現在開催中の第37回東京国際映画祭(TIFF)で、オープニング作品となった『十一人の賊軍』(11月1日公開)におけるDolby Cinemaの制作過程に迫る特別取材会が10月29日に「LEXUS MEETS…」で開催。白石和彌監督、録音の浦田和治、音響効果の柴崎憲治が登壇し、Dolby Vision、Dolby Atmosの利点について語り合った。
【写真を見る】「観てほしいというより体感してほしい」作品に対する熱い思いを語った白石和彌監督
「仁義なき戦い」シリーズを手掛けた脚本家の笠原和夫による幻のプロットを、60年の時を経て「孤狼の血」シリーズの白石和彌監督が映画化した本作。戊辰戦争の最中に起きた歴史的事件を背景に、砦を守る任に就いた罪⼈たちの葛藤を描く。
白石監督は、本作をDolby Cinemaとして撮影した経緯について「ビッグプロジェクトの映画でもあるので、この映画を企画した段階から、東映のプロジェクトチームが『世界へもっていきたい映画』にしたいということで、そうなりました。僕というよりはプロデューサーチームの意向が大きかったです。監督から言いだしたら、嫌な顔をされることのほうが多いので(苦笑)。だからそれを聞いて、お!マジですか⁉となりました」と非常に喜んだとか。
白石監督は浦田、柴崎との座組については「僕はDolby Cinemaで撮るのが初めてでした。お二人には僕のデビュー作の時からずっとお世話になっていて、音の設計はお二人から学んでいるので、お二人がどういうDolby Soundにするのかを見てみたいと思いました。天井にスピーカーがあると、どういう音になるんだろうとか、興味のほうが大きかったです」と語った。
浦田は「最初からDolby Cinemaでいくってことで、現場で想定してやっていきました。賊軍が11人なので、助手だけで5人必要で、マイクの数も圧倒的に多くなります」と言うと、柴崎も「俄然、トラック数が多いんです。雨のシーンだと、ベースの雨を何種類か引いたり、人が動くと雨も動くので、かなりの時間と手間がかかる。ただ、音が動くぶんだけ、効果音を作る人間としては楽しいんです」とうれしそうに語る。
白石監督も「いい意味で音に包まれているので、自分のなかで、このタイミングでこのシーンで、なにを聞かせるべきかという選択が難しかったです。より見た目に近い表現をどこまでできるのかと、カメラ、照明を含めて、一番やりたいことを考えながらやっていきました。表現の幅が広がるぶん、なにを見せるかを考えなければいけない。映画のなかでできることが追いつかないくらい広がっていきます」と苦労も明かした。
戦闘シーンについては柴崎が「低い音はある程度、リミッターを抑えながらやってます」と言う。白石が「スピーカー、壊したことってありますか?」と聞くと、柴崎は「何度か(苦笑)。無茶しすぎたんです。劇場から文句を言われました」と告白。
また、白石は、柴崎と浦田との仕事について「このお二人のすごいところは、音をなくすタイミングをどこにするかという点です。音がないタイミングは、映画のなかで1つの大きな武器になります。その間引いた瞬間がすごいと僕は思っています」と、彼らを称える一幕もあった。
続いて白石は、今回初めてDolby Cinemaを手掛けたことについて「一度これをやってしまったら、5.1chに戻れるかなあと。きっと物足りなくなっちゃう気がします。でも、劇場すべてDolby Cinemaではないので」と言うと、浦田も「すべてがDolby Cinemaになってほしい。いまは1割しかないので、2 割、3割までいってほしいです」と切望する。
浦田が続けて「僕は次に、しっとりしたやつをやりたい」と言うと、白石監督が「じゃあ、それは僕じゃないかもしれない」とツッコミを入れつつ「そうか。しっとりしたものも、より表現がよくなるのか」とうなずく。
浦田が「Dolbyだと環境音がすごくいいんです」と言うと、柴崎も「そう。音を大きく出すことだけじゃない。Dolbyは音の奥行きがあるんです。街中を歩くシーンなどでは、いろんなものが通り過ぎていく。そういう地味なところもいいです」とその魅力を再確認したという。
最後に、今週末に公開される『十一人の賊軍』について、白石監督は「大型大作時代劇でもあるので、どう楽しんでもらおうかと。“侍タイムスリップ”じゃないけど、この映画でもタイムスリップしてもらえるように、現状できることをやりつくした作品なので、たくさんの方に観てほしいというよりは、体感してほしい。体感すると、だいたい『十二人目の賊軍になりました』と言ってくれるので、ぜひそうなってほしい」としっかりアピールし、イベントを締めくくった。
取材・文/山崎伸子
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