古くから「ゴミ屋敷」の問題は多く人の知るところだが、コロナ禍に端を発した在宅率の高まりに伴い、昨今増加傾向にあるという。実は、ゴミを溜めてしまう人の約60%は女性らしい(※ゴミ屋敷バスター七福神調べ)。プライベートがつまびらかになってしまうため、業者とはいえ男性を部屋に入れることに二の足を踏んでしまってもおかしくない。
だからこそなのか、女性スタッフが多く活躍する清掃業者「ゴミ屋敷バスター七福神」(以下、七福神)が注目を集めている。同社の常務取締役である田中義彦氏と、作業スタッフの林真由美氏に話を聞いた。
ここ最近、ゴミ屋敷が増加した理由は…
コロナ禍以降、ゴミ屋敷化してしまう家が増えたというが、その背景には在宅率の向上だけではなく、ショッピングスタイルの変化の影響もあるらしい。
「今はネットで簡単に物が買えてしまうので、ゴミや物が増えやすくなっています。昔は、買い物をするなら出かけないといけませんでしたが、在宅で完結しますから」(田中氏)
片付けを依頼するきっかけは、自身の不快感以上に、他者であることが多いようだ。
「火災報知器や、ガス検知器の点検で、業者さんが自宅に入ることになったタイミングで依頼をいただくことが多いですね。それから、近所の方や大家さんにニオイのクレームを入れられてという方もいます」(林氏)
女性のゴミ屋敷にはどんな特徴があるのか
実際に片付けに出向き、女性のゴミ部屋ならではの特徴などはあるのだろうか。
「女性の場合、服が多いのが特徴ですね。着たい服が見つからなくて同じようなものをまた買って、また失くすというループに陥っている状況をよく見かけます。もしかしたら、買い物依存症なのかもしれませんね」(林氏)
ときには生理用品などが出てくることもあるようで、男性スタッフを避けたくなるワケは理解できる。しかし、女性スタッフを指定する理由は他にもあるようだ。
「そもそも男性が自室に入ること自体に抵抗のある方が多いです。また、『男性が怖い』という理由の方もいらっしゃいまして、申し込みの電話対応さえ女性を希望されることもあります」(林氏)
「新品の服や雑貨」が積み上げられていた…
そうした要望に寄り添いながら、数々の女性のゴミ屋敷を片付けてきた林さん。珍しいものが見つかった現場についても聞いてみた。
「こないだは『推しが変わったので』とおっしゃって、前に推していた人のグッズを全部捨てたいという方がいましたね(笑)。あるアイドルグループのメンバーのものを大量に回収しました」
ゴミの散らかり方ひとつとっても、個性が出る珍しい現場にも遭遇したそうで……。
「ゴミではなく、新品しかない部屋ですね。8畳くらいの部屋中に物が積み上がっているんですが、全て新品の服や雑貨なんです。それでも『いらないので捨ててください』と……。あとは、カップ麺や豆腐の空き容器をキレイに積み重ねて天井までの柱が立ち上がっていたケースもよく覚えています」(林氏)
積み上げる几帳面さがあるならば、ゴミ屋敷にならないようにも思えるが、田中氏によれば、ゴミ屋敷の背景には「だらしない」だけでは済まされない事情があるという。
「精神的に通常ではない状態になっている方が多いです。普通なら、ゴミはゴミ箱に入れてそれがいっぱいになったらゴミ出しをします。それができないということは、心の病を抱えていらっしゃるのではないかと思われます」(田中氏)
ゴミの中にあった名刺を見つけた依頼者
積み重ねてきたゴミの山は、住人の生活と人生の積み重ねの結果でもある。そこを片付けるとなると、住人の過去を垣間見ることになり、身の上話が始まることも。
「ある方は、ゴミの中から出てきたものを見て『この時までは頑張っていたんだけどね』と、語り始めました。聞いてみると、会社でパワハラを受けて鬱になって辞めてしまったそうなんです。続けて片付けていたら、その方の名刺が見つかり、実は役職がついていたことがわかったりして。片付けたあとに、その方が『これで心機一転、また頑張れそう』と言ってくれたのは嬉しかったですね」(林氏)
ゴミ屋敷バスターに転職したワケは…
ゴミ屋敷バスターといえば、力仕事ということもあって男性が多く働く職場のイメージだ。林さんはなぜ、そんな業界で働き始めたのか。
「以前、エステで働いていたんですが、コロナでお客様がほとんどいらっしゃらない時期がありました。その時にひたすらやっていた掃除にやりがいを感じまして。これを仕事にしても良いんじゃないかと想い、転職の際に清掃業者を探しました」(林氏)
しかし、もちろん楽な仕事ではない。
「狭い場所で作業しなければならなかったり、階段を何度も昇り降りしたり……大変さは、みなさんのイメージ通りかもしれません。あとは、物を動かしたら虫が大量に出て来たりとか、何かの卵やサナギのような生き物に出くわしたり、ネズミが飛び出して来たりしますね。大きなものを抱えようとして、奥に手を入れたらそこがシロアリだらけだったこともあります。他の女性スタッフは、片付けている最中にゴキブリが腕を登ってきて、服の中に入ったと言っていました」(林氏)
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大変さは当然ありつつも、作業後に依頼主に喜んでもらえるのが嬉しいと林さんは微笑む。ゴミ捨てや掃除といったルーティンの家事も、一度歯車が狂うと途端に億劫になってしまう気持ちは十二分に理解できる。自分一人の力では、にっちもさっちもいかなくなったのであれば、プロの手を借りてみるのも悪くない選択肢なはずだ。
<取材・文/Mr.tsubaking>
【Mr.tsubaking】
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。
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