朝ドラ『おむすび』賛否あるが…26歳俳優の演技が”マツケンの名演”にも負けないと言える理由

朝ドラ『おむすび』賛否あるが…26歳俳優の演技が”マツケンの名演”にも負けないと言える理由

10月26日(土) 8:46

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橋本環奈主演の『おむすび』(NHK総合)がどうも不評らしい。これを逆張りだと思わないでもらいたいが、ちゃんと作品の細部を見たら魅力的なところはある。

その細部をけん引するのが、佐野勇斗である。わずかな動作によって映像的な効果をうむ様は、前作の朝ドラ『虎に翼』の松山ケンイチに匹敵するかもしれない。

イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、松山ケンイチの微動に匹敵するかもしれないと感じる本作の佐野勇斗を解説する。

微動を追う朝ドラの面白さ



前作の朝ドラ『虎に翼』で最終的に最高裁判所長官になった桂場等一郎を演じた松山ケンイチの何が素晴らしかったか。ひとり室内でいるときのわずかな動作だけで不動の演技を一貫させていたことである。

第22週第108回、主人公・佐田寅子(伊藤沙莉)が提出した意見書を元あった位置にそろりと微動させるなど、松山による動作の数々を見て、あぁそうか、俳優の微動を追う朝ドラの面白さがあるのかと筆者は膝をうった。第1回から最終回までほんとに一度もぶれずに松山は微動だけで視聴者を画面に注視させ続けた。

では今回の朝ドラ『おむすび』はどうか。前作とのあまりに単純過ぎる比較論によって世間から不評を買っているこの作品にも、そうした魅力的な微動は探せばちゃんとある。

前作の松山ケンイチに匹敵する存在?



すでにベテランの域にある松山からぐっと若い才能がそれを実践し始めている。橋本環奈演じる主人公・米田結と度々遭遇する他校のスーパー球児である四ツ木翔也を演じる佐野勇斗だ。

初登場は、松山同様に第1回。海辺で釣りをしていた少年たちのひとりが帽子を落としてしまい、結がすかさず海に飛び込む場面。結が溺れていると勘違いした翔也が、野球ユニフォーム姿で「今助けっぞ」とどぼんと海中に飛び込んでくる。

「つかまれ」としきりに助けようとする翔也に対して、結が「なんで」と平常心でやり取りするのがおかしい。この熱血漢と結との間にはたえず温度差がある。その絶妙な距離感が、『虎に翼』の寅子と桂場とのデコボコな関係性と似ていなくもない。これはもしかするともしかするのかもしれない。本作の佐野が前作の松山に匹敵する存在となるのか?

『おむすび』にも微動がある



少なくとも微動の観点から見ると、本作の佐野にも十分な健闘が期待できそうである。第2週第9回、再び海辺で遭遇する翔也の左側に注目。「ここは俺のランニングコースだ」という翔也のユニフォームの左袖が海風になびく。

実家が農家である結の祖父・米田永吉(松平健)から廃棄分のトマトをおまけで多めにもらったお礼といって、翔也が「すぐ戻ってくっから、ちょっと待ってろ」とひるがえって何かを取りに帰る。待ちくたびれた結が帰ろうとする。そこへ翔也が戻ってくる。

引きの画面。奥から翔也が走ってくる。画面下手側は海。停泊する船が二艘、海風に吹かれてゆらゆらゆれている。ここにも画面上に微動がある。翔也が、トマトに対して出身地である栃木のイチゴをどっさり箱で赤色返しするのも主題的にうまく統一されている。

左側ではなく右側……



まだまだ他にもある。第3週第15回、またしても結と翔也は海辺で鉢合わせる。結は「こわっ、ストーカー?」と思わず言う。翔也がビニール袋で渡してきたのもやっぱりイチゴの箱。どんだけ常備しているんだよ。

栃木弁の「べ」の語尾がやたらなまっているキャラクター性といい、何だか突っ込みどころ満載の愛すべき人物なのだが、それでもこのイチゴと微動という外面性では常に一貫していてわかりやすいキャラクターでもある。

自分だけが夢を持っていないことに漠然と悩み、浮かない顔をしている結に「どした?」と一瞬だけ少し訛りが抜ける翔也のセリフがいい。ここでさらに微動の注目ポイント。今度は左側ではなく右側……。

佐野勇斗は意図的ではないということ



海風が結にも吹き付ける。前髪がぐわっと吹きあがる。対する翔也のユニフォームの右袖、さらにその下に着ている黒いアンダーシャツがやたらとなびいている。とても気になる。

単に撮影現場が海辺で、風がちょっと強いことから偶然、佐野の袖あたりが風になびいているだけなのだろうが、いやでも何かそれ以上の映像的な効果がうまれている。つまり、(海風は自然のもだから当たり前だが)佐野勇斗にとっては意図的ではないということ。ここが重要である。

『虎に翼』の松山ケンイチは、第1回から意識的に動作を行い、最終回へ向け、細やかな動作(微動)へと極めていた。対する『おむすび』の佐野勇斗は、たぶんまだ無意識のレベル。これが演出意図と噛み合いながら、意識的になった途端、本作はぐっと見ごたえある作品になると思う。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu

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