけた熱き戦いは、どのような展開となるのか?
大会4連覇中の駒澤大は、シーズン前半こそ苦しい情勢を強いられてきたが、10月14日に行なわれた出雲駅伝では全区間で堅実な走りを見せて底力を証明。エース・佐藤圭汰がケガで出遅れているが、主将の篠原倖太朗をはじめとする主要戦力、台頭が目につく新戦力で伊勢路に挑む。
【エース佐藤を欠くも底力を見せた出雲駅伝】大学駅伝シーズン初戦の出雲駅伝。駒澤大のアンカーを務めた主将の篠原倖太朗(4年)は、仲間に謝罪するかのように両手を合わせてフィニッシュラインに駆け込んだ。
チームは大会3連覇がかかっていたが、國學院大とのアンカー対決に敗れて、2位に終わった。
「各区間で最後に勝ちきれなかったんですよね。その積み重ねがアンカーに渡った時にビハインドという形になってしまった。その時点で、私たちの勝てるレースではなくなってしまった。そのなかでも絶対的なエースとして篠原を置いていたので、篠原がなんとかしてくれる、と信じる思いももちろんありましたが、ヨギボー(
*
)の疲労が出てきてしまったのかな」
*篠原は出雲の16日前、9月28日に行なわれたYogibo Athletics Challenge Cup 2024の5000mで屋外の日本人学生最高記録となる13分15秒70をマークした。
就任2年目の藤田敦史監督は、出雲の敗因をこう分析していた。
しかしながら、客観的に見れば"やはり駒澤大は侮れない"とライバル校に思わせるには十分な結果だったのではないだろうか。篠原と双頭をなすエース格の佐藤圭汰(3年)を故障で欠く布陣で臨みながらも、最後まで優勝争いを繰り広げたのだから。
昨年、一昨年の出雲の優勝は、2区に配された佐藤がぐっと流れを手繰り寄せた。今回は連覇中と同じような展開には持ち込めなかったが、序盤から先頭の見える位置できっちりつないだ。「圭汰なしでも戦えるチームを作ろう」という挑戦は、それなりに成果を挙げたと言っていい。
また、藤田監督の采配もある程度ははまった。
「試合で外さない」という安定感を買って、ルーキーの桑田駿介を1区に抜擢。指揮官は「もう少し前で来てほしかった」と注文をつけたものの、トップと15秒差の6位とスターターとしての役割は果たした。
3区は、青学大が黒田朝日を起用すると予想して、山川拓馬(3年)を起用。状態がよかったことも理由のひとつだったが、将来のエース候補にさらなる成長を促す意味合いもあっただろう。山川は、中継所では黒田に先着を許したが、区間タイムでは黒田を3秒上回った。
後手に回る展開にはなったが、それは織り込み済み。選手たちは藤田監督の思い描くプランどおりにレースを遂行した。「30秒以内の差なら篠原で逆転は可能」と目論んでいたため、ビハインドがあったとはいえ、篠原に渡った時点で先頭の國學院大に4秒差の2位は上々のレース運びだった。
計算違いがあったとすれば、國學院大のアンカー・平林清澄が藤田監督の想像を上回る走りを見せたということぐらいではないだろうか。
それだけに、出雲では、悔しさだけでなく、"戦える"という手応えも大きかった。
「今回初出走の桑田と帰山(侑大・3年)、島子(公佑・2年)が先頭をうかがう走りをできたことが一番の大きな収穫でした。特に5区の島子は、先頭争いがかなりヒートアップするような状況でした。そのなかを走れた経験は非常に大きい。
昨年のように最初から力があったチームではないので、出雲で勝って自信にして全日本に向かおうという意識でやってきました。出雲では負けましたが、先頭争いをするところまで来た。この自信と悔しさを持って、次の全日本は連覇を目指したい。そして一つひとつ自信にして箱根に向かおうと思います。一つひとつですね」
前半シーズンはなかなか結果を残せず、チームとして勢いに乗れずにいた印象があったが、ひと夏を経て駅伝シーズンを迎えて、一気に調子を上げてきた。やはり駒澤大は侮れないチームなのだ。
【出雲好走の島子、秘密兵器の谷中ら下級生の台頭】
谷中は大学デビュー戦となった出雲駅伝後の5000m記録会でトップにphoto by Wada Satoshi
出雲では走った6人が大きなミスなく、堅実な走りを見せた。距離が長くなる全日本大学駅伝でも、この6人は出走する可能性が高い。
駒澤大は全日本で4連覇中だが、前回の優勝メンバーは8人中4人が卒業した。さらに、佐藤はエントリーメンバーに名前を連ねたものの、出走は微妙な状況だ。前回からはガラリとメンバーが入れ替わることになる。
新戦力の台頭が待たれるなか、藤田監督の言葉にもあったように、これまで駅伝で出番のなかった島子が5区区間2位の力走を見せたのは、大きかった。
「島子が走ったことで、(ほかの)2年生もこれから出てくると思います」
藤田監督がこう話すように、島子の活躍が呼び水となり、学年全体が活性化しそうだ。実際、全日本のエントリーメンバーには、島子を含めて2年生が4人も名前を連ねている。
さらには、春先から活躍を続ける桑田と共に、楽しみなルーキーも出てきた。
福島・帝京安積高出身の谷中晴(たになか・はる)。ヒザのケガ明けのためシーズン前半戦はレースで出番がなかった、いわば"秘密兵器"のような存在だ。この夏を乗りきり、出雲のエントリーメンバーに入るまで成長を遂げた。
出雲駅伝への出場を見送られたものの、谷中は駅伝後の"もうひとつの出雲駅伝"こと出雲市陸協記録会の5000mで、圧巻のパフォーマンスを見せた。
「全日本のメンバー選考がかかっていて、監督からは"勝ちきるように"と言われていたので、そこをしっかり意識していました」
谷中にとってはこのレースが大学初戦だったにもかかわらず、青学大の白石光星(4年)や國學院大の嘉数純平(3年)といったライバル校の主力選手に対して一歩も引くことはなかった。それどころか、残り2周を切ってロングスパートを仕掛けると、指揮官の期待どおり、見事に勝ちきってみせた。そして、タイムも自己記録を10秒以上更新し、自身初の13分台となる13分49秒71で走った。
「トップをとれたので、合格点をあげられると思います。ちょうど1年ぶりのトラックレースで自己ベストを出せたのは大きな収穫。夏合宿をしっかりできたのが自信につながった。今回の出雲駅伝はギリギリのところで外れてしまって悔しい思いをしたので、全日本はしっかり走りたい」
谷中も自身の走りに及第点を与え、全日本出場に意欲を示していた。
「負けてもただでは起きないのが駒澤なので、『チームが負けたなかで、お前たちがどういうレースをするかが大事だ』っていう話をして送り出しました。谷中は非常に強かった。次の全日本に向けて"駒澤は絶対に負けないんだ"っていうのをアピールできました。間違いなく全日本は(谷中を)使います」
藤田監督も、谷中の走りに太鼓判を押す。
藤田監督に「過去の駒澤大の選手にたとえると、谷中は誰に似ているか?」と質問を投げると、少し悩んだ末に「私に近いですね」と答えてくれた。現役時代の藤田監督といえば、トラックの持ちタイム以上に、ロードでは滅法強かった。ということは、谷中もまたロードの長い距離でこそ真価を見せるということなのだろう。
「高校の時はずっと"一匹狼"でやっていて、学法石川の増子君(
*
)っていう強い選手に勝負を挑んで勝ちきった男なんで、気持ちは強いですね。ひとりで走れるし、ロードが強い。ゆくゆくは桑田と谷中でダブルエースになる可能性は十分にあります」
*増子陽太。3000mの前中学記録保持者で、5000mの高2最高、高1歴代2位の記録を持つ
藤田監督が高い期待を寄せる谷中が、いよいよ伊勢路でベールを脱ぐ。
"もうひとつの出雲駅伝"では、4年生の金谷紘大も13分57秒12で5着と好走。各校の2番手の選手では最上位だった。金谷もまた夏合宿明けから好記録を連発しており、アピールを続けている。
出雲に続き、佐藤が不在となると、もちろん大きな痛手だ。それでも、伊勢路で戦える陣容は整いつつある。そして、このピンチを再び乗り越えた時、駒澤大はさらなる成長を遂げているだろう。史上初の全日本5連覇を果たした先に、箱根駅伝の優勝も見えてくる――。
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