是枝裕和監督、審査員を務めたカンヌグランプリ作を「とても愛した」インドのパヤル・カパーリヤー監督と対談

パヤル・カパーリヤー監督と是枝裕和監督

是枝裕和監督、審査員を務めたカンヌグランプリ作を「とても愛した」インドのパヤル・カパーリヤー監督と対談

10月29日(火) 20:45

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東京国際映画祭と国際交流基金の共催企画「交流ラウンジ」で10月29日、是枝裕和監督の招きに応じ、インドのパヤル・カパーリヤー監督が来日し、対談が行われた。

カパーリヤー監督は、「何も知らない夜」(2021)で昨年の山形ドキュメンタリー映画祭大賞、そして新作で長編第2作の「All we imagine as light」が今年の第77回カンヌ国際映画祭でグランプリ受賞と世界が注目する新鋭だ。

カパーリヤー監督が受賞した第77回カンヌ国際映画祭で審査員を務めた是枝監督は、「カンヌの審査のディテールは話してはいけないという誓約書にサインをしているので、詳しくは語れないのですが……」と前置きし、まずはカパーリヤー監督のこれまでキャリアや映画製作について様々な質問を投げかけた。

「All we imagine as light」は、インドの大都会ムンバイでたまたまルームメートとなった世代の異なる女性2人の物語だ。カパーリヤー監督は、「(インド南部の)ケララ州出身の女性がムンバイに来て、ルームメイトになった女性との間に友情が生まれます。ひとりは40代、もうひとりは20代中盤。それぞれがかなわない恋愛をしています。この映画は友情の話であり、自分の家族を探す話です。インドの家族関係は複雑で、サポートもしてくれるのですが、足かせにもなることもあります。この映画では、自分自身が友情で家族を形成する、そういう話です」と紹介した。

是枝監督は「この作品をとても愛したんです」と思い入れを告白。「登場人物が置かれた状況はシビアですが、登場人物も作家も語り口が穏やかで、声高にならない。すべての登場人物に監督のシンパシーや愛情を感じて、(カンヌコンペ作品のなかで)際立っていた。様々な状況から闘う映画や声高な作品が多くあったなかで、この作品が一番語り掛ける力が強かった」と評した。

カパーリヤー監督は、画家である母親の影響で、幼いころから視覚芸術や様々な映画を観る機会に恵まれ、アーティストの親への反発心を持つ時期を経ながら、おのずと映画、映像の世界を目指し、助監督として5年働いた後、インドの国立映画学校に入学したという。世界的な人気を誇るボリウッド映画などを筆頭に、映画が国家的な産業であるインドだが、映画学校卒業生でもインディペンデント作品で成功することは難しく、カパーリヤー監督の長編作はフランスからの支援を得て製作されたと明かすなど、現在のインド映画界や自身の状況について話した。

さらに、是枝監督は「All we imagine as light」で注目したカパーリヤー監督の“声高にならない”音の用い方や録音などについて問いかける。

「私にとって音は一番身体的な影響を与えるものだと思っています。映画はそれほど声高でなくてもいいと思うのです。映画館では静かに話しても伝わりますし、耳の近くで優しくささやくような声を捉えたいのです。引きの画でも、声は近くで聞こえる――それが映画の素敵なところです。声で親密さを表せると、登場人物との距離も近くなります。物理的に近くなくても、声は親密に、優しくささやく感じで撮りたいのです。映画はそれが可能で、選択できるのが私の楽しみで喜びなのです」とこだわりを語った。

物語の中でインドの社会問題を提示していくカパーリヤー監督の作風を「語り口が静かですが、哲学は揺るがないものがある」と是枝監督。「インドの学生運動や政治状況を意識していました。歴史を悪用せずに正しく捉える、そういった考えを敢えて映画に入れました」とカパーリヤー監督は述べ、「大がかりな映画ではなく、小さい日々の日常に感じるものを描きたい」と自身の作品のスタンスを語る。

そして、映画学校時代に読んだ、川端康成の短編集「掌の小説」から感銘を受け、「簡潔にシンプルに日常のことを描いているのに、不安や歴史や現実や幸福がたった数段落に込められていました。短い物語の中で、自由になっていいと感じたのです。このように、シンプルであり、重層的に物事を考えるアプローチをとっています」と自身の語り口について説明した。

また、この日は世界各国のジャーナリストから、インド社会における女性の在り方、多言語、多民族国家であるインドでの言語についてなどさまざまな質問が寄せられた。また現代の京都の芸舞妓をテーマとしたNetflixシリーズ「舞妓さんちのまかないさん」を演出した是枝監督も、男性監督として女性を描くときにどのような配慮があったかを問われ、「アップデートしていかないと、間違うことがしばしばあるので注意しなければならない」「取材での自分の発見も含めて、(舞妓の)彼女たちをどう未来につなげるように描けるかチャレンジした。今後もあくまで男の監督として、どのような女性の描き方が可能なのか考えていきたい」と話す。

その話題から、是枝監督は再びカパーリヤー監督の「All we imagine as light」で描かれたテーマに言及し、「日本人が想像しなければいけないのは、身分制度を超えての結婚。インドでは宗教や地域の違いが日本より大きく女性にのしかかっている。(『All we imagine as light』の)語り口は柔らかいですが、ストレートにきちんと描かれている。しかし、日本の場合は(その問題が)見えにくくなっている。それをどうやって話していくのかを考えなければ」と自身に言い聞かせるように語る。

カパーリヤー監督も「インドではジェンダー、階級などの中にも様々なアイデンティがあり、不平等もあるので、自分が特権を持っているかもしれないという意識を忘れてはいけないと思っています。特にインドでは、アイデンティは人と人を大きく切り分けるものとして存在することもある。私はそういう疑問を投げかけながらものを作っています。映画人として常々考えなければと思う」と自身の考えを表明していた。

カパーリヤー監督の「All we imagine as light」は、2025年7月に日本で劇場公開される。

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