【写真を見る】八犬士を生み出した里見家の娘、伏姫(『八犬伝』)
MOVIE WALKER PRESSスタッフが、いま観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画「今週の☆☆☆」。今週は、「八犬伝」の世界と原作者の実話が交錯するエンタテインメント大作、“シングルライフ“探しをする男女を描くラブストーリー、ブルーベリーパイの材料を探す3人組の冒険を描くアドベンチャーの、ワクワクする3本。
■役所広司がほとんど動かない主人公の内面を見事に表現…『八犬伝』(公開中)
山田風太郎の同名小説を、曽利文彦監督が映画化した『八犬伝』。これは、28年もの歳月をかけて大河伝奇小説「南総里見八犬伝」を完結させた、江戸時代の読本作家、滝沢(曲亭)馬琴の生涯を【実の世界】とし、彼が創造した「八犬伝」の波乱に富んだ物語を【虚の世界】として描く、約2時間半のエンタテインメント大作である。
長大な原作を曽利監督がどう料理するのかと思ったが、主なエピソードを完全網羅したのには恐れ入った。里見家の呪いを解くため、八つの球に導かれて集まった八人の剣士の運命を描く【虚】のパートは、超絶アクションとVFXを融合させ、さらには八剣士には鮮やかな極彩色の衣装を着せるなど、リアルから飛躍した虚構の面白さを存分に見せてくれる。対して愛する息子を病が襲い、自分も失明の危機に陥っていく、馬琴の人生を映しだした【実】のパートは、彼の苦悩と物語完結への執念を重厚に描いていて、豪華絢爛な【虚】の部分と、人間ドラマの【実】の部分が絶妙のバランス。馬琴役の役所広司は『PERFECT DAYS』(23)での物言わぬ演技も良かったが、今回は「八犬伝」を書く書斎で日々を過ごす、ほとんど動かない主人公の内面を見事に表現している。動かない馬琴と、画題を求めて漂泊する内野聖陽演じる友人の浮世絵師、葛飾北斎との対比も面白い。馬琴と北斎の関係に興味を持たれた方には、先ごろ亡くなった西田敏行が馬琴を、緒形拳が北斎を演じた新藤兼人監督の『北斎漫画』(81)もおすすめだ。(映画ライター・金澤誠)
■韓国の出版業界の日常が垣間見える…『シングル・イン・ソウル』(公開中)
ここ数年で“おひとりさま”文化がすっかり根付いた韓国、ソウルを舞台に、充実した独身生活を送ってきた作家と編集者が本作りを通して距離を縮めていく姿をスタイリッシュに描くラブストーリー。
『ハッピーニューイヤー』(22)などの映画やドラマで活躍し“ツンデレ”イメージの強いイ・ドンウクが他人を寄せ付けずに生きる塾講師ヨンホ、『僕の妻のすべて』のイム・スジョンが仕事以外はどこか抜けたところのある編集者ヒョンジンに扮し、息の合ったやりとりを見せる。書店回りや著者を招いてのブックコンサートといった韓国の出版業界の日常が垣間見られるのに加え、ソウルの中心を流れる漢江や故宮などの風景も美しい。ヨンホと元恋人とのエピソードの中に日本の小説や漫画が登場するのも興味深い。(映画ライター・佐藤結)
■ただ眺めているだけで幸福な気分に浸れる…『リトル・ワンダーズ』(公開中)
10代前半の悪ガキトリオが米ユタ州の大自然のまっただ中をバイクで疾走し、ペイント銃を撃ちまくる。そんなハチャメチャな躍動感に満ちた冒頭シーンからして目を奪われる本作は、このうえなくユニークなキャラクターと世界観に魅了されるキッズムービー。“不死身のワニ団”と称するアリス(フィービー・フェロ)、ヘイゼル(チャーリー・ストーバー)、ジョディ(スカイラー・ピーターズ)の3人組が、ブルーベリー・パイを焼くために必要な卵を入手するため、謎めいた魔女が率いる一味に立ち向かうという物語だ。
16ミリフィルムならではのレトロな質感が魅惑的な映像世界は、アドベンチャー、ファンタジー、コメディ、スパイ映画のエッセンスに友情ドラマが盛り込まれ、ただ眺めているだけで幸福な気分に浸れる。大学でファッションやグラフィックのデザインを学んだウェストン・ラズーリ監督の才気あふれる長編デビュー作。不思議なガジェットや呪文も飛びだし、インディーズ作品ならではの手作り感が微笑ましい1本だ。(映画ライター・高橋諭治)
映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて。
構成/サンクレイオ翼
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