第1作から最新作『猿の惑星/キングダム』まで。SF映画の金字塔、視覚効果56年の変遷をたどる

廃墟と化したビル群の光景は息を呑むほどリアル!『猿の惑星/キングダム』のVFXがすごすぎる/[c] 2024 20th Century Studios

第1作から最新作『猿の惑星/キングダム』まで。SF映画の金字塔、視覚効果56年の変遷をたどる

10月30日(水) 11:30

世界中で大ヒットした『猿の惑星/キングダム』(24)のパッケージが、ついに本日リリースされた。本作の大きな魅力の一つが、類人猿=エイプたちの視覚効果だろう。生きているように息づくリアルなエイプたちは、「アバター」や「アベンジャーズ」シリーズなど超大作に携わった世界最高峰の視覚効果スタジオ・WETA FX(WETAデジタル)が手掛けている。そこで本稿では、誕生から50年以上にわたり、リアルなエイプを描いてきた本シリーズの進化の歴史を解説しながら、4K UHD・ブルーレイ・DVDだからこそ繰り返し楽しみたい見どころや、製作の舞台裏が見られる豪華ボーナスコンテンツを紹介していこう。
【写真を見る】第一作では特殊メイクのみでリアルなエイプに変身していた!(『猿の惑星』メイキングより)
最新の視覚効果技術がふんだんに用いられた『猿の惑星/キングダム』


『猿の惑星/キングダム』の舞台となるのは、人類が野生化し、猿たちが支配者として君臨している300年後の地球。巨大な王国を築き上げた独裁者プロキシマス・シーザー(ケヴィン・デュランド)によって、大切な家族と故郷を奪われてしまった若き猿のノア(オーウェン・ティーグ)は、人間の女性ノヴァ(フレイヤ・アーラン)と共にプロキシマスの絶対的支配に立ち向かう。しかし、彼女は猿たちの知らないある“秘密”を握っていたのだった。

※本記事は、『猿の惑星/キングダム』のネタバレ(ストーリーの核心に触れる記述)を含みます。未見の方はご注意ください。

■第1作から最新作まで、エイプ・エフェクツの歴史をたどる
最新作にも多くのオマージュが散りばめられた、記念すべき第1作の『猿の惑星』


1968年の誕生以来、知能の高いエイプをリアルに描き高い評価を浴びてきた「猿の惑星」。オリジナルシリーズから最新作『猿の惑星/キングダム』まで、エイプたちの特殊・視覚効果の流れをおさらいしておこう。
【写真を見る】第一作では特殊メイクのみでリアルなエイプに変身していた!(『猿の惑星』メイキングより)


記念すべき第1作は、俳優たちの顔にパーツを装着する特殊メイクで作られた。エイプたちは主に、こめかみから鼻筋、上唇までの顔上部と、下唇から顎にかけての2つのパーツで構成。材質は柔らかいフォームラバーで、俳優の顔を型取りして作るオーダーメイドのため装着しても隙間が出ない。そのため顔をしかめるなど、俳優の表情がそのまま表現できるのだ。特殊メイク担当は「アウター・リミッツ」などテレビを中心に活躍していたジョン・チェンバース。見事なデザインや効果が高く評価され、第41回アカデミー賞名誉賞を受賞した。『猿の惑星/キングダム』のウェス・ボール監督も「『猿の惑星』が愛されている理由は特殊メイクにある」と絶賛。チェンバースは『最後の猿の惑星』(73)までのシリーズ5作とテレビ版も担当した。シリーズを通し視覚効果は、主にマット画など背景作りに使われた。
ティム・バートンが手掛けた『PLANET OF THE APES/猿の惑星』も特殊メイクによるものだった


ティム・バートン監督が新たな世界観で作り直したリ・イマジネーション版『PLANET OF THE APES猿の惑星』(01)も特殊メイクが採用されている。エイプメイクはメイクアップ賞で7度のオスカーに輝く巨匠リック・ベイカーが担当した。俳優たちの顔を生かしたデザインや些細な変化まで伝える表情、毛並みから歯、指先までリアルを極めた仕上がりは驚くばかり。ベイカーに師事したカズ・ヒロ(『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』『スキャンダル』でオスカーを獲得した日本人アーティスト)が、本作でもベイカーの右腕として腕を振るっている。視覚効果は主に宇宙シーンや景観づくりに使われ、視覚効果担当のILMは映画の世界観に合わせ、宇宙船やエイプたちの街の遠景をCGではなくミニチュアで作成した。
リブート版ではパフォーマンス・キャプチャを用いて、俳優の演技がCGにも反映されるようになった(『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』)


“猿の惑星”の誕生を描いたリブート版、『猿の惑星 創世記(ジェネシス)』(11)では、特殊メイクからCGに舵を切ることとなる。エイプが地球の支配者になる過程を描く本作ではリアルなエイプ描写が不可欠なこと、そして視覚効果の進化も大きな理由だ。白羽の矢が立ったのは「ロード・オブ・ザ・リング」三部作で視覚効果を次の段階へと押し上げアカデミー賞に輝いたWETA FX。『アバター』で実力を見せつけた視覚効果監修のジョー・レッテリはじめWETAのチームは、表情からしぐさまで俳優の演技を取り込むパフォーマンス・キャプチャ(人間の動作=モーションキャプチャと、顔の表情=フェイシャルキャプチャを同時に行う技術)で生きているように動き回る情感豊かなエイプを創りあげた。チンパンジーのシーザー役は「ロード・オブ・ザ・リング」のゴラムや『キング・コング』(05)のコング、『GODZILLA ゴジラ』(14)のゴジラを演じた第一人者アンディ・サーキス。三部作を通し、赤ん坊から青年、そして部族を率いる長へと成長し苦悩するシーザーを熱演した。デジタル化されても、俳優たちの演技をそのままキャラクターに活かすシリーズの伝統はしっかり踏襲されている。

そして、このリブート版三部作のラストから約300年、エイプたちが支配する世界を描く最新作『猿の惑星/キングダム』。視覚効果は引き続きWETAが担当し、前作をベースに新たな「猿の惑星」を生みだした。ブルーレイに収録されているメイキング特典「新たな挑戦の舞台裏」には、企画から完成までスタッフ、キャストのインタビューを交え舞台裏が紹介されている。視覚効果監修はリブート三部作にも参加したエリック・ウィンキスト。本作でもパフォーマンス・キャプチャが採用されたが、AIの導入によってさらに進化を遂げている。リブート三部作では言葉をしゃべるのはシーザーなど一部のエイプのみで、彼らのコミュニケーションの多くは手話だった。しかしエイプたちが言葉をしゃべる本作では、セリフに合わせた口の動きも必要となる。そこで俳優たちの表情を何種類もキャプチャし、それを学習させて効率化するディープラーニング・フェイシャル・ソルヴァーを導入。俳優が装着するヘッドマウントから突き出た表情を取り込むカメラを3Dカメラにすることで、データ化のクオリティも高まった。またエイプ役の俳優たちの技術面、役作りをサポートするためサーキスが特別コンサルタントとして参加。リアルなエイプ作りに貢献した。

■メイキング特典と併せて観ると、作り手のこだわりが実感できる!

エイプたちの表情だけでなく、世界観をつくりあげる背景にも注目!(『猿の惑星/キングダム』)

ストーリー、キャラクター共にシリーズ史上最大級のスケールを誇る『猿の惑星/キングダム』には、視覚効果を駆使した多彩な見せ場がふんだんに盛り込まれている。幕開けで圧倒されるのが、険しい岩山登りに挑戦する3人の若きエイプたち。主人公ノアらイーグル族の大人たちは、それぞれ相棒となる鷲と絆を結んでいる。若者は岩山にある鷲の巣から、自分の相棒にする卵を村に持ち帰るのが大人への通過儀礼。絆の日と呼ばれる儀式を前に、ノアは同い年の親友アナヤ(トラヴィス・ジェフリー)、スーナ(リディア・ペッカム )と険しい岩山に挑戦する。手足を器用に使って高所を自在に登り、跳び、落下するアクロバティックなアクションはスリル満点。自由なカメラワーク、3人のさりげないやり取りや仕草に性格をにじませるところにデジタル映像の威力を思いしらされる。岩山のようにたたずむ朽ち果てたビルなど、背景を細かくチェックするのもお楽しみだ。
メイキング特典では本物の鷲を使い、エイプの演技トレーニングを行っている姿が確認できる(『猿の惑星/キングダム』)


アクションとは別の意味で息をのむのがイーグル族の集落だ。鳥と親和性の高い彼らの住処は高い鉄塔の上。そのデザインは鳥の巣をイメージしたという。螺旋階段は、リブートシリーズのシーザーの家を思わせる。モーション・キャプチャでエイプたちを描いた本作の基本は、ロケやセットで実際に俳優が演じ、彼らをデジタルキャラに入れ替えること。集落はロケ地であるオーストラリアの広大な農場に実際に作られ、室内はスタジオにセットを組み撮影されている。冷酷な独裁者プロキシマス・シーザーの手下による襲撃シーンのアクションは、セットで俳優たちが演じており、焼き討ちシーンはロケ地のオープンセットに火を放って撮影。リアルな映像は、フィジカルな撮影とデジタルキャラの照り返しなど凝った照明から生みだされた。メイキングの撮影風景と合わせて観ると作り手のこだわりが実感できる。
想像以上に実際にロケ撮影されていることを、メイキング特典で確認してほしい(『猿の惑星/キングダム』)


集落を破壊されたノアは、連れ去られた家族や仲間を救いだすため旅に出る。その静かな旅路も視覚効果の見どころだ。オーストラリアの雄大なロケーションはもちろん、草木に覆われたタワービルの残骸、さび付いた街頭、空港跡地にできた巨大な空洞など、滅び去った文明の痕跡が次から次に登場。メイキング特典で「空想的な要素を増やし、いろんな世界を見せたかった」と語ったボール監督は、エイプたちだけでなく視覚効果を駆使し驚異の世界を創造している。また馬に乗ったエイプたちによる“人間狩り”は、第1作に心酔するボール監督らしいオマージュ。原始人を思わせる人間たちの衣装やカメラワークを含めオリジナルを意識しており、最新テクノロジーで再現された本作とオリジナルを見比べてみるのもおもしろい。

圧巻のスペクタクルが味わえるのはクライマックス、プロキシマス・シーザーの王国での攻防戦だ。人間の武器がエイプに渡るのを阻止するため、メイ(ノヴァの本当の名前)は堤防を爆破。水没していく貯蔵庫からの脱出劇と、プロキシマス・シーザーの部下とのバトルが同時進行で展開する。パイプや鉄骨の柱がパズルのように入り組んだ貯蔵庫で、エイプたちがその身体能力を活かし押し寄せる海水や敵をすり抜けながら逃げ惑う様は、プロローグの岩山とはまた違う怖さが味わえる。水の描写は極めてリアルで、本作の視覚効果スタッフの多くが参加した『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』(22)での経験が活かされたという。なお王国に到着する前、川でノアたちがプロキシマス・シーザーの部下に襲われるシーンは、オープンセットに水を流し、激流を作って撮影。こちらは実写ならではの解放感で、メイキング特典では激しい流れの中で演じる俳優陣の過酷な現場を見ることができる。

■未公開シーンで『猿の惑星/キングダム』の世界がさらに広がる!
シリーズ第1作のラストを思い起こさせる海岸線のシーン(『猿の惑星/キングダム』)


メイキング映像のほかにも4K UHD+ブルーレイ セット・ブルーレイ+DVD セットには、14シーン計30分を超える「未公開シーン」が収録されている。ボール監督の音声解説、俳優たちの音声がセレクトできるだけでなく、それぞれがプリビズどおりに編集され1つのシーンとして完成させているのがうれしい。冒頭の岩山シーンでは3人の凝った芝居、自宅でのノアと父のやり取り、ノアとサラが互いを理解する様子が丁寧に描かれていたり、ノアが夢で父を見る=エイプが夢と現実の違いを認識するくだり、そして笑いを誘うジョークも盛り込まれている。
ボール監督のこだわりが詰まった『猿の惑星/キングダム』


CGまで完成したもの、俳優の演技の段階のもの、プリビズの状態など様々で、時おり画面にコンセプト画を映し出すなど凝った作り。音声解説もシーンに込めた意図や裏話、削除理由から「本当は入れたかった!」など監督の本音が聞けるのも楽しい。キャプチャスーツを着た俳優たちが芝居をする姿をじっくり見ることができる、という意味でも興味深い。「猿の惑星」ファンはもちろん、視覚効果やフィルムメイキングに興味のある人には貴重な映像特典といえる。
『猿の惑星/キングダム』の4K UHD・ブルーレイ・DVDは10月30日から発売中!


深遠なテーマや逆転世界のおもしろさと共に、リアルなエイプで観客の心をつかんできた「猿の惑星」シリーズの歴史は、特殊・視覚効果の進化の歴史と言ってもよい。その最高峰として高い評価を獲得した『猿の惑星/キングダム』。ぜひ旧作「猿の惑星」シリーズと見比べて楽しんでいただきたい。そして、視覚効果の舞台裏を貴重な映像やインタビューで解き明かす4K UHD・ブルーレイ・DVDで、その真髄に触れてみてはいかがだろうか。

文/神武団四郎


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