10月28日(月) 4:50
アメリカで広がった「静かな退職」は、コロナ禍を背景に、日本にも大きく影響を及ぼしました。経済が混乱するなか、将来に不安を持つ人が増えたためです。
多様化した現代では、働くことへの考え方も多様化しつつあります。人生でもっとも重要なものが仕事であると考えてがむしゃらに働くハッスルカルチャーから、静かな退職へと時代が移り変わってきています。
そこで、静かな退職とはどのような状態を指すのかを考えてみましょう。
静かな退職とは、実際に職場を退職することではありません。「退職の意志を持った社員」のように働くことを指す言葉です。つまり、最低限の仕事しかしないと割り切った働き方のことをいうのです。
Great Place To Work(R) Institute Japanの調査では、35歳以上の69.2%が静かな退職を実践していることが分かりました。
表1
静かな退職を実践した年代 | 割合 |
---|---|
20~25歳 | 12.4% |
26~34歳 | 18.3% |
35~44歳 | 27.8% |
45~54歳 | 23.1% |
55~59歳 | 18.3% |
出典:Great Place To Work(R) Institute Japan「静かな退職に関する調査2024年」より筆者作成
静かな退職を実施している人のうち、約4割の人が「勤め先の環境が変化しても働き方は変わらない」と回答しています。
ワーク・ライフ・インテグレーションとは、ワーク・ライフ・バランスが変化したものです。
コロナ禍において、ワーク・ライフ・バランスの課題が浮き彫りとなりました。個人の幸福感を満たすため、仕事と生活のつり合いを取ろうとするワーク・ライフ・バランスでは、自助努力に限りがあります。
そこで、仕事とプライベートを統合させて相乗効果を生み出す、ワーク・ライフ・インテグレーションが広がりました。個人の努力では実現できないバランスを、可能な限り個人のニーズに合わせ、企業や政府が補填する支援方法です。
幸福感や充実感を満たす働き方が現代では重視されつつあります。仕事と生活の相乗効果を考える人が多くなったことも、静かな退職が広がっている理由と考えられます。
静かな退職を選ぶ理由として、日本企業独特の風潮が考えられます。
ここでは、昇進のチャンスを逃してまで静かな退職を実行する理由について、考えてみましょう。
日本企業では、以下のような昇進・昇格チャンスがあります。
●年功序列制度
●業務の遂行能力を評価する職能資格制度
●年に一度の定期昇給
どの昇進や昇格も受動的であることが、海外の企業との大きな違いです。
先進国では「ジョブ型雇用」が一般的で、退職によって空いたポストには実務経験者を雇用します。公募が行われ、キャリアアップを目指す社員自身が手を挙げることで昇格チャンスを掴み取ります。
一方、日本では上司の推薦や人事評価などによる会社の打診が昇進・昇格のチャンスとなります。つまり、日本企業には、管理職昇進を待つ社員の列に並んだうえで、ところてんのように押し出されて昇進するときを待つ風潮があるということです。
株式会社パーソル総合研究所では、2022年に「管理職の異動配置に関する実態調査」を実施しました。
調査によると、課長への登用は標準で40歳、若ければ30代半ばが相場となっているようです。驚くべき点は、2割の企業で課長という役職の旬や定年までの年数などを背景として、課長昇進には登用年齢上限を設けていることです。
企業によって昇進率はさまざまですが、勤める企業によっては昇進チャンスを手にできない人も少なくないでしょう。そのため、昇給を目指すモチベーションは下がり、静かな退職を選ぶ人が増えていると考えられます。
「静かな退職」は、最低限の仕事だけをこなし、昇進や給与アップを積極的に目指さない働き方です。
人事評価の面から考えると、確かに昇進や昇格に影響を及ぼす可能性はあります。一方で、プライベートを充実させるために昇進を考えず、静かな退職を選ぶ人が増えていることも事実です。
株式会社働きがいのある会社研究所 Great Place To Work(R) Institute Japan 静かな退職に関する調査2024年
株式会社パーソル総合研究所 管理職の移動配置に関する実態調査
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
ファイナンシャルプランナー
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