10月27日(日) 9:10
任意後見制度は成年後見制度の種類の1つと説明しましたが、認知症がすでに始まっている方では利用できません。ただ、「〇月〇日から認知症になった」という線引きはなかなかできませんから、目安としては、本人がしっかりと物事の判断ができ、契約書の内容が理解できる程度であれば利用は可能だと考えてください。
任意後見制度は、将来判断能力が不十分になったときに備えて、あらかじめ後見人や後見内容について契約で定めます。ただ、認知症になる前に,任意後見の前段階のお仕事を依頼するという使い方ができます。
どのような内容を依頼するのかは本人しだいです。一般的な内容は、定期的な面談や行政機関への届け出など、本人から委任を受けた範囲内での仕事となりますが、疑問があれば、公証人連合会のホームページにもQ&Aが挙がっていますので参考になるでしょう。
法定後見制度では、すでに本人の判断能力に問題があるので、財産管理や契約内容の方針を一緒に決めることはできませんが、任意後見制度についてはご本人の希望を聞きつつ、カスタマイズした内容を契約事項に盛り込むことができ、判断能力が衰えるまでに備えることもできます。日常生活に支障が出て、いきなり始まる法定後見制度と異なるのです。
任意後見人になってもらう方や契約内容がおおよそ決まった後の、任意後見制度を利用する流れを見ていきましょう。
法定後見は「家庭裁判所に申し立てをする」準備から始めますが、任意後見制度はまったく進め方が異なります。任意後見制度の利用には、「任意後見契約を公正証書で作ること」が必須です。任意後見契約は、家庭裁判所が「任意後見監督人を選任」したときから効力が生じます。
ただ、認知症になる前から任意後見受任者として、契約内容に沿った仕事をして,定期的に様子を見る「移行型」の契約を結ぶことが一般的です。そうすると、前提として、任意後見契約が効力を発する前に、「委任契約」を結び、定期的なお付き合いを続けながら本人の判断能力を確認していくことができます。
公証役場以外の作成方法、たとえば任意後見になってくださる方と2人で2部ずつ手元に置くような契約書、もしくは口頭で、「なんかあった場合にはよろしく」と伝えるだけでは任意後見契約として認められません。任意後見契約公正証書の作成費用としては1万1000円、登記嘱託手数料1400円、登記所に納付する印紙代2600円などがかかります。
遺言書のように、財産の多寡で金額が変わるわけではありません。
ただ、後見人の費用も考慮しなくてはなりません。家庭裁判所が後見人の報酬を決定する法定後見とは異なり、任意後見の場合には、話し合って納得した金額を契約書に報酬として記載します。契約書を作成する時期から寿命などを考慮して、本人の財産で支払える金額を見積もる必要があるでしょう。
任意後見受任者となっているときですが、本人の認知機能に問題がないですので、法定後見のように本人の代わりとしてすべて代行できるわけではありません。内容によっては本人に委任状を書いていただくことが必要なケースもあります。
移行型の場合、できるだけ本人の希望を聞きつつ、本人ができることを減らさないということも大切なことです。できること・できないことを話し合いつつ、法定後見とは違うということを覚えておいてください。
契約書を公証役場で作成するなど、利用するハードルは高いと感じることもあるでしょうし、「任意後見受任者」や「任意後見監督人」など、聞きなれない言葉を理解するのも大変です。ただし、自分の意思でさまざまなことを決定できる制度ともいえます。
任意後見契約が始まる前に、見守りから始める契約を結んだときに、「任意後見人」ではなく、「任意後見受任者」という立場となります。
この立場では、本人の認知機能に問題ありませんから、法定後見のように本人の代わりとして買い物を取り消すなど、なんでも代理ができるわけではありません。依頼された内容によっては、本人に委任状を書いていただくことが必要なケースもあります。
成年後見制度は、万能な制度ではありません。安易な利用をしてしまうと、「こんなつもりではなかった」と後悔することもある、かなり複雑な制度です。まずは、どんな問題を解決するために、この制度を利用したいのか、しっかりと理解をしたうえでの利用とすることをお勧めします。
最近はさまざまなサイトでも情報発信がされています。厚生労働省でも「成年後見はやわかり」というサイト(※)で、動画や資料もダウンロードできます。ぜひ参考になさってください。
(※)厚生労働省成年後見はやわかり任意後見制度とは(手続の流れ、費用)
執筆者:當舎緑
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。
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