1990年代後半〜2000年代にかけて、つぶらな瞳の甘いマスクと顔に似合わぬ190cmの鍛え上げられたボディを武器に、ハリウッドスターとして活躍していたジョシュ・ハートネットの名前を覚えているだろうか?
【写真を見る】主演最新作『トラップ』が公開!ジョシュ・ハートネットのキャリアを振り返る
ハリウッドきっての美男子として多くの作品に出演しながらも、順調なキャリアの半ばで突如として表舞台から姿を消したハートネットにとって久々のメジャー主演作『トラップ』が公開中。近年また目にする機会も多くなった彼が歩んだユニークな道のりを振り返っていく。
■甘いマスクのイケてる高校生役で一躍ブレイク!
1990年代後半にテレビシリーズや小さな舞台から俳優としてのキャリアをスタートさせたハートネットは、人気ホラーシリーズの7作目『ハロウィンH20』(98)で、主人公ローリー(ジェイミー・リー・カーティス)の息子ジョンを演じ、スクリーンデビューを果たす。
人間に寄生するエイリアンと高校生たちの戦いを描いたロバート・ロドリゲス監督の青春ホラー『パラサイト』(98)では、イライジャ・ウッドらと共にメインキャストの一人に抜擢。自分で精製したドラッグを校内で販売するストリートワイズな不良生徒で、先生すら魅了してしまうイケメンというおいしすぎるキャラクター、ジークを演じ、抜群の存在感を放った。
さらに70年代のアメリカ郊外を舞台に、美しい5人姉妹と彼女たちに憧れる少年たちの心の機微を描いたソフィア・コッポラ監督『ヴァージン・スーサイズ』(99)にも出演。本作でも学校一の女たらしでマリファナ漬けの不良生徒トリップを演じると、姉妹の一人ラックス(キルスティン・ダンスト)に心奪われる少年の胸中をチャーミングに表現。校内でも一際目立つクールな生徒を立て続けに演じ、瞬く間にスターダムを駆け上がっていった。
■名監督&大スターとの仕事を経験!大作にひっぱりだこの黄金期
2000年代に入るとイケメンスターとして大作に引っ張りだこに。真珠湾攻撃を題材としたマイケル・ベイ監督の『パール・ハーバー』(01)ではベン・アフレック演じる主人公レイフの幼なじみで親友のダニーを演じ、映画の大ヒットにより知名度をグッとアップさせていく。
さらにソマリアで起こったモガディシュの戦いをリドリー・スコットが描いた『ブラックホーク・ダウン』(01)では主演に抜擢。持ち前の甘い雰囲気を封印し、ソマリア民兵が絶え間なく襲いかかる熾烈な戦場を仲間と共に必死にサバイブしようとする兵士を熱演し、それまでの華やかなイメージを覆すようなタフな役どころで新たな魅力を開花させた。
その後もハリソン・フォードと共演した『ハリウッド的殺人事件』(03)やブライアン・デ・パルマ監督の『ブラック・ダリア』(06)、ブルース・ウィリスとコンビを組んだ『ラッキーナンバー7』(06)などハリウッドの大物たちとの仕事を次々と経験。全盛期と呼ぶにふさわしい華々しいキャリアを築いていった。
■キャリアの絶頂期にハリウッドからフェードアウト…
ハリウッドドリームを掴んだハートネットだが、全盛期を迎えると同時にハリウッドでの出演本数が徐々に減っていき、2012年にはついに出演が途絶えることに。なにがあったのかと思いきや、あるインタビューで「精神を病むギリギリのところだった。仕事に人生を奪われたくなかった」と語ったように、ストーカー被害など有名になったことでメンタルを脅かされる経験をし、ハリウッドと距離を置いて故郷のミネソタ州を拠点に仕事をしていたそう。
この時期にはスーパーマンやスパイダーマン、クリストファー・ノーラン監督の『バットマン ビギンズ』(05)のバットマン役といった超ビッグなオファーもあったが、スーパーヒーローとしてその後のキャリアを送ることを嫌い、断ったことを明かしている。また『ブロークバック・マウンテン』(05)でもホアキン・フェニックスと共に主演を務める予定だったが、『ブラックホーク・ダウン』や『ブラック・ダリア』との撮影の兼ね合いから叶わなかったそうだ。
■キムタク、GACKTらと共演!日本関連の作品にも多数出演
そんなハートネットのキャリアにおいて、日本との縁がなにかと深いという点もユニークなところ。トラン・アン・ユン監督がメガホンを握った2009年の『アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン』では、殺人の記憶に苛まれる元刑事を演じ、傷を癒すことができるという青年シタオを演じた木村拓哉と共演を果たしている。
さらにその翌年に出演したのが日本の古典芸能である文楽にインスパイアされた『BUNRAKU ブンラク』(10)。ウディ・ハレルソン、ロン・パールマン、デミ・ムーアといった豪華俳優陣のなか、核戦争後の世界を放浪する流れ者の主人公を演じ、街を牛耳る男に挑むために共闘するという役どころでGACKTとも共演している。
それだけにとどまらず、2017年には英会話の講師に恋をしたOLが巻き起こす騒動を描いた日米合作の映画『オー・ルーシー!』に出演。寺島しのぶ演じる主人公を魅了するハグ好きな講師のジョンを演じ、どことなく胡散臭さも漂うユニークなキャラクターをチャーミングに演じてみせた。
■ハリウッドにカムバック!最新作ではサイコな殺人鬼に…
2010年代はハリウッドから離れ、小規模な作品への出演が続いたが、2020年代になるとメジャー作品へカムバック。現金輸送車襲撃事件を描くガイ・リッチー監督の『キャッシュトラック』(21)ではジェイソン・ステイサム演じる主人公になにかと突っかかる警備会社の同僚を演じ脇役ながら輝きを放つと、同じくリッチー監督のスパイアクション『オペレーション・フォーチュン』(23)では情けない映画スター役をコミカルに演じ、復活を印象づけた。
また『オッペンハイマー』(23)では、オッペンハイマー(キリアン・マーフィー)のバークレー校での同僚である実験物理学者アーネスト・ローレンス役で出演。かつてオファーを断り後悔したというノーラン監督作品への出演がついに実現することになった。
近年は脇役が多かったハートネットにとって久々のメジャー作品での主演となったのが、家族思いの父親が世間を騒がすサイコな切り裂き魔だった――という設定が興味をそそるM.ナイト・シャマラン監督最新作『トラップ』だ。
愛する娘ライリー(アリエル・ドノヒュー)のために、彼女が夢中の世界的歌姫レディ・レイヴン(サレカ・シャマラン)が出演するアリーナライブのプラチナチケットを手に入れたクーパー。3万人の観客の熱狂に応えるようにライブはスタートするが、会場には異常な数の監視カメラと多数の警察官が配備され、この事態をクーパーは怪しく思う。指名手配中の切り裂き魔についてタレコミを受けた警察がこのライブに罠を仕掛けたことを、口の軽いスタッフから聞きだしたクーパー。だがそんな彼こそが、世間を騒がす残虐な殺人鬼だった…。
『シン・シティ』(05)での殺し屋役くらいで悪党を演じた経験はほとんどないハートネットにとって、挑戦となった今回のクーパーというキャラクター。
インタビューでも「私の仕事はクーパーの頭の中に入り込み、彼の視点からすべてを感じ取ること。たとえ彼が救いようのない人間だったとしても、彼に好意的な解釈をしないといけない。だからこういう人についての本をたくさん読んで、なぜこういう人になるのか、できるだけ理解しようとした」と語るように、しっかりとしたリサーチを経て撮影に臨んだそう。
娘を溺愛する優しい父の顔と影を感じさせる殺人鬼という一面、どちらに偏りすぎることなく演じることを意識したそうで、繊細なバランスでキャラクターに深みを与えている。持ち前の端正なルックスは、優しい顔と不気味な表情どちらにも説得力を与えており、まさにハマり役といったところだ。
ハリウッドの地から一度は離れながらも再び最前線に戻り、40代にしてイメージを覆すようなチャレンジングな役どころで新境地を開拓しているジョシュ・ハートネット。円熟味を増した彼が今後どのような作品に名を連ねるのか?『トラップ』での演技に注目しつつ、さらなる活躍に期待したい。
文/サンクレイオ翼
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