エムバペになくてレバンドフスキにあるもの クラシコを「大差」にした「ストライカー」の有無

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エムバペになくてレバンドフスキにあるもの クラシコを「大差」にした「ストライカー」の有無

10月29日(火) 17:00

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先日のエル・クラシコで、レアル・マドリードの"特級怪物"キリアン・エムバペは、世界を驚嘆させる大暴れを期待されながら、バルセロナを前に無得点に終わっている。実力を考えれば、お粗末なプレーだった。エースの一角である彼が不発だったことが、0-4という大敗を招いたとも言える。

「彼の日ではなかった」

スペイン大手スポーツ紙『マルカ』はマドリード寄りの論調だけに、そこまで厳しく書いていない。しかし、これが続けば戦犯として吊し上げるだろう。

「(ハンジ・)フリック(バルセロナ監督)の勝利、エムバペの落第」

スペイン大手スポーツ紙『アス』もマドリード系だが、有名コラムニストはすでに容赦がない。

クラシコでの先制ゴールを喜ぶロベルト・レバンドフスキ。手前はキリアン・エムバペ photo by David Ramos/Getty Images

クラシコでの先制ゴールを喜ぶロベルト・レバンドフスキ。手前はキリアン・エムバペ photo by David Ramos/Getty Images



あらためて、なぜエムバペはノーゴールだったのか?

エムバペの才能に疑いの余地はない。それは過去の実績が証明している。パリ・サンジェルマン時代、ラ・リーガよりランクが下がるリーグ・アンながら、カップ戦を含めるとシーズン平均40点近くを叩き出してきた。ワールドカップではフランス代表の2大会連続決勝進出に大きく貢献している。

1対1から抜け出す時の馬力と技量の水準は、並ではない。平凡なディフェンスとの勝負では、誤解を恐れずに言えば、"サラブレッドと駄馬"のように映る。そしてフィニッシュの精度も、"リオネル・メッシ後"は世界屈指だ。

「現状で得点が増えない(リーグ戦第11節終了時点で6点)のは、マドリードに来たばかりだから。フィットするのに時間が必要」は正論だ。

しかし、ラ・リーガにおいてクラシコでの失態のインパクトは、想像以上である。そこで活躍できなければ、エースと認められない。たとえ、他で20点、30点を決める活躍をしたとしても、だ。

今回のクラシコで、エムバペはあまりにイージーにオフサイドトラップにかかっていた。なんと8回にも及んでいる。バルサが挑戦的ハイラインを敷いてきたのに対し、広大なスペースを走り抜けたが、ことごくタイミングが早く、オフサイドの罠にかかった。酷な言い方をすれば、あまりにイノセントだったと言える。

おそらくは気負いがあり、失敗に焦りが募ったのだろう。それは技術の狂いも生み、シュートも含めて空回りした。極度のストレスがかかっていたのか。

【ストライカーならではの駆け引き】ではなぜ、バルサのロベルト・レバンドフスキは決勝点となる2ゴールを決められたのか。

レバンドフスキは生粋のストライカーだが、すでに36歳になる。「全盛期はすぎた」と言われて久しい。実際、昔ほど腰の強さはないし、俊敏性は確実に落ちた。それでも、勝負どころでゴールを重ねることができている。

その理由は、ストライカーという特殊なポジションで積み重ねた「駆け引きの老練さ」にある。

事実、レアル・マドリード戦の先制点は見事だった。センターバックが一気にオフサイドトラップをかけてきたが、動揺して下がることはなく、冷静に状況を見極めていた。なぜなら、左サイドバックのフェルラン・メンディがまんまと居残っていたからである。

「優れたストライカーは、無邪気にセンターバックとだけ駆け引きしない。必ずサイドバックと駆け引きし、相手の一瞬の隙をつく」は、ひとつの定石である。駆け引きのなかで、ライン全体に乱れを生じさせ、それを見逃さない。レベルが上がれば上がるほど、目の前のセンターバックを出し抜いて一気に裏を抜け出すのは難しいのだ。

もうひとつ、極めたストライカーは、急がない。

レバンドフスキの2点目のシーン。味方の速い攻撃から、勢いをつけて突っ込んでもよかったが、むしろスローダウンしてエリア内へ侵入している。そして自分の前のスペースを開け、そこにクロスを呼び込み、確実にヘディングで叩き込んだ。

圧倒的なパワーも、スピードも要らない。間合い。それこそが、年季の入ったストライカーの点の取り方と言える。

翻って、エムバペはいわゆるストライカーではない。

アタッカーとストライカーは似ているが違う。アタッカーは攻撃的ポジションの総称で、ストライカーは特定のポジションを指す。得点を取る、という役割に特化したストライカーは特別なポジションだ。

レアル・マドリードの2トップとなったエムバペも、あるいはヴィニシウス・ジュニオールも、得点力が高いアタッカーではある。カウンターの先駆けとして、相手に脅威を与えられる。事実、チャンピオンズリーグではドルトムントを"葬った"。だが、ふたりはストライカーではないのだ。

レバンドフスキは「ゴール」という役目を背負い、ストライカーとしてゴールに向かうすべての駆け引きができる。ゴールに近づくためのポストプレー、フィジカルコンタクトで相手選手とやり合う、あるいは相手の攻撃を遮断する献身的ディフェンス。その駆け引きで相手を消耗させ、味方を生かす。ゴールだけでなく、ストライカーの存在感でチームを機能させているのだ。

「エムバペの不調が、マドリードの攻撃の問題を象徴化していた」

フランスの大手スポーツ紙『レキップ』が報じたように、そもそも、レアル・マドリードはチームとして機能していなかった。この2トップは効率的とは言えない。守備の負担を他の選手が負い、プレーメイクでも多くを求められない......。

ただし、ひとつの仮説はある。

レアル・マドリードのカルロ・アンチェロッティ監督は、すべてを承知のうえで、エムバペをトップでプレーさせているのかもしれない。今回の失敗も含めて、ストライカーとして覚醒させる。エムバペなら、最短でその経験を自分のものにし、変身を遂げられるかもしれない。

ともあれ、エムバペは今シーズンのレアル・マドリードの命運を握るだろう。

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