現地発! スペイン人記者「久保建英コラム」
オサスナ戦で今季のラ・リーガ4回目のベンチスタートとなった久保建英は、後半頭からピッチに入るとわずか45分間で、チームのベストプレーヤーと評価されるほどのハイパフォーマンスを発揮した。
チーム内ではトップクラスのプレーをしながら、久保はなぜ先発出場できないのか。今回はスペイン紙『ムンド・デポルティボ』でレアル・ソシエダの番記者を務めるウナイ・バルベルデ・リコン氏に、調子の上がらない現在のチーム事情とキャプテンのミケル・オヤルサバルとの関係について分析してもらった。
【これまで以上のローテーション起用】
おそらく久保建英は今、昨季予想していなかったような現実に直面していることだろう。それは彼をよりよい選手、より成熟した選手に変えることもできるし、彼のパフォーマンスやチームでの地位に大きな影響を与える可能性もある。
オサスナ戦では途中出場ながら、久保建英はチームトップクラスのプレーを見せたphoto by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA
イマノル・アルグアシル監督はミケル・メリーノ(アーセナル)とロビン・ル・ノルマン(アトレティコ・マドリード)の退団、チームのスター選手たちがプレシーズンにまともに参加できなかった悲惨な夏を過ごしたあと、置かれている状況を冷静に判断し、これまでとは選手ローテーションの方針を変える選択をした。
昨季は後半戦に入り、過密日程にもかかわらずレギュラー選手を多用して負担をかけ、ケガ人が続出し、調子を崩してしまった。そこで今季はよりフレッシュな状態を維持できるよう、「これまで以上にローテーションを行なう」と指揮官は宣言。しかし結果が伴わず、さらなる解決策を求めて辿り着いたのが、スタメンを大幅に入れ替える戦い方だ。これまで最大で10人を変更している。
ラ・レアル(レアル・ソシエダの愛称)は危機に瀕しているが、ローテーションを減らすことは特定の選手の酷使につながるため、悪手になりかねない。そのため久保のように先発出場が当たり前だった選手も、フル出場したかと思えば別の日はわずかしか出番がないという日々を送っている。
このローテーションは、代表チームでプレーした場所にも大きく影響している。久保は代表戦のたびにスペインとアジアを往復しているため、その直後の試合はベンチスタートの可能性が高くなる。実際にラ・リーガ第10節ジローナ戦(1-0)は控えだったが、その次のベオグラードでのヨーロッパリーグ第3節マッカビ・テルアビブ戦(2-1)では先発だった。
【左ウイングのプレーは快適ではなかった】
イマノル監督は、10月のスペイン代表戦で右ウイングを務めたミケル・オヤルサバルをジローナ戦でも同じポジションで起用し、そのパフォーマンスに満足していた。そのためマッカビ・テルアビブ戦でも右サイドに留め、久保を初めて利き足の左サイドに移動させた。
しかし久保にとってこのポジションまったく快適な場所ではない。積極的にプレーに関与したのは、中に入ってボールを受けた時か、右サイドに回った時だけだった。
データによるとマッカビ・テルアビブ戦の久保は、75分間の出場でその次のオサスナ戦(ラ・リーガ第11節)の45分間とほぼ同じボールタッチ数だった。惜しいシュートを2本打ち、サイドチェンジを2本、クロスを1本成功させたが、それ以外に目を見張るプレーはほとんどなし。ドリブルは一度も成功せず、デュエルの勝率は33%に留まり、ボールロスト数はオサスナ戦より多かった。
イマノル監督がローテーションを継続しているため、久保はそのオサスナ戦(0-2)は再びベンチスタート。オヤルサバルが右ウイング、オーリ・オスカルソンがセンターフォワード、アンデル・バレネチェアが左ウイングで起用された。
しかし、オサスナにしっかりとゴールを固められ、ダイレクトかつシンプルにカウンターを仕掛けられたため、ラ・レアルの出来は散々だった。前半のうちに2点のリードを許しただけでなく、3点目を奪われる可能性もあった。何らかの手を打つ必要に迫られたイマノル監督は、ハーフタイムに未だ安定性を欠くオスカルソンを下げ、久保を投入した。
【途中出場のオサスナ戦はドリブル成功率100%】
久保はピッチに立つとすぐに革命を起こした。結果的に成功は収められなかったが、逆転勝利を感じさせる唯一の選手となり、この試合のベストプレーヤーと評価された。
ファーストタッチから切れ味鋭いドリブルでカウンターを仕掛け、強烈なシュートを枠に飛ばした。その次のプレーではすばらしいクロスを上げ、マルティン・スビメンディの決定機を演出した。
久保は何度もトライし、すべてのチャンスに関与した。ほかの選手とは違う輝きを放ち、そのスピードとドリブルでインサイドでもアウトサイドでも容易に相手を圧倒し、ゴールに迫った。
さらにブライス・メンデスからのパスを足元で受けると、相手ふたりと対峙しながら左足のすばらしいシュートをゴール右上隅に飛ばしたが、相手GKセルヒオ・エレーラのファインセーブに阻まれた。
時間が経つにつれ久保は孤軍奮闘の状態となり、チーム全体のパフォーマンスも低下。試合は残念な結果に終わったが、久保は後半のみの出場でボールに48回触り、シュート3本、キーパス4本、クロス成功4本、デュエル勝率100%、ドリブル成功率100%という好データを残した。
ここのところ左サイドでプレーすることもあるが、久保のベストポジションは間違いなく右ウイングだ。それはイマノル監督指揮下でも、将来的に新たな監督がやって来たとしても変わらないだろう。もうひとつ選択肢を挙げるとしたら、2季前にアレクサンデル・セルロート(現アトレティコ・マドリード)と組んでうまく機能した、中盤ダイヤモンド型の4-4-2システムの2トップの一角でプレーすることだ。
あくまでも左サイドは一時的なオプションであり、決して最適解ではない。それはバレネチェア、セルヒオ・ゴメス、オヤルサバルのほうが左サイドでのプレーを得意としているからだ。しかし、ゴールラインまでボールを運び、そのままクロスをあげられる左利きのウインガーをイマノルが必要とする場合に備え、そこでのプレーに慣れておくのは、久保にとって決して悪いことではないだろう。
【オヤルサバルの好不調の影響を受ける久保】
ラ・レアルにとって難題なのは、クラブのスター選手であるオヤルサバルがトップフォームを取り戻すのに最適なポジションが不明瞭で、その問題を解決するための議論がクラブ内で毎日のように交わされている点だ。
オヤルサバルは2022年3月にヒザの前十字靭帯断裂の重傷を負ったあと、スキルとスピードが衰えた選手になった。そのためイマノル監督は昨季、スピードやドリブルをそれほど必要とせず、ゴールへの本能を生かすためにセンターフォワードで起用し、久保とバレネチェアをサイドに置くことで一定の結果を残した。
今夏、スペイン代表でユーロ決勝のイングランド戦で得点を記録し、チームの優勝に貢献。しかし、ほぼ休養を取らずにプレシーズンにもまともに参加できないまま今季をスタートしたのがあだとなり、フィジカルコンディションは最近までベストの状態からほど遠かった。
先述したように、イマノル監督はオヤルサバルが10月の代表戦で右ウイングとしてすばらしいパフォーマンスだったのに倣い、同ポジションで起用したことが功を奏した。しかしこれは、オヤルサバルをセンターフォワードで起用するという開幕当初のプランとは異なるものだ。オヤルサバルが今後も右サイドでプレーする場合、オーバーブッキングが生じ、とくに久保、バレネチェア、シェラルド・ベッカーに大きな影響を与えることになる。
オヤルサバルはこれまでどちらのポジションでもパフォーマンスに波があり、チームに貢献することもあれば、疑問を持たれることもあった。そのため、ベストの判断を下すのが難しいというのが正直なところだ。
しかし、オヤルサバルはここまでラ・レアルを引っ張ってきたクラブのシンボルである。そのためイマノル監督には彼を輝かせる方法を見つける義務があるのだ。とはいえ、彼の最高の瞬間はすでに過ぎ去っている可能性も捨てきれないが......。
オスカルソンや久保、セルヒオ・ゴメスのように、より若く、フィジカルコンディションが良好で、高価な選手たちもいる。彼らもクラブに大きな期待を寄せられているため、より多くの試合に出て経験を積み、さらに成長する必要がある。
オヤルサバルが本来のレベルを取り戻せるのか、それとも中途半端なままで終わるのかは時間が解決してくれるはずだ。
目下、ジョキン・アペリバイ会長の言葉によると、「オヤルサバルのポジションはセンターフォワード」とのことだ。しかし、イマノル監督は「ミケルはどこでプレーしようとも、カギとなる選手であるのは周知のとおりだ」と発言している。そのため久保への影響も考慮しつつ、今後の起用法を見守る必要があるだろう。
(髙橋智行●翻訳 translation by Takahashi Tomoyuki)
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